あべっちの思いをこめた雑記帳

大槌の町に思う

 岩手県の海岸を走る国道4号線沿いには前回書いた大槌町のその被害にあった保育園やコンビニ駐車場もあるが、高台にある大槌ホテルも思い出の宿だ。昭和57年年8月に国民宿舎「大槌荘」から「大槌ホテル」として新たにオープンし、その後私も投宿している。
 わずか24室のそのホテルは残念ながら現在は営業していないが、とても見晴らしの良い宿であった。

 ちょうどそのオープンの年は井上ひさしの「吉里吉里人」という小説で架空の吉里吉里国が登場し、その地区を吉里吉里国(きりきりこく)と自らを称した。大槌町おこしの一環として独立国宣言をしたのだが、日本の各地で独立国がブームとなり、雑誌やメディアでもかなり話題になった。その地域だけに通用する独自の通貨を発行し、方言を国語と制定したりして、観光客誘致に成功したことは記憶に新しい。

 「ひょっこりひょうたん島」のモデルとなった島も目のあたりに見えるし、近くには返す波のないことで知られる風光明媚な浪板海岸があり、私もその片波で遊んだことが昨今のように思い出される。
砂浜の傾斜がゆるく、寄せ波が引き返す頃には次の寄せ波が来ることがある。これを片瀬波と呼び、神奈川県の片瀬という地もこれが元で名付けられたという説がある。
 その浪板海岸には浪板観光ホテルという61室のリゾートホテルがあったが、津波で3階まで被害を受け、2年半の休業後に「三陸花ホテルはまぎく」と名を変え再開にこぎつけたのは喜ばしいことだ。
 夏のシーズンは片瀬波を楽しむ人々で今でもきっと賑わっていることであろう。浪板海岸の白い鳴き砂もその後はうれしい音を毎年醸し出してくれていることと思う。

 震災後はまだ一度も訪ねていないこの大槌の町。また訪ねたいと思う地の一つである。
 そしたらその時も唇で潮風のやさしさを心ゆくまで味わってみたい。

 
  耳すますだけが音ではないんです潮風ならば唇で聴く

                         本名
            平成31年4月 「NHK短歌」5月号

 

                     「心に残る旅(3)大槌の町に思う)

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