every word is just a cliche

聴いた音とか観た映画についての雑文です。
全部決まりきった常套句。

『Bitter, Sweet & Beautiful』リリースから一ヶ月目の覚書

2015-08-27 | HIP HOP
『Bitter, Sweet & Beautiful』
Rhymester10枚目のオリジナル・アルバム。
9作目である前作『ダーティ・サイエンス』は大傑作だった。

Rhymesterの真骨頂である80年代後半から90年代半ばあたりまでの―いわゆる黄金時代―のヒップホップをいまの響きに鳴らしたIllicit Tsuboiの手腕も冴え渡ったプロダクションも素晴らしいし、自分たちの持ち味を活かしつつ新しいフロウにも果敢に挑戦したRhymesterのラップも冴えていた。

なにより先行シングル「Choice Is Yours」は最高にフレッシュだったし、ネタ使い含めたメッセージにオトナならではの矜持も漂わせた名曲だった。それを更にリード曲的にラジオでO.A.された「ゆめのしま」で推し進めて、期待を最大限に膨らましながらも、それ以上に応えた。


実際25年もキャリアを重ねて、それでもフレッシュな曲を出していけているヒップホップ・アクトなんて広い世界を見回しても数えるほどだし、『ダーティ・サイエンス』を超えるのはムリだろう…と正直、期待はしていなかった。


それでも初回盤を買ったのは、まぁファンだってこともあるけれども、さきの『人間交差点』(フェスの方)が素晴らしかったからDVDを欲しかったというのが大きい。で、一聴したら地味だな…と思ったのだけれども。

*長い前置き終わり
なんのこれが前作とはまた違う趣の大傑作でしたよ!

Bitter, Sweet & Beautiful


何よりも素晴らしいと思ったのは配信中心の時代の趨勢に抗うかのように1曲めから順番に聴くことによって意味・価値が何倍も膨らむような構成に凝られいること。それはトラック的にも、ラップされるメッセージ的にも。

楽曲単位で販売されていく配信サイトから定額聴き放題へのサービスに音楽産業はシフトしていっているけれど、UI(ユーザー・インターフェース)の都合から聴き放題サービスはアルバム中心の聴き方になるのではないか? と個人的に感じている。

もしその予感が当たっているとして、Rhymesterもそういう考えのもとアルバム中心主義に立ち戻ったのだとしたら凄いな。

そして各媒体でのインタビューが一々素晴らしい。基本的に同じことを言っているのだけれども、同じ言葉を繰り返すのでなく各媒体向けにフレッシュな言い方をされていて、各々記事として読み応えのあるものになっている。

勿論これは各ライター、編集者が素晴らしい仕事をしているということでもあるのだけれど、インタビュー記事というのは書き手側だけで作るものではないし、そういう書き手の仕事を促したという意味でもインタビュー記事を含めて『Bitter, Sweet & Beautiful』というプロジェクトだと捉えてよいだろう。

Bitter,Sweet&Beautiful(初回限定盤B)(DVD付)
RHYMESTER
ビクターエンタテインメント
2015-07-29



『Bitter, Sweet & Beautiful』はタイトルに込められたメッセージが中心のコンセプト・アルバムだ。その解題は本人たちによる公式ページ記事や件のインタビュー以上のモノはない。

こういう場末のBlogとしては「それを踏まえてどうだ」というオピニオンが必要だ。けれど、それは時間が掛かるものだし、一朝一夕で何かしらの見解を述べるというものでもないと思う。

吉田健一ではないけれど、日々の暮らしを美しくすること以外に回答はないのかもしれないとすら思う。




取り急ぎ、『Bitter, Sweet & Beautiful』リリースから一ヶ月目の覚書。


多分、年末に今年の何枚とかそういう類の記事でもう一回書くだろう。

その時に2015年の自分の暮らしは"美しかった"と言いたいもんだと思う。



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