今朝の産経新聞の「朝の詩(うた)」に、
とてもよい詩があったので紹介したいと思います。
タイトルは「妻を偲び」という82歳の男性の書いたもの。
全文を掲載します。
大晦日
買い物終えての帰り道
「クジ運悪いね」と
言う私
前ゆく妻は何げなく
うしろ指さし
「イインダこれが
一等だったから」と
少し遅れて気付いた私
口では「なんだ」と
言いながら
こころのなかで
「ありがとう」
なぜこの詩に感銘を受けたのか。
この詩には、文字に書かれていること、そのものを超えて
いくつかの状況、場面を想起させてくれます。
そして、これは言わずもがな、のことなのですが
読者が、この詩を読んであれこれ想像したことは
どこまで行っても、想像の域を超えることはできず
真実は、作者にしかわからない、ということです。
大晦日に夫婦連れ立って、買い物に出掛け
町内セールの福引きでもしたのでしょう。
なぜ、妻が前で、自分が後ろを歩いているのか?
つまり「クジ運悪いね」は、妻の背中越しに投げかけた言葉。
なぜ、面と向かって言わず
妻は後ろ指さして言ったのか?
なぜ「イインダ」はカタカナ表記になっているのか?
口では「なんだ」と言ったのは、果たして
妻に聞こえたのか?もし聞こえたなら
どうリアクションしたのか?なぜそれが書かれていないのか?
「ありがとう」と、なぜ口に出さなかったのか。
最後に残された謎。
なぜタイトルが「妻を偲び」なのか?
わたしは、これは、やはりすでに妻はこの世にいない、と思いました。
最後の「なぜ」だけは、個人的な想像を書きました。
この詩の読み手である「あなた」は、わたしの「なぜ」を
自分なりに想像して鑑賞、解釈していただけたらと思います。
ものの1分もしない、テレビドラマとして成立さえしないような
わずかな大晦日の時間を切り取ったこの詩。
人と人の織り成す言葉にできない慈しみや
思いやりの気持ちがあふれる詩だと思いました。
と、つらつら書いているうちに
大晦日も終わりです。
もうすぐ新年ですね。