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【えちぅど】初秋のこひつじ


 もうそろそろ、秋といってもいいのかもしれない。
 昼間は日差しは強いが、蒸し暑さは消えて、吹きつける風は心地良くもあれば、邪魔であるともいえた。
 日が暮れるのも早くなって、空気も乾いている。やはりこの時間も風が吹きつけるようになった。ハロウィンがあり、クリスマスがあり、それから大晦日が待っている。街が少し浮き足立っているせいかもしれない。
 なんだか気持ちが落ち着かないのは。
「冬ってなんかざわめくよな」
 突然、隣で彼が口を開いた。アイシアッテいるから気持ちが通じるのだろうか?いいや、似ていないようで実は似ていたからこのような関係になっている?これも少し違う気がした。みんな、そうなのだろうか。季節の変わり目に、普遍的な焦りと期待がある?
「同じことを考えていた」
「"考えて"たんだ。オレはなんとなく思ってた。ははは、オマエらしいや」
 気温自体は夏より少し下がったくらいで、この時期は着るものに悩む。俺は寒がりだから、日が暮れる頃には薄手の羽織るものがほしいところだった。けれど彼はどうだろう。まだ日焼けの残る腕を風が切っていく。
「この時期の風って好きだな。ちょっとばたんばたんうるさいケド、なんか……季節が1周したな、って」
「秋でか」
「夏の存在感(インパクト)がデカすぎんだよな、この国は。でも好きだ、なんか。四季があって、色んな国のイベントいいとこ取りしてさ」
 彼が快活に笑っている。季節や気候や時間帯に影響されやすい俺とは裏腹に、彼はいつでも元気だった。
「へぷちッ」 
 特徴的なくしゃみを聞いて、服装と時間帯がやはり合っていなかったことを知る。
「寒いか」
「風が気持ちいいくらいなんだケドな」
 ふと、既視感に襲われた。それは視界によるものではなかったのかも知れないけれど。軽く体当たりするように、隣から彼が身体を寄せてるのだった。
 俺が守るべき場所(もの)で、俺が守られている存在(もの)だと、俺の思考(もの)ではあるけれど、直感に似た情感が湧き起こる。
 言語化するとしら、それは「安らぎ」であるのに、同時にどこか緩やかな焦燥でもあった。もし言語として矛盾しているのだとしたら、それは当て嵌めた言語のニュアンスの違いであって、俺にとっては両立する訳の分からない感情なのだ。
「あったかくないケド、あったかいな。冬が楽しみ。モコモコしてさ。ひつじみたいになってあったかいーって」
 人の往来がある。けれど俺は構わず、もっと近くに大規模に、彼を抱き寄せた。

***
2023.10.7

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