邦画女優、ランキング考

（エッセイ）［画像小はクリック拡大］



　一年程前になるか、週刊ポスト（小学館）紙上で、云わゆる昭和の女優ランキングのようなものが特集されたことがあった。すなわち、‘演技力と美貌を兼ね備えた女優で、昭和期に活躍した主演映画のある女優さんを、映画関係者35名（実名表示）が各3名ずつの女優をリストアップし、得票数の多い順でランキング’したもの、というものだった。
参考までにそのランキングを掲載すると、


【「女優論」映画業界35人が厳選！美しさと演技に魅せられた、昭和の名花１５】

　1位 高峰秀子 　2位 原節子 　 3位 田中絹代　 4位 夏目雅子　 5位 若尾文子
6位 吉永小百合　7位 香川京子 8位 淡島千景　 9位　岩下志麻　 10位　 左幸子
11位 高峰三枝子 12位 八千草薫 13位 有馬稲子 14位　久我美子 15位 田中裕子


　云わゆる、映画関連の専門家から観た人気の昭和の名女優ランキングといえると思うし、私自身は、この結果はある程度妥当なところかなァと思えた。（・・ただ余談ではあるが、先頃お亡くなりになった山田五十鈴さんがここに見えないのは、条件から外れるものがあるからだろうか・・・もっとも彼女の場合には、名女優というより大女優としての呼称が多いのも事実ではあるが・・・）
　
　時を前後した頃だろうか、朝日新聞に「be ランキング」というのがあり、あるサークルの一般の読者投票だったかと思うが、次のように銘打ったランキングが掲載されていた。

【あなたが選ぶ“昭和の名女優”】

１位 吉永小百合（1184） 2位 夏目雅子（887） 3位 大原麗子（655） 4位 八千草薫（397）
5位 池内淳子（378） 6位 岩下志麻（368） 7位 大竹しのぶ（342） 8位 高峰秀子（341）
9位 浅岡ルリ子（320）10位 松坂慶子（310）　・・・ 　　　　 （数値は票数）


　こちらは、専門家ではない一般の方の投票であり、条件も今は不明であるが、おそらく年齢的にはヤヤ若い層の方の投票じゃないかと思われる。

　これらの共通する、昭和という時代の二つの女優のランキング。双方の順位の合計数が小さい方から並べてみると、

　夏目雅子 →　 吉永小百合 → 　高峰秀子 →　　岩下志麻 ・・・

　と、このようになるが、この結果をもって、‘昭和の名女優の決定ランキング’とするにはやはり客観性に欠けるかも知れない。
　朝日新聞での一般の方の投票でランクされた女優さんの活躍は、戦後ある程度経た時期に活躍の女優さんが対象とも推測されるが、週刊ポスト誌における映画関連専門家のそれは、より広い幅のある時期で活躍した女優さんを対象にしていることで、敢えて云えば、客観性でも優っているように思うからである。
　ただ、双方上位に名乗りを挙げているこれらの女優さんが、昭和のある時期において、衝撃的な強い印象を残したことについては、まず間違いないと云えるかと思う。
　けれども先に少し触れたように、私自身は週刊ポスト誌でのランキングの方が客観的には、より妥当性をもつであろうかと考えている。



　ところが、非常に驚いたことに、今年の文藝春秋５月号誌上において、今度は“平成の女優のランキング”なるものが掲載されていた。まだ平成の世は続いているわけで、チョッと気が早いんじゃないのって個人的には正直思った。選定を依頼されても同じ理由で断った著名人もいるんじゃないだろうか。私は逆にそういう人にこそ興味があったりもする・・（笑）、が、まァ、とりあえずその掲載内容を以下に挙げてみる。

　著名人の実名入りで、コメントと共に掲載されていて票数も記載されていたはずだが、メモが不十分でここには数値は記載していない。なお、著名人は様々な職業の多岐にわたっていた。


【著名人７１人が選ぶ「私の平成ナンバーワン女優」】

１位　寺島しのぶ　宮沢りえ（同位）　　３位　蒼井優　　　
４位　大竹しのぶ　中谷美紀（同位）　　６位　鈴木京香
７位　松たか子　　８位　堀北真希　宮崎あおい　吉永小百合　（同位）

　
　さすがに平成ともなると、ここに宮崎あおいちゃんの名も入ってきている。
なお、さきに述べたように、著名人７１名はその職業が多岐にわたっていて、例えば選定者がスポーツ選手だったりもするわけで、必ずしも演技、演芸に精通した人たちばかりではない。このため、場合によってはその選定基準が演技力等ウンヌンについてはそれほど重きを置いてはなく、（実際にそれをうかがえるようなコメントのニュアンスも伝わってもいるが、）まァそれは、個人の好みの要素も充分入って来ることは止む得ないものではある。
　そういう中で、さきの昭和の女優選定でもなされていたように、映画関係者等（映画評論家、映画史研究家、映画大学の関係者等）が一体誰を選出したか、それをさきの中から抽出してみた。以下はその結果である。
　

１位　寺島しのぶ（４票）　２位　宮崎あおい（３票）　３位　宮沢りえ（２票）
　　
　　
　　　木村多江　　永作博美　　中谷美紀　　林由美香　　泉今日子　　
　　　吉永小百合　大竹しのぶ　小池栄子　　高島礼子　　鈴木砂羽　
　　　田中麗奈　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　以上、各（１票）

　
　つまりは、映画関係者、専門家の中では、あおいちゃんに絞れば、寺島しのぶさんに次いで平成を代表する女優としての評価が高いことが分かるのである。


　また、この文藝春秋５月号における「私の平成ナンバーワン女優」では、同時に読者１０００人の読者投票の結果も掲載されている。結果は以下のとおりである。


１位　松嶋奈々子　　２位　仲間由紀恵　　３位　綾瀬はるか　４位　深津恵里
５位　宮崎あおい　 　６位　吉永小百合　　７位　天海祐希　　８位　竹内結子
９位　芦田愛菜　　１０位　鈴木保奈美


　これは一般の読者が持っているナンバーワン女優のイメージの投票ということでもあり、読者の好み、ファンとしての人気投票としての比重も少なからず反映しているかとも思われる。或いはまた、この投票がなされた当時の人気ドラマとかのビビッドな影響も当然あるわけだが、いずれにしても一般読者の投票結果がこれなのである。


　さて、ここまで、文藝春秋誌上のランキングを中心にみてきた“平成の女優ランキング”。
　この結果は選定の各層によって様々に異なる順位を示している。従って、果たしてどれが平成を代表する女優としてのランキングに本当に相応しいか、それを決定付けるのは不可能に違いないと私自身は思っている。


　けれども、私は、これらの結果を総合的に判断することは出来ると考える。
すなわちそれは、‘著名人が選定’し、或いは‘映画関係者が選定’し、そして‘一般読者も選定’した、いずれのランキングの中に、間違いなく入っている人が二人いる。


　それは、宮崎あおいちゃんと吉永小百合さんの二人である。このことが何を意味するか、或いはこのことについて、もう少し思いを寄せてもいいのかも知れない。


　また、少し前になるが、【大女優の風格ありそうな若手女優】というものの投票がＮＴＴドコモ「みんなの声」でなされていて、次のような結果が出ている。
　

　１位　宮崎あおい　１１，０３４　　２位　志田未来　４，９９２　
　３位　吉高由里子　　３，８１２　　４位　蒼井　優　３，７６８
　５位　綾瀬はるか　　３，５０５　　６位　石原さとみ３，２４５
　７位　堀北真希　　　３，２３４　　８位　戸田恵梨香２，８１２
　９位　上戸彩　 　　　２，２５８　１０位　上野樹里　２，１１８
　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　　 （得票数）




　繰り返すが、平成の女優のランキングをウンヌンするなんて、私はやはりまだ早過ぎると思う。
けれども、敢えてそれに言及するのであれば、これまでの様々な投票結果等をも踏まえて次のように結論付けたい。

　映画『ユリイカ』の衝撃的デビュー以来、絶えず第一線で活躍し続けている女優、宮崎あおい。
一般層や著名人層からも必ずランキング上位に名を連らね、同じく映画関係者層からもトップにランクされている彼女。ましてや大女優の風格すら彼女の中に見て取る人も際立って多いのである。そんな女優を抜きにして、平成の女優を語ること、それは意味を持たぬと私は考える。


敢えて問われれば、次のように私は応えたい。

すなわち、私の「平成ナンバーワン女優」は宮崎あおいちゃんである、と。

なぜなら平成は未だ過去のものではなく、今まさに現在進行形なのだから・・・。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 　（楽天に同文寄稿）