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History, Strategy, Ideology, and Nations

1月11日

2010年01月11日 | ET CETERA
 20年ほど前、世間で「IT革命」が随分と囃し立てられていた頃、
 多くのエコノミストや社会論者が、来るべき21世紀社会の姿に想像を膨らませていたことがあった。
 彼らは「IT革命」のメッカ、シリコンバレーに足繁く通い、
 若き技術者や経営者がカジュアルなジーパン姿で最先端の仕事に取り組む様子を見て、
 旧態依然とした大企業の経営システムや国家の統治システムの在り方を痛烈に批判した。
 さらに、計上された莫大な利益や組織コミュニケーションの劇的な変化は、
 新しい時代の到来を強く感じさせるものであった。
 そして、彼らは「IT」こそ次世代の産業や文化を担うと広く喧伝したのである。

 現在、中国経済を礼賛する経済学者やエコノミストについても、
 「IT革命」に酔っていた頃の状況と非常に似た言説をしている者が少なくない。
 まず彼らは、成長著しい中国経済の現場を訪れる。
 そこで工場長などから、いかに中国の経済成長が凄まじいかをとくとくと説明される。
 目に入る光景も、天高くそびえたつ高層ビル群、夜には燦然と輝くネオン街、
 人々の生活は明らかに向上していることが分かる。
 ところが普段、理屈や論理で生活する者ほど、実体験によって受けた影響に弱かったりする。
 科学者ほど超能力や催眠術に騙されやすいというのと同じである。
 その結果、中国の経済的繁栄に疑問を呈するような情報や分析については、
 「現場を知らない」とまったく耳を貸さなくなり、
 「次は中国の時代だ」という結論を力強く主張するようになるのである。

 元来、中国経済の統計数字は、基本的にはどこまで信頼してよいものか分からない。
 なぜなら、そうした数字を全面的に公開してしまうと、
 内政上の弱点を国内外に露呈することにつながるからである。
 実際、冷戦期のCIA文書を見ていると、ソ連経済を分析した情報評価がかなり多いことに気づく。
 それは、経済問題を通じて、ソ連の支配体制に動揺を走らせようと画策するためであり、
 そのことをソ連は十分、知っていたから、経済統計でさえも機密扱いとされていた。

 もっとも、そうだからこそ、現場に赴いて実地検分してくることが重要なのかもしれないが、
 中国への期待を明け透けに論じる経済専門家の多くは、
 客観的視点よりも実体験に根差して分析する傾向が強く、信頼性への疑問は膨らむばかりである。
 そして、こうした現場主義者の声は、とことん裏切られてきたというのが、
 歴史の教訓によって示されるところではないだろうか。
 中国の経済成長、それ自体は紛れもない事実であるとしても、
 「次は中国の時代」と勢い込んで語ることは、どこか別の意図が働いているようにも感じられる。
 欧米の経済誌では、比較的冷静な議論が進行しているだけに、
 まるで浮足立った日本での議論には、どうにも違和感を覚えるのである。