いもあらい。

プログラミングや哲学などについてのメモ。

『キーリ9 死者たちは荒野に永眠る(下)』。

2006-04-09 03:17:00 |  Review...
キーリの最終巻、『キーリ9 死者たちは荒野に永眠る(下)』を読んで。

なんというか、とうとう終わってしまいました。
物寂しい。

今回のキーリを読んでいて――そして読み終わってからもずっと感じ続けたこと・・・
「物寂しさ」
今回のキーリはキーリであってキーリではないというか、キーリをはるか上方に越えてしまった物語というか・・・

物語の話をすればですね、もうこれ以上ない終わらせかたなわけです。
でも、それでもなお、キーリには別のものを求めてしまっている自分がいる。
――「人間臭さ」「しらがみ」「葛藤」、そして、格好悪いほどの「生への執念」。

もちろん、そういったものがない方が、人間としては成長しているというのかもしれない。
けれど。
けれどもしかし。
そういったものこそが人の心を惹き付けてやまないのだと思う。
物語を劇的なものに、人の心を掴んで離さないものに変えていくんだと思う。
そういったものが<赦し>という形で昇華されていってしまっているのが、なんとも寂しかった。

もちろん、これだけの旅をしてきたわけだけら、人間的に成長しなかったら何やってんだか、という感じはあるのかもしれない。
けれど、どんなにボロボロになろうと生きようとしてきた――あがき続けてきたハーヴェイ、あるいは、敵を作らずにはいられない自分に嫌悪したり、それが自分のエゴだと分かっていてもそれでもなお兵長・ハーヴェイにいて欲しいと必死になっていたキーリ、この二人には成長して達観した感じになってしまうくらいなら、どんなに泥臭くてもいいからあがき続けていて欲しかった。

キーリが幽体になったときの様子を見て、場違いながら「ニュータイプ!?」とか思ってしまったのだが、その経験を通して戻ってきたときのキーリは今までのキーリからは考えられないほどに達観している感じがあって(もちろん、そうなるのに十分なほどの経験ではあったのだけれど・・・)、本当にニュータイプになってしまった感じがあった。
第七話のエピソードで、きっと以前のキーリならあんな達観した見方なんか出来なかったと思う。お疲れ様だなんて言えなかったと思う。
子供を恨んで、ラジオに泣きついて、けれどそんな自分に嫌気を感じて、でも謝るなんて出来なくて・・・きっとそんな感じ。
でも、自分はそんなキーリのほうがとても共感がもてるし、「生きている」という感じがする。

ちょっと話は変わるけれど、みんながみんなニュータイプになって分かりあえたら、ホントにみんな幸せになれるのだろうか?
もちろんあの時代においては、みんながみんな分かりあえるというのは理想に思えただろう。
けれど、人間臭いドロドロした感情や行き違い、不理解などといったものがなくなってしまったとしたら――みんながみんな達観していて、理知的で、争いごとや悩みや葛藤がないような世界が実現してしまったとしたら、どうだろう?
それでもなお、依然として「生の輝き」というものはそこにあり続けるのだろうか?

『風の谷のナウシカ』(※マンガの方)から、ちょっと引用。


ナウシカ

「その人達はなぜ気づかなかったんだろう? 清浄と汚濁こそ生命だということに。苦しみや慈悲やおろかさは清浄な世界でもなくなりはしない。それは人間の一部だから……だからこそ苦界にあっても喜びや輝きもまたあるのに。」


墓の主

「娘よ、お前は再生への努力を放棄して人類を亡びるにまかせるというのか?」


ナウシカ

「その問いはこっけいだ。私達は腐海と共に生きて来たのだ。亡びは私達のくらしのすでに一部になっている」


墓の主

「種としての人間についていっているのだ。人類は私なしには亡びる。」


ナウシカ

「それはこの星が決めること……」


墓の主

「虚無だ!! それは虚無だ!!」


ナウシカ

「王蟲のいたわりと友愛は虚無の深淵から生まれた!」


墓の主

「お前は危険な闇だ。生命は光だ!」


ナウシカ

「ちがう! いのちは闇の中にまたたく光だ!!」




『風の谷のナウシカ』7巻より。一部省略で。
非常に考えさせられます。

まぁ、何はともあれ、キーリ終わっちゃったなぁ、という感じで。
物語を締めくくる最後の言葉が――ハーヴェイの言った最後の言葉が、この9巻がどうであったのかを如実に表していると思う。
そしてそれは、この物語へのレクイエムとして贈られているように思えてならない。

 キーリと会えてよかった。
 今の時代に生きててよかった。
 お前と会わせてくれた、俺をそれまで生かしておいてくれたこの惑星に、お前を今まで守ってきてくれたすべての人たちに。
 この惑星のすべてに。
 俺は今、感謝しています。




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