「冬」の文明は地球とは大分異なっており、それはヒトがみんな両性具有である点を前に紹介しましたが、それよりも地球人の「同胞」にとってコタエたのは、恒星からの公転軌道が僅かに遠いコトから来る寒さでした。
これはちょうど平均標高が3000m超のチベットと相当し、私の物語でもそこでの長い冬を超えて訪れる春をクライマックスにしようと思っています。
話を作者のル-グィンに振りますと、彼女はアメリカ人ですがフランス人のペンネームを用い、国籍不明の作家としてSF界の女王にまで登りつめました。
因みにフランス語のルは男性冠詞で、彼女は顔写真を本に載せていますが、男性的なファッションで写っていてファンは男だと騙されていました。
私もこうしたアノニマス性に憧れを持ち、名前の行雄は中国語ではシン-シォンと発声するので、それをペンネームにしようかと思っています。
惑星「冬」に話を戻しますと、そこの文明レベルは地球の20世紀初頭くらいで、ラジオが普及しだした頃です。
そこでは東西冷戦のように2つの陣営が対立しており、一方は古い伝統を重んじる王制国家、もう一方は進歩の旗印を掲げた共産国家です。
地球人の同胞の名はアイとされ、この主人公の主観で物語は進むので、共感性を高める上手い名前です。
アイは始め王制国家の方にコンタクトを取り、そこの大臣の信用を勝ち取ります。
しかし王はアイを信用せず、大臣が陰謀を企んでいると疑って2人とも追放してしまいます。
アイと大臣は共産国家に逃れ、そこの進歩主義の閣僚達はアイを積極的に受け入れます。
しかし、閣僚達の間では権力闘争が行われており、アイはその闘争に巻き込まれて収容所に入れられてしまいます。
この収容所の描写は明らかにソ連のグラーグを模しており、ソルジェニーツィンの「収容所群島」や中国の「労改」を彷彿とさせます。
そこで拷問され消されそうになるアイを元大臣は助け出し、一緒に「冬」の極地を踏破して安全地帯へと逃れます。
この、2人で橇を曳き極地を旅するシーンが物語のクライマックスで、その寒さと山越えの厳しさが実にリアルに描かれています。
死と隣り合わせの旅で2人は、真に互いを理解し合い「心話」というテレパシー能力を開花させます…
「闇の左手」の紹介はここまでとして、テレパシーについて少し触れておきます。
これはル-グィンのもう1つの代表作「ゲド戦記」でも用いられ、この作品は宮崎駿の「ナウシカ(原作)」に大きな影響を与え、ナウシカもテレパシー能力を開花させます。
私はそれを積極的に物語で用いる積もりはありませんが、より大局的な現象として精神の「共鳴」を描きたいと思います。
因みにテレパシーの研究はかなり行われており、それは「量子もつれ」という現象によって起こるとする仮説を一部の科学者達は支持しております。