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愛と幻想の「耳かき店員」殺害事件

2010-11-03 18:25:16 | 社会・政治
カーラジオで聴いたり考えたりして、この事件には、ひそかに注目していた。とにかく結果、死刑を求刑した検察の主張にたいし、無期懲役の判決が出たことをひとまず歓迎する。

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ブログ主に合わせて(?)、このブログ読者の多くはマジメな方が多いはずだ。なので、そのものズバリのデリヘルとかならいざ知らず、そもそも「なんで耳かき?」と、生じた事情が理解しにくいのではないか。まして一回の耳かき料が時間5800円、そこに被告は少なくとも200万円(のべ約345時間)以上を費やしていたと聞けば、アホすぎ! のひとことも出るだろう。

だが、「耳かき」は母親の行為だと指摘すればどうだろう。膝に頭を抱え、顔におおいかぶさるように慎重に、あるいは優しく行われるのが「耳かき」であり、だからそれは母親の行為なのだ。ブログ筆者の体験を語ろう。といってもエステじゃない。

つきあったカノジョたちに、何度か「耳かき」をしてもらった。こちらから要求したケースはない。アメ耳だから、身体の汚れを見られるようで特に躊躇する。しかし事情を知ったカノジョたちは、異口同音、「さー、恥ずかしがらないで」と笑いだしながらいったものだ。

正直いえば、やわらかい膝のうえに抱えられて、優しく(慎重に)耳かきされていると、それだけでカノジョたちの愛を信じたい錯覚に陥った。「錯覚」といったのは、それぞれの愛について疑惑を持っていたからではない。愛は本質的に幻想なのだ、そういう意味である。たぶん愛は、レイプに近い野生的な交情にたいする、人間的なお互いの言い訳なのである。路上で見かける犬や猫たちの交わりとは違う心理的な証明、言い訳なのである。

その証拠に、情熱的な交わりを何度も体験した人間たちも、その後に別れて、別の相手と躊躇なく情熱的な交情を重ねる。一件の交情体験と同時並行して、別の相手と交情を重ねている場合も多い。何のことはない。路上に見かける犬猫の交わりと人間の交情は、事実としてたいして変わりがないのである。愛があったから寝たのだと、行為のあとで互いに説明できればいいのだ。

秋葉原や新橋、池袋に多い「耳かきエステ」は、風俗店の一種である。そこに待っているエステ嬢たちは自分の母親でもカノジョでもない。そんなの、利用者ならよくわかっているはずだ。といって、エステ嬢に優秀さがあるとすると、利用客に行為の幻滅を与えることではない。その反対に、何人もリピーターを増やすため、あの手この手と懸命になって客のなかの幻想を増殖させることなのだ。そんなの、ちょっと想像すればわかるだろう?

だから事件の「耳かきエステ」も、あの手この手で被告に幻想を移植していたのに違いない。しかし、あるとき以降、この客に深入りさせるとヤバイ! 被害者のエステ嬢にも、そう感じる瞬間があったのではないか。でも遅かった。そういうことだ。被告はエステ嬢の「愛」の幻想を信じた。かつて自分を抱え込んでくれた膝のかわりに、「愛」の裏切りにたいする殺意を自分の胸中に抱え込んだのだ。

事件までは発展しなかったが、よく似た経験をお持ちのブログ読者も多いのではないか。というのは、タクシーの乗客からの話でもわかる。デリヘルなどで、あまり特定の女性を指名しすぎると、相手の女性も客も多少の情が移るために、互いに擬似・恋愛感情をもつ場合も多いのだ。もちろん女性のほうは多数の男性を相手にしているから、擬似・恋愛感情には耐性ができている。無防備にも肉体までさらした、その場かぎりの演出――プロなのである。だから擬似・恋愛感情は、客としての男にたいしてだけ魅惑的な幻想として持続する。ここに悲劇も生まれる。

この悲劇を乗り越えられない、あわれな男たちも多い。とくに仕事や家庭に悩みをもっているマジメそうな男に多い。デリヘル嬢には韓国人や中国人が多いのだが、なので自分の体で大金を稼ぐと帰国し、ほかのビジネスを立ち上げたり結婚したりする。この事情を知っても、幻想と知りながら、あわれな男たちはタクシーの車内でグズグズ泣きだしたりするんだから。まいっちゃうよ、ほんと。

この事件で被告は二人を殺害していたが、逮捕されて自分の犯行をアッサリと認めた。逮捕の現実によって、自分が生きていた幻想の一片まで跡形もなく蒸発したことだろう。光も瓦礫もない荒野に立ちすくんで、彼に残されたものは死罪相当の刑罰以外になかった。

このあわれな男を許してやれ、といいたいわけではない。といって、風俗産業が振りまく「幻想」に目をつぶるマスコミ関係者(じつは、こいつらに風俗の利用者も多い)にも疑問を持っていたのだ。もともと、風俗は危ない裏産業である。それを知りながら金を稼ぐのが風俗関係者でもある。なので、ヤクザが暗躍しやすい業界である。

さて、裁判員たちはどういう見解をもつだろう。そこに注目していたわけだ。
いろいろ問題はあるだろうが、単純な死刑判決ではなかったことにホッとした。


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