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夢幻に遊ぶYujin Koyamaの絵画と小説の世界を紹介します!

意外な人間の姿、風景に、きっと出会えるでしょう。フランスを中心に活躍する小山右人の世界を、とくとご堪能下さい!

その男

2016-04-26 10:24:23 | カルチャー
その男は、息を切らして画廊の階段を上がってきた。アメリカの救急医療の医師。働き盛りのがっしりした体つきをしている。
数日前の夕食会で出会ったが、連絡ミスで、再会が困難となっていた。重いリュックを背負い、ぼくのいるところを探し当ててきてくれた。
概してアメリカ人は苦手だが、医師同士ということもあって、彼とは急速に打ち解けることができた。何か、秘密の世界を共有している感じ。毎日血の海の中で過ごした経験の持ち主でなければ、絶対にわからない感覚というか、彼とは、無言の内に、すぐにその感覚を共有していた。
アメリカ各地の救急病院を転々とし、救急搬送を専門とする彼は、ぼくのアルバムの絵の中でも、外科的、解剖学的なものにたいそう関心を示した。「これは〜のオペだ」と言い当てるのも楽しんだ。
そして意外にも、いや、むしろ当然とよく理解できることとして、ダリの絵が好きで、スペインの美術館を隈なく追いかけたという。ヒエロニムス・ボッシュも大好きだった。血なまぐさい救急医療に追われる彼の渇きと孤独には、大いに共感できた。
長年ぼくが知りたかったのは、銃社会での救急医療の現場の生の話だった。その話題になると、急に彼の顔が極端なくらい悲壮に歪んだ。一言でアメリカといっても、地域によってずいぶんと違うんだそうだ。ヴァイアラントな地域の救急病院に勤めていた時は、年間、数千人も銃で撃たれ人が搬送されてきたとのこと。今勤めているところではほとんどないという。
短い時間で、ぼくたちは他にはない親友の気持ちを抱いていた。苦手なはずの英語も障害にならず、滑らかな語り口になっているのが不思議だった。


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