YS_KOZY_BLOG

History, Strategy, Ideology, and Nations

UFOと米国文化

2010年08月20日 | ET CETERA
 昨日の続き。
 しかし、それにしても、どうして米国では、UFOや宇宙人に多くの関心が集まるのであろうか。
 日本でも、そうした話題に興味を持つ人がいないわけではないが、
 米国のように、UFO開発の実態をまことしやかに語る元政府高官が現れるといったことは考えられないし、
 一般レベルにおいても、わざわざ政府に情報開示を請求して、真相の追究にいそしむ人は、
 ほとんどいないだろう。
 その点で、世界で最も進んだ科学技術力を誇る国であるにもかかわらず、
 オカルト的な話題に強く引き付けられるというのは、米国文化の大きな謎である。

 たとえば、その傾向が典型的に表れているのが、宇宙人による連れ去り事件であろう。
 俗に「アブダクション(abduction)」と呼ばれるものだが、
 ある統計調査によると、なんと約370万人以上の米国人が宇宙人によって誘拐された経験を持っているという。
 実際、その時の様子を詳しく証言する者も多数存在しており、
 UFO論者の中には、宇宙人が人間を生体実験に使っている証拠として指摘する者もいる。

 興味深いのは、こうした事件が見られるのは、もっぱら米国のみであって、
 その他の国々では、ほとんど発生していない点である。 
 もしも統計や証言が正しいと信じるならば、
 宇宙人は米国人だけを実験対象に選んで連れ去っているということになる。
 宇宙人は、米国人に何か恨みでも持っているのだろうか。

 その一方で、統計調査の数字や証言に対して、強い疑問が呈されていることは指摘しておく必要がある。
 それというのも、「約370万人」という数字一つとっても、
 実際には、直接、アブダクションを示す客観的・科学的根拠に基づいたものではなく、
 過去に全身が空中に浮いているような感覚を持ったことがある、
 その際に、誰か室内にいたような気がした、などといった選択肢の中から、
 複数の項目が該当すれば、アブダクションと認めるようなものだったし、
 連れ去られた状況を語る証言も、
 催眠療法を通じて得られたものが大半を占めており、
 催眠療法士による明らかな誘導尋問といえるケースも非常に目立っていたからである。
 要するに、夢の中で見た記憶を、あたかも現実に体験したかのように語っているにすぎないのであり、
 そうした証言に高い信頼を置くこと自体、無理があると言うしかないだろう。

 ただ、催眠時に、米国人の多くが共通してアブダクションを体験するのかという疑問は残る。
 これには、様々な解釈が可能である。
 一つには、やはり文化的背景の影響があるだろう。
 分かりやすい例としては、臨死体験の証言において、
 日本人は、花畑の上を自由に飛び回ったというような体験を語ることが多いが、
 これは他の国々でなされた臨死体験の証言には見られない特徴であり、
 この問題を深く掘り下げたことがあるジャーナリストの立花隆は、
 そこに宗教観や死生観が反映されているのではないかと推測している。
 同じように、催眠時においても、無意識のうちにそうした観念が反映されることは、
 可能性として十分、考えられることである。

 また同時に、テレビや映画などの影響も無視できないであろう。
 米国でのアブダクションの事例は、
 1961年9月、ニューハンプシャー州在住のヒル夫妻による証言から始まるが、
 その後、同じような話が各種のメディアを通じて流されるたびに、
 自分も似たような体験をしたと訴える人が続出し、
 しかも、その内容は、間違いも含めて、
 メディアで流された内容とほぼ一緒であることが確認されているからである。

 なお、UFOに限らず、オカルト系をはじめとした、怪しげな話の真相を知りたい時には、
 次の文献が役に立つ。 

 と学会(山本弘・志水一夫・皆神龍太郎)
 『トンデモ超常現象99の真相』
 宝島社文庫、2000年 

 日本では、年末にテレビの特別番組で面白おかしく取り上げるだけで、
 事の真相まできちんと踏みこんでくれないことが多い。
 しかし、本書は、その後の調査もきちんと追跡した上で紹介してくれていて、
 非常に良心的な内容となっている。