訳 富原真弓
( 12編からなる短編集 )
どの物語の主人公も、自分の周りに半透明の膜をかぶせて、
読者である私を 物語の場所へは連れ出してくれない。
かと言って途中でページを閉じてしまったら
その場所に戻れない気分になる。
私には理解不能な行動をとる物語の主人公たちは
常識から眺めれば明らかに狂人であり、偏執狂である。
が、その純粋性を眺めると、なんと自分に誠実なんだろう。
「機関車」「人形の家」の主人公たちに、それは顕著だ。
破滅へと繋がる危機感は殺人をも罪悪と捉えないのではないかとさえ感じた。
それは、成熟していない大人(社会性とか協調性とか)という範疇ではなく、
夢を追い続け、実現させるのに必要な「誠実」なのだろう。
読み終わって、これらの短編が、
あの「ムーミン」の作者だと信じられなかったが、
待てよ、ムーミンには我が道をゆく「ミー」とか
哲学者風の「 スナフキン」とか、
他に個性の強い脇のキャラクターたちがたくさん居た。
彼等こそ、作者ヤンソンが描きたかった人格だったのでは・・・。
今年の初読書1冊目は、1週間もかけて読んだ。
自分の中へ採り入れるのには時間が必要な1冊でした。