第二章 桜の花の咲くころに
成熟して、もはや散るしかない花を咲かせた社会において、いかに生命力に乏しい
人間が群がろうと、そこには、確かに一つ一つの人生があった。
人波のの一つ一つの顔には、一つ一つの生き死にがあった。その中の顔にシオンの
顔もあった。
通勤するのにシオンは歩いた。駅までの長い道を、歩くとさまざまな季節の表情
を、都会の町は見せた。
ささやかに空間に人はさまざまは植物を、時には、花をさかせていた。
その中で、シオンはいつも墓所を通っていった。
墓といっても、都会の墓は木々の生い茂った林のようなもので、シオンは
その中を通るのが好きだった。
朝は先を急いで、夜は夜更けになって、墓所の中を歩いて通っていった。
墓所の中央をつらぬいている道路があった。その両側に桜の大木が植えてあった。
ソメイヨシノだ。
桜の枝が寒空に写っていたのが、その枝が赤みを帯びて、いつしかピンクに変わっ
た。そして桜の花が咲いた。
****
「いつか、桜の花の枝を思いっきり折って、水ん中に入れといたら、
母ちゃんが怒ってたな。もったいないって。せっかくさいたのにってな。」
とシオンと思い出した。
「今日もおわった。僕は、能力がないのだろうか。僕は、なんでもできると
思って、自信があったのにな。でも、同僚のあいつらの仕事の仕方を見て
いると、僕とは次元がちがう。それほどできるよ。」
自分のアパートでひっくり返って天井を見ていたシオンはウトウトした。
「そうだ。うちでは天井裏から、星が見えたっけな。星を見ていると小川の
せせらぎの音が聞こえたな、夜明け前は、森の中の小鳥が、ありったけの
力でさえずっていたっけ。何て鳥か知らんが、いつも3回ピーピーピーと鳴く声で
めがさめたんだ。雨の日は、屋根に降る雨の音が聞こえた。風が逆流して
ストーブの煙が部屋の中に入って、いつもおれの服は煙のにおいがしたんだ。」
シオンは、はっと目が覚めた。「おれは、今どこにいるんだ。」
と、暗闇に目を凝らした。「ここは、本当におれのいる場所なのか。」
成熟して、もはや散るしかない花を咲かせた社会において、いかに生命力に乏しい
人間が群がろうと、そこには、確かに一つ一つの人生があった。
人波のの一つ一つの顔には、一つ一つの生き死にがあった。その中の顔にシオンの
顔もあった。
通勤するのにシオンは歩いた。駅までの長い道を、歩くとさまざまな季節の表情
を、都会の町は見せた。
ささやかに空間に人はさまざまは植物を、時には、花をさかせていた。
その中で、シオンはいつも墓所を通っていった。
墓といっても、都会の墓は木々の生い茂った林のようなもので、シオンは
その中を通るのが好きだった。
朝は先を急いで、夜は夜更けになって、墓所の中を歩いて通っていった。
墓所の中央をつらぬいている道路があった。その両側に桜の大木が植えてあった。
ソメイヨシノだ。
桜の枝が寒空に写っていたのが、その枝が赤みを帯びて、いつしかピンクに変わっ
た。そして桜の花が咲いた。
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「いつか、桜の花の枝を思いっきり折って、水ん中に入れといたら、
母ちゃんが怒ってたな。もったいないって。せっかくさいたのにってな。」
とシオンと思い出した。
「今日もおわった。僕は、能力がないのだろうか。僕は、なんでもできると
思って、自信があったのにな。でも、同僚のあいつらの仕事の仕方を見て
いると、僕とは次元がちがう。それほどできるよ。」
自分のアパートでひっくり返って天井を見ていたシオンはウトウトした。
「そうだ。うちでは天井裏から、星が見えたっけな。星を見ていると小川の
せせらぎの音が聞こえたな、夜明け前は、森の中の小鳥が、ありったけの
力でさえずっていたっけ。何て鳥か知らんが、いつも3回ピーピーピーと鳴く声で
めがさめたんだ。雨の日は、屋根に降る雨の音が聞こえた。風が逆流して
ストーブの煙が部屋の中に入って、いつもおれの服は煙のにおいがしたんだ。」
シオンは、はっと目が覚めた。「おれは、今どこにいるんだ。」
と、暗闇に目を凝らした。「ここは、本当におれのいる場所なのか。」
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