自分を決定的に変えた本がある。が、それは決して明かさない。自分を完璧に変えた人もいる。それも明かしはしない。が小説では、それらを漏洩している。他人にはどうでもよい事だし、気付かれもしない。しかし自分は世に矛盾した言動を、《平然と》取らねば立ち行かなくなり、小説の筆を取った。
静かに読み手の間で語り合われ輪が広がり、映画監督とも映画化を目指しひと夜語り合われた待望の佳作、小説「熱帯植物館」ついに出版!
威圧的で厳格な医師の父に反抗し、医学部を中退してしまった、謎かけで無限に自己を追い詰めていくスフィンクス兄貴。熱帯植物の樹液の匂いに充たされた「ネペンテスの領域」で行われた無限の探究の果てに見えてきた世界とは・・・?
読者評
『不思議な夢を見ているような気がした。僕は☆歳の頃、映画学校に通っていて、同じく地方から出てきた友人の部屋でビルエヴァンスの「オフィーリア」を聞いていた。部屋には未来への僅かな希望と鬱がアンビバレントな状態で垂れ込めていたと思う。物語の中の月代さんが蓮の池に浮かぶ姿。当時、死に至る病への憧れが無かったと言えば嘘になる。先が見える哀しさ。ネペンテスへの衝動。熱帯の植物が繁茂する姿を見て、こんな自分でもよいのかなと思う。僕の父がルソーのような油彩を描く人だった。絵画のような美しい純文学。懐かしさが込み上げた』
威圧的で厳格な医師の父に反抗し、医学部を中退してしまった、謎かけで無限に自己を追い詰めていくスフィンクス兄貴。熱帯植物の樹液の匂いに充たされた「ネペンテスの領域」で行われた無限の探究の果てに見えてきた世界とは・・・?
読者評
『不思議な夢を見ているような気がした。僕は☆歳の頃、映画学校に通っていて、同じく地方から出てきた友人の部屋でビルエヴァンスの「オフィーリア」を聞いていた。部屋には未来への僅かな希望と鬱がアンビバレントな状態で垂れ込めていたと思う。物語の中の月代さんが蓮の池に浮かぶ姿。当時、死に至る病への憧れが無かったと言えば嘘になる。先が見える哀しさ。ネペンテスへの衝動。熱帯の植物が繁茂する姿を見て、こんな自分でもよいのかなと思う。僕の父がルソーのような油彩を描く人だった。絵画のような美しい純文学。懐かしさが込み上げた』
【熱帯植物館】父に反抗し医学部を中退し、熱帯植物を繁茂させた裏庭の《ネペンテスの領域》に閉じこもり、思索と奇妙な実験に耽り出した不思議なスフィンクス兄貴。謎めいた兄貴が次々繰り出す難題と、襲いかかる災いの連鎖の中、生と死の両界に別れゆく恋人、月代が蓮池で自死の際仕掛けた複雑な時空間の暗号を解読して行くと、冥界と、兄貴自身患った神経の難病を寛解させる複雑な鍵が瞬間解かれ、神秘とまごう抱擁が、蓮池に射す光の中、実現する。

2019年5月31日(金)母校の医学部同窓会での講演要旨。
偶然の運命に翻弄されるままに生きて
ー騒乱の時代から不安の世の中を生きた一同窓生の絵と小説の世界ー
小山右人
もし、大学紛争に紛れ、別の選択をした場合、人生はどうなっていただろう? 学園紛争で最高学府の入試中止に臨み、全てへの不信と、一方では大きな夢を抱きつつ東京での一人暮らしに投げ出された。結果、医学と同時に、思いもよらなかった絵を描くことにのめり込み始めた。それが縁で、昭和の代表的作家と因縁深い方々と巡り会い、自らも新人賞を受賞し、フランスから小説を出版するようになるとは、また夢にすら思い描いたこともない人生航路だった。しかし振り返ると、偶然の連鎖は、意外にも整然と並んでいる。幼少から雪国で育ち、存分の自然に恵まれていた。父は町医者で、住居と病室は境がなく、誕生と死、病と癒しが渾然一体となっていた。母は、東京芸大出身の音楽家で、幼時から芸術教育に大変厳しかった。東京の無限な世界に多感な若者が投げ出された時、その胸に沸騰したエネルギーは、すでに運命の連鎖への飽くなき挑戦に向かい、破裂していたのかもしれない。
偶然の運命に翻弄されるままに生きて
ー騒乱の時代から不安の世の中を生きた一同窓生の絵と小説の世界ー
小山右人
もし、大学紛争に紛れ、別の選択をした場合、人生はどうなっていただろう? 学園紛争で最高学府の入試中止に臨み、全てへの不信と、一方では大きな夢を抱きつつ東京での一人暮らしに投げ出された。結果、医学と同時に、思いもよらなかった絵を描くことにのめり込み始めた。それが縁で、昭和の代表的作家と因縁深い方々と巡り会い、自らも新人賞を受賞し、フランスから小説を出版するようになるとは、また夢にすら思い描いたこともない人生航路だった。しかし振り返ると、偶然の連鎖は、意外にも整然と並んでいる。幼少から雪国で育ち、存分の自然に恵まれていた。父は町医者で、住居と病室は境がなく、誕生と死、病と癒しが渾然一体となっていた。母は、東京芸大出身の音楽家で、幼時から芸術教育に大変厳しかった。東京の無限な世界に多感な若者が投げ出された時、その胸に沸騰したエネルギーは、すでに運命の連鎖への飽くなき挑戦に向かい、破裂していたのかもしれない。
ぼくの原稿の、最も口うるさい最終チェック者は、編集者でもなく、他ならぬ父だ。
この水準をクリアしないことには世に問えない。
きたる5月31日の母校での講演会の原稿についても、父にチェックしてもらえる水準に達した。
果たして、父の評価は、これまでの小説の原稿の中でもベスト、とお褒めこそあれ、お咎めなし。
これで、胸を張って、どこにでも出せるだろう。
この水準をクリアしないことには世に問えない。
きたる5月31日の母校での講演会の原稿についても、父にチェックしてもらえる水準に達した。
果たして、父の評価は、これまでの小説の原稿の中でもベスト、とお褒めこそあれ、お咎めなし。
これで、胸を張って、どこにでも出せるだろう。