エアーズロックのおおきなポスターを広げてる。
傍によって、編集長のうしろからのポスターを眺めた。
「夕日・・のエアーズロック・・にみえるだろう?」
うん?
「ところが、これは、朝日なんだな。
にび色をしてるから、夕日に錯覚する・・」
え?
あたしはまじまじとそのポスターを覗き込む。
「こんなシャッターチャンスはまずない。慎吾のすごいところはここだな。
奴の前では、奇跡がおきる」
あるいは、カメラマンの資質というものはこういうものかもしれない。
チャンスを掴み取る運だけでなく、チャンスを起こす。
何度寝ぼけ眼で朝日に浮かぶエアーズロックに挑んだことだろう。
「だけど、ポスターにはそんな説明一言もはいらない。
あるいは、夕日とまちがわれてしまうかもしれない」
その公算のほうがおおきいだろう。
「慎吾にとって、どう、眺められるか、どう受け取られるかなんて、どうでもいいことで、どこまで、自分が被写体にこだわっていくかしかでない」
「それが、写真がすべてを語る」
「お?いいことをいうな。極めたものだけが、天才と呼ばれる」
すでに天才の範疇に入った男はそれでも、まだ、なにかを極めようとしている。
いつまでも、エアーズロックを眺めていても仕方が無い。
午後から、ビストロのランチを撮影しにいくことになっていたから、
事前に、ランチをたべておこうと思った。
ビストロの店内のムードもつかんでおきたかったし、
やはり、客層をみておくのが、一番良い。
さりげない配慮があると、客層がかわる。
窓際の鉢植えにオリーブの実がなっているイタリアンレストランは
中年層の女性の嗜好をくすぐるのだろうか?
落ち着いたタイプの客層が多いようにみえた。
店のつくりによっても、物静かに食事をとるムードと
会話が食事に華をそえる団欒のムードがあったりする。
物静か過ぎれば、光の差し込ませ方で明るい和やかなムードを強調させることもできる。
まあ、どっちにしろ、下見がてらにいってこなきゃならない。
時計をちらりと見上げる。
11時過ぎ・・。
今から、いけば、丁度よいか。
「次・・いってきます」
編集長に声をかけたら、
「あそこはな、エスプレッソが巧い」
「・・・・・・」
料理は・・どうなんだろうと?不安になりもするが、
編集長も下見にいったことは間違いない。
「こっちから、取材させてもらう以上はな・・」
にかっと笑ったけど
編集長は「押しがない」と思ったら、載せない人だから、
大丈夫なのは、間違いが無い。
ビストロで、たどりついて、みれば、
店先からなかなかのつくり。
もったないかと想うくらいの庭をつくり、
テラス風にしあげている。
テラスに面した窓は大きく開放感がある。
すこし街路より奥まっているから、通り行く人たちとは、
世界の区切りがつけられていて、
アメリカハナミズキがテラスの脇に枝をのばして、妙に優しい。
ビストロの世界の門番のようでもある。
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