序章（ガロ＋金）

ガロウ視点ガロ金っぽいもの。

ガロウ編終わった後の二人とだけ認識してくれたら大丈夫です。

書き殴ったので設定はテキトーです。何も考えずに読んでくれると嬉しいです。

村/田先生版のガロ金のつもり。原作の方は途中までしか読んでないので悪しからず。

 

ー序章ー

　初めて対峙したあの頃より幾分かマシになったヤツからの敵意もそこそこに、スレ違い様の言い合いや小言、その他諸々のやりとりまでが一連の流れのように、件の後の俺たちの仲は健全に「喧嘩するほど」を体現していた。

どれほど健全かといったら、風になびいたヤツの短ランの切れ端が少しでも目に入ろうものなら嬉々として声を荒げ、カランッと小気味よく鳴ったヤツの金属バットに反応しては声を荒げ、たまたま居合わせた怪人をヤツと罵詈雑言を浴びせ合い、声を荒げながら倒したりと、エトセトラ。周りからは意外と相性いいんじゃない、なんて言われる始末だが、そんな事は決してない。断じて違う！

「・・・そういや、いつも声荒げてんな俺たち」

バイト先からの帰路。

セミの大合唱をBGMに夕暮れ時の土手沿いを早足で進む。目指すは行きつけのスーパーだ。

中々にハードな肉体労働後にしてはハッキリとした思考の中で、不意にぽろりと溢れた言葉にハッとして辺りを見渡すが、塾帰りらしき学生が数人、前を歩いているだけだ。聞かれちゃいないだろう。まるで俺が、その溢れた内容を残念がっているような声色だった、なんて事に気づくやつは居ない。

何故俺がここ最近のヤツ・・・金属バットとの思い出なんかに浸っていたのかと言えば、まあ、どうやら俺はヤツの事を好ましい人間として認識しているって自覚があるからだった。そりゃ顔を合わせりゃ眉を吊り上げ、メンチを切り合い、お互いの揚げ足取りに勤しみ、そして胸ぐらを掴み合ったところで周りに諭され離される。これをほぼ毎回繰り返す相手に好ましいもクソも無いのかもしれないが。ただ、不意に思う。

（アイツ、俺の前じゃくすりとも笑わねぇ）

真っ先に浮かび上がるのは、下からの睨みを効かせた顰めっ面と、意外とレパートリーの豊富な悪態を吐いてくるニヤケ顔だ。思い出して腹が立ってくる。別に笑いかけてほしい訳じゃねーんだ。そういう性分な男だってのは理解しているし、認めたかないが、俺だってヤツとのこの関係を楽しんでいる節がある。あるんだが・・・。

（はぁ・・・何だかなぁ・・）

たまたま見かけた、ヤツが妹へ向けた溢れるような笑顔が脳裏を過ぎる。

そこまでのモノを俺に向けろとは言わない。だがせめて、そろそろ憎まれ口を叩きながらも小気味よく挨拶を交わす程度の仲になったっておかしかねーはずだ！それをヤロウ、見かける度に絡んできやがって・・・.いや、半分は俺から絡みに行ってんだからお互い様なんだが。

自身のやり場のない葛藤に反吐が出る。だが良くも悪くも、この奇妙な葛藤こそが俺の中での「ヒーロー・金属バット」を形成しているほんの一部分の要約であり、気づいた時にはソッコーで心の奥底へ仕舞い込んだ、本音でもあったのだ。

（なーに真剣に考えてんだか・・・）

後ろでカラスが鳴いた。それには内心でうるせぇ！と返し、夕暮れと夜の境目のようなグラデーションの空を背に、まるでさっきまでの思考を振り切るように激安スーパーまでの道を急いだ。

　少し立て付けの悪い自動ドアを潜れば、特売日特有の空気感がピリピリと漂っている。歴戦の猛者（主婦）たちの戦場であるこのスーパーは、ボロアパートで慎ましい生活を送る俺にとっちゃ非常に有難い場所だ。買い物カゴを一つとり、まずは卵コーナーを目指す。お一人様ひとパックまで！と描かれた黄色いのぼりが目に入り早足で角を曲がった、と同時に鼻先を掠めそうなった人影に思わず足を止める。あぶねーなぁと顔をあげたそこには。

「あ、」

「わりぃ、大丈夫だったっ・・・あン？」

見下ろした先の黒髪に視線が止まる。それは紛れもない、ヤツ・・・金属バットが、買い物カゴを片手に佇んでいた。つい先ほど土手沿いに振り払ってきた筈の御本人登場に、まるでドッキリでも仕掛けられたような感覚になる。ぶつかりそうになった相手を一般人だと思ったのか、少しだけ申し訳なさそうだった眉が、俺だと認識した途端に釣り上がっていく。

「なんだテメェかよ。謝って損したぜ」

10個入りの卵をひとパック手に取りながらいつもの調子で悪態を吐く。声色も態度も普段通りなその様を、俺はどこか気の抜けた気持ちでぽかんと見据えていた。というより、驚きすぎて瞬きすら出来ずに立ちすくんでいた。この時の俺は相当なマヌケ面だったと思う。

「あ？なに見てんだコラ」

怪訝そうな声と同時に、ふわりと黒髪が舞った。真ん中で分かれて横に流された前髪が頬に影をつくり、ヤツの表情を幾分か柔らかくしているようにも感じる。

金属バットといえば、世間的なイメージはそのトレードマークとも言える気合いの入ったリーゼントだ。何時いかなる時も整髪料で固められたソレが、今は何処にも見当たらない。ついでに言えば、お決まりの戦闘スタイルである赤いハイネックシャツも、黒い短ランも着ていない。チラリと盗み見た下履きはいつものボンタンらしいが、上は少しダボついた白いカッターシャツのみだった。しかも半袖。

そういやコイツ、普段はガクセーだったか、と気を取り直して、ついでに落としそうなっていたカゴも持ち直す。

「おっっまえ、雰囲気変わりすぎだろ・・いつものリーゼントはどうしたよ、ついにイメチェンか？」

「アァ？関係ねぇだろ、ほっとけ！」

「つか本当にガクセーだったのかよ！！都市伝説だと思ってたぜ」

「ンなわけあるか！普段から学ラン背負ってんだろーが俺ぁよ！！！」

「こんな所で大声出してんなよ、ヒーロー様がよぉ・・つかそれマジもんの制服？」

「は？おい、何なんだテメェ！今日おかしいぞ！！おい！」

金属バットの身体を色んな角度から眺めてみるも、やはりいつものヤツとは違う雰囲気に首を傾げる。クルクルと自分の周りを忙しなくうろつく俺にイラついて、だがさっきよりも小声で怒鳴る金属バットをよくよく観察してみると、服から見える肌色が全体的に小麦色だ。所謂、日焼けなんだろうが、それも相まって実年齢よりも若く見えた。なるほど、そういう事か。

「プールか？」

スンッと鼻を鳴らして嗅いだ匂いは、遥か昔、夏休みに通った市民プールを思いだす。嗅いでんなよ！とひと睨みして距離を置いた後、授業でな、と素っ気なく付け加えた。動く度に、さらりと頬を撫でる黒髪がどうにも落ち着かない。

「・・楽しかったかよ？」

「ハァ？」

「自慢のリーゼント崩すくらいには、はしゃいだんだろ？つーか律儀に水泳の授業受けるようなヤツだったのか、おまえ」

自然と口角があがったような言い草になったが、金属バットは俺を訝しむような視線を向けるだけでいつものように絡んではこない。場所が場所だけにってのもあるが、普段より覇気を感じない事もまた、事実だった。

「・・・授業にはしゃぐもクソもあるかよ、足攣ったヤツ助けるために飛び込んだだけだ」

「はーん、なるほどなぁ」

「・・ンだよ、」

「案外ちゃんとヒーローやってるよなぁ、おまえ」

「ハァ？」

俺なりに褒めたつもりの言葉だった。俺への態度や普段の粗暴な雰囲気に流され誤解されがちだが、妹を守るって根本の他に、コイツはいつだってヒーローとしての常識を体現している男だ。

途端に困り顔になった金属バットは、何か言いかけて、しかしすぐに口を閉ざしてしまう。そして、付き合ってられるか！と言わんばかりの勢いで踵を返した。向かう先にはレジだ。

俺は慌てて買い物カゴを持っていないヤツの右手首を掴む。

「ッ、おい！！」

これまた勢いよく振り返った顔には少しの戸惑いが含まれていて、そのカオは初めてみるなと掴んだ腕に力を込めれば、その動揺は分かりやすく俺の視界を刺激した。垂れた前髪で見えずらいが、ほんのりと、だが確実に耳まで色付いた恥じらい顔に思わずギクリとする。

そこで俺は気づく。いつもと違うのは、ヤツだけじゃなかったのか？

「ま、まぁ待てよ。卵しか買わねーのか？今日、特売日だぜ？」

どこか浮ついたように言えば、うるせぇなぁと言わんばかりに眉を寄せて手を振り払われる。金属バット特有なのだろうか、それともの日焼けのせいなのか、心地の良い高めな温度に名残り惜しさを感じた自身に、ズキンと、心臓が鳴った。

「特売日だろうが何だろうが、必要なもんを必要な分だけ買うのがうちのルールなんだよ！」

そう一括して、次こそ勢いよく踵を返しレジに並ぶ列へと消えた金属バット。

すんなり離れてしまった事に名残り惜しさを感じながらも、なるほど一理ある、と卵をひとパック手に取り、買おうか迷っていた牛乳は手に取らず俺もレジに向かって歩きだす。

その後も、いつもと違う格好だからか特売日でごった返すレジ周りの人だかりの中にヤツを見つける事はできなかった。キョロキョロする俺をみて勘違いした店員が、お待ちのお客様！と声をあげる。それには素直に頷き、レジへと進んだ。

 帰り道、やっぱりガタつく自動ドアを潜ると辺りは紺と黒の境界線のような空に包まれていた。

あっという間だと感じたヤツとの時間は案外、長いものだったのかもしれない。

一応、街灯に照らされた帰り道とは反対の方向を凝視するもそれらしき人影は見当たらず、特売で勝ち得た戦利品に満足気に帰っていく主婦たちの多さも相まって、ハァとらしくない溜息を吐いて帰路についた。

（ほんと、らしくねぇ）

健康的な肌色に影をつくった揺れる前髪と、ほんの少し色付いた耳が脳裏を過ぎる。スンと鼻を鳴らせば、夏特有のアスファルトが焼けた匂いの中に、塩素に混じったヤツの匂いを感じた気がした。

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