《落日菴執事の記》 会津八一の学芸の世界へ

和歌・書・東洋美術史研究と多方面に活躍した学藝人・ 会津八一(1881-1956)に関する情報等を発信。

大田区立龍子記念館

2022年05月31日 | 日記











画家・川端龍子のアトリエ。
健剛をモットーとした川端画伯にふさわしい雰囲気。気品と実用性が融合している。


秋艸53号

2022年04月03日 | 日記


「秋艸」53号が届いたので、さっそく読んでいる。
「秋艸」(しゅうそう)は、新潟市會津八一記念館の「友の会」のような位置付けである「秋艸会」が年2回発行している会報。 

今号で特に面白いと思ったのは、郡司いく子、和田博一、太田春男の各氏の文章である。

郡司氏は、八一が、たまたま自邸に遊びに来た子供の落書き(八一の顔)に、即興で歌を詠み、それを絵ハガキにしたことを述べる。その子は、八一の風貌を鬼のように描き、八一はそれを面白がっているわけであるが、子ども好きだった八一のリアルな姿を伝える面白いハガキだし、それを紹介する郡司氏の文も快い。八一の子供との関わり方は、もっと研究されてよいと思う。小説「鳩の橋」は、文学としてはやや素朴だが、資料としてとても興味深い。

和田氏は、直接は存じ上げないが、奈良在住の八一の熱心な読者として記憶している。お年を召されてから視覚ハンディを持たれたようだが、それにも負けず、聴覚から八一の歌や作品を楽しんでおられる様子だ。八一の歌ほど、音韻的に計算されて詠まれた歌はそうない。もし視覚障害の方にも八一の歌が響いているとすれば、八一の作品の普遍性を証明するなによりの証拠となるだろう。

太田春男氏は、中村屋のOBで、新入社員時代、直接八一の謦咳に触れている人。氏の文章も八一の姿をいきいきと描いている。

お読みになりたい方は、ファックスか郵便で秋艸会に問い合わせを。
〒950-0088
新潟市中央区万代3-1-1 メディアシップ5階
新潟市會津八一記念館内秋艸会事務局
FAX.025(282)7614

逆境への気構え 昭和20年8月の会津八一書簡から

2022年04月03日 | 日記
新型ウイルスに世界中が悩まされている。社会的な困難に遭遇するとき、必ず思い出す八一の書簡がある。
それは昭和20年8月22日付の吉池進宛の一節である。すこし引用してみよう。

拝啓 戦争も一段落を画し候。(中略)日本としては初めてのことなるも、支那の芸苑の人士はしばしばかかる情況に偶いその下にて優れたる文芸を醸し成し候。我らとしても徒に慷慨悲傷にのみ終わるべからず候。

(正字は当用漢字に、仮名遣いは現代仮名遣いに直した)

現代語訳
拝啓、終戦を迎え、大東亜戦争も落ち着きました。日本の歴史としては、敗戦というのは初めてのことですが、歴史的に中国の文人墨客は、しばしばこのような状況に遭遇しても、それに負けることなく、素晴らしい芸術を作り上げました。私たちとしても、いたずらに嘆き悲しんでいるわけにはまいりません

この八一の書簡は何度読んでも勇気づけられる。八一は昭和20年5月の空襲で、東京の家と書物・美術品を殆ど失い、疎開した新潟ではたった一人の家族であった養女キイ子を病気で失っている。疎開前に、早稲田にも辞表を出しており、職も失っていたのである。そのような人生最大の苦難に遭っても、なお芸術を心の支えとして、逆境に打ち勝とうとした気構えは、今でも多くの人の心に響くのではないか。

コロナウイルス禍に負けないためにも、今一度、先に掲げた八一の言葉をかみしめたい。

小津安二郎の愛した会津八一の書

2022年03月07日 | 日記
鎌倉文学館の展示『作家のコレクション』を観た。映画監督・小津安二郎旧蔵の会津八一の軸が展示されていると聞き、興味を持った。




かつて当ブログで、小津安二郎の作品『秋刀魚な味』に八一の書が出てくることを書いたが、まさにその作品を見ることができた。これは僥倖だ。




八一の書は、歌集『鹿鳴集』の「印象」の一首であった。印象は中国古代の詩を八一が和歌に翻案したもの。

耿湋作

返照入閭巷 憂来誰共語
古道少人行 秋風動禾黍

八一歌

いりひさすきびのうらはをひるがへしかぜこそわたれゆくひともなし

この軸を小津安二郎がどのようにして手に入れたかは不明であるが、見事な筆で、八一の書の中でも、最高傑作の一つと思われた。

会場には小津安二郎とお母様が二人で写っている写真があったが、その背後の床の間にもこの軸がかけられており、小津のお気に入りだったことがわかる。

わざわざ鎌倉まで行った甲斐があった。

その後、作家でロシア語通訳として活躍された米原万里さん(1950-2006)の墓を訪ねた。
竹林の中にあるいかにも鎌倉らしい墓だった。

米原万里さんの作品は何を読んでも時が経つのを忘れるほどおもしろい。









鏡板を訪ねて 国立能楽堂

2022年01月16日 | 日記





緑青の色映えがとても素晴らしく、観ていて飽きない。森田曠平画伯の揮毫