何冊か書いたことがある。
いつも女性が主人公だったので、当時の女性の
暮らしはどんなものだったのかと、古本屋で
明治、大正、昭和初期などの女性雑誌をよく買った。
これがおもしろくて、時々読み返さずにはいられない。
たとえば化粧。いまの常識からすれば「ほんとかね?」
と首をかしげること多し。
ご紹介するのは明治44年発行の「化粧かゞみ」である。
この頃、グラビアに登場するのは上流社会の奥方。
梨本宮守生王妃伊都子殿下。
瑞西公使夫人ミセスリツトル (瑞西はスイスのこと)。
キレー水の広告(一部、いまでは差別用語になったものあり)。
御園白粉。
「令嬢必読」「妻君必読」の人気女性誌「婦人世界」。
「四月の珍料理」も気になります。
「美貌は女の生命であります」「婦人は男子を喜ばせるために
化粧すべき義務があります。是は自然の約束で古今東西を通じて
變わることがありません。けれども化粧をするにも、身分を忘れて
品格を落とすやうなやりかたをしてはいけません」
「化粧の方法さえ宜しければ、醜いのは醜いなりに、
いくらか見上げる様になります」
化粧先進国、フランス女性の洗顔法。
「ただの水や湯でするのではありません。牛乳(ミルク)を
人肌の温度に温めて、それで顔を洗ふのであります。」
フランスの化粧上級者は、どんな化粧法を用いているか。
「一旦、念に念を入れて充分仕上げて置いた化粧をば、
イザと云ふ時に綺麗に洗ひ落として了ふのです」
そうするとどうなるか。
「その素顔は、最初化粧をしなかった時の素顔とは大變な違ひで
顔を洗ってから、少しく時間が経ちますれば、一旦肌目に
掏込まれた白粉が、だんだんと吹き上がって参りますので、
それは實になんとも云えへない美しい顔に見えるのであります」
中流以下の婦人は如何に化粧するか。
「それから中流以下の婦人となりますと、顔を洗ふ料の
液體は、牛乳を用いないで、微温湯でするのであります。
是は云うまでもなく、好んで白湯を用いるのではありません。
経済上、牛乳を用いるだけの余裕がありませんから、止むを得ず……」
とはいえ、ただの白湯でいけない。
「けれども、如何なる場合でも、只の白湯は
決して用いません。微温湯の中へ化粧水を入れて
洗ふのです」
この他にも米国式化粧法、独逸式化粧法、
英国式化粧法などが化粧先進国のやりかたとして掲載されているほか、
髪や手足、歯の手入れなどが解説されている。
最新の化粧法、化粧品の種類なども懇切丁寧に紹介され、
明治後期の「化粧大全」ともいうべき興味深い本。
まあしかし「常識」は時代によってはなはだしく変わる。
いま、私たちが「常識」だと信じていることも、
10年後には「非常識」になっているかもしれない。
怖いものです。「常識」は。
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