「さて、いよいよだ」
男は組み立てられた本体のグリップにマガジンを差し込み、安全装置を解除させてからスライドを引く。多少緊張しながら最初の一発目を慎重にチャンバーに放り込み、再び安全装置を作動させる。安全装置を作動させている限り撃鉄が落ちる事は無い。
ここで始めて狭い部屋の中を見渡し、自分の右側と右側後方にガラスなどの危険物がないかどうかを確認する。以前、うかつにも大切にしていたコーヒーカップを割ってしまった事があるので、位置決めは特に慎重である。
位置が決まると、わざわざ自分の正面に鏡を配置して自分の姿が映るようにし、鏡の正面で改めてポーズをつくる。
男は鏡に映っている自分に向かい、両手でグリップをしっかりとホールドしてから安全装置を外し、改めて徐々に右手の人差指に力を入れていく・・・・
「パン!」
軽い衝撃音と共に勢いよく飛び出したカートリッジは自分の右側後方に飛んでいった。大丈夫。あらかじめ位置を決めておいてので、その方角に当たって壊れるモノはない。
最初の1発目を成功させた後、連続して用意した全部のカートリッジを全部使用し尽くした。時間にして約10数秒。男は暫く同じ構えを続けていた。手に残る衝撃と、余韻を楽しんでいるのである。
手にした『もの』はスライドがブローバックしたままロックされ、狭い部屋の中は火薬の匂いが立ちこめている。今回は不発やジャムが一度も無かった。
「完璧だ」
その結果に満足した男は、素早く風呂場からお湯を入れた洗面器を持ってきた。部屋の中に散らばった金色のカートリッジを拾い集め、カートリッジ内の燃えカスを取り除き、洗面器の湯の中に沈める。
本体の方も慣れた手順でバラバラに分解され、シリコンオイルに浸した布で部品を一個ずつ包むようにして拭き取っていく。
先程お湯の中に沈めておいたカートリッジを取り出し、乾いた布で水分が残らないように拭き取り、しばらく乾燥させておく。
一通り拭き上げられた部品を再び組み立てると、一旦横に置き、先程乾燥させておいたカートリッジをシリコンオイルで拭き上げる作業に移る。穴の中にこびりついた紙片などはピンセットを使って慎重に取り出す。
掃除が終わったカートリッジをマガジンの中に納め、本体にセットし、もう一度全体に乾拭きをしてから最初の箱の中にそれを納めた。ここまでの所要時間はトータルで約1時間。
男は箱を本棚の上に納めると、その横にある別の箱を取り出した。その箱から別の『もの』を取り出し、手に取って眺めるのであった。・・・
※注:登場する『男』とはいったい誰だとは決して追及してはならない。
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