口笛の上手な白雪姫 / 小川洋子

2018年11月01日 | あ行の作家

先回りローバ
亡き王女のための刺繍
かわいそうなこと
一つの歌を分け合う
乳歯
仮名の作家
盲腸線の秘密
口笛の上手な白雪姫



悲しみは至る所に転がっていて、人はどうしたわけか、それを拾ってしまいます。
ある悲しみは、消化されず、吐き出されるのをただ静かに待っている、その静かな時間の経過の貴重さを描く短編集。

どうしたら、吐き出すことができるのでしょう。

白雪姫を運ぶ王子様の家来が転んだ時に、白雪姫は、のどにつまらせたリンゴを吐き出した…。

自力と他力、ふたつが必要な気がします。自分の力だけではダメで、誰かの力だけでもダメで、自分と誰か、ふたつが合わさって、吐き出す力を得られる、たとえ、誰かが自分の想像上の人物であっても、偶然なきっかけであっても、それはそれでいいのです。
暗示力、そういう力を信じたくなります。

最初の「先回りローバ」を読んでいるとき、物語があまりにも静かに響いて来たので、何だか、微かに音が聞こえるような気がしたのですが、もしかしたら、あれはローバの口笛?

静かに微かに響いた音は、「一つの歌を分け合う」で子を失う母の悲しみにかき消されます。
その悲しみを見守る悲しみ、そうして、突然命を亡くした子の悲しみまで、悲しみは重なっていくのですが、吐き出されれば悲しみは、どこか清々しくさえあります。

思えば、童話の「白雪姫」の中で、一番悲しいのは、継母。
継母の中にあった吐き出されることのなかった悲しみを思うとき、継母も大事に大事にされた赤ちゃんの時はあったのに…と思うのです。


本文より

大事な何かを確かめ合う時、僕たちは無言の合図を送るだけで十分だった。

「大事にしてやらなくちゃ、赤ん坊は。いくら用心したって、しすぎることはない」



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