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アンパンマンとウルトラマン 2

2006年06月26日 | 思うこと
続きです。こんどはアンパンマンです。

アンパンマンの場合は、より明確に作者の正義というものに対する不信があるのです。
主題歌も改めて見直してみると、なかなかシビアですよ。「アンパンマンのマーチ」で検索を。

この話の元ネタは「アンパンマンの遺言」やなせたかし著 です。
残念なことに絶版なので、以前図書館で読んだときの記憶がたよりです。

やなせ氏は1919年生まれ(現在87歳ですか)です。
知っているひとには当たり前ですが、意外な高齢です。
「アンパンマンの遺言」は氏の自伝で、なかなかヒットしない苦しい日々のこと、出会った人たちのこと、夫婦の絆などが語られていて、とても良い本だと思うのですが、残念ながら絶版です。

やなせ氏は中国大陸で終戦を迎えていますが、それは、氏にとって「正義」が崩れさる経験だったといいます。
昨日まで正義の軍隊だった自分たちが「賊軍」になる。
正義をうたって肩で風を切っていた上官があるいは自決し、あるいは腑抜けの様になる一方、軍隊内では無能呼ばわりされていた元やくざや、元映写技師などが、地元の中国人相手にバクチ場をひらいたり、映写会を始めたりと俄然元気になる。
こんな価値観のどんでん返しを目の当たりにするのです。
軍隊生活のなかで、実は以前からくすぶり続けてきた「正義」への疑問、不信が終戦を期に明確となったのですね。

それゆえ、アンパンマン(初期にはあんぱんまん)というヒーローを生み出すに当たって「正義」を背負わせることが出来なかったといいます。
「正義」に代わるヒーローの芯を氏は「思いやり、やさしさ」に求めたのですね。

餓えたひとに自分をちぎって分け与えるヒーロー、それがアンパンマンの原型です。
困っているひと、苦しんでいるひとを見た時、打算もなにもなく、自然に手を差し伸べてしまう、自分を分け与えてしまうという(ひとつのパンを分けるのはキリスト教的でもある)ひとが生来持っている思いやり、やさしさをアイデンティティとするヒーロー、それがアンパンマンです。
外部からの圧力や押しつけに負けず、真に自分の中の「幸せ」を見つめること、そこに自然に存在する「思いやり、やさしさ」が大切。この辺がアンパンマンを通して語られる氏の人生観ですね。

結構深いでしょ。はい、うるうるです。

まあ、アニメは、日本の食文化の豊かさの方が目につきますけどね。

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2 コメント

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深いですね (ひぐちあきお)
2006-06-26 12:16:59
ビデオもDVDもある時代、今の子供たちに両方の番組を見せることが可能になったわけで、本人たちにそれぞれの感想をいわせてみるのもいいかなと思いました。

昨今、ぼくが危惧しているのは、ヒーローの戦隊化現象です。ウルトラマンもそうですが、兄弟や仲間、本来単独だったヒーローがいつの間にか群れを作って、敵(ときとして単独)をやっつけてしまう。まあ、特撮やアニメ番組を援護するスポンサー(オモチャ会社)にとっては、ヒーローは多い方がいいわけですけれど。

幼い頃にその刷り込みがあって、今の時代の子供たちは何かと孤立を畏れ、集団化していじめをやったり、常に相手よりも優位であろうとするのではないかと(それが弱者に対する犯罪へと……)。

杞憂ならいいんですけど。

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今も昔も (ひろなん@風琴屋)
2006-06-26 23:59:19
ひぐちさん、ようこそ!



ひぐちさんのブログのおかげで、懐かしい記憶に浸ることができました。



集団との関わり方は私の人生のテーマのひとつです。集団というものとは対立することが多いので。

日本人は「個」の自覚や自立性が弱いとはよくいわれることですが、孤立を畏れて集団化する連中は昔から多い気がします。



私が子供のころのヒーロー像は、昭和40年代のニヒリズムの影響か、孤独なものが多かったようです。



私に強く刷り込まれているのは、「素浪人 花山大吉」のシリーズです。

何ものにも所属しないひとりの素浪人こそがもっとも強い存在だと、そして弱い者が群れるものだという概念が無意識レベルに刷り込まれてしまったのです。

そして、今に至っております。素浪人になっちまいました。



今でも、仮面ライダーは見ても、戦隊ものはほとんど見ません。

大勢でひとりを攻撃するということに対しては、圧倒的な力の差があることが必須条件ですが、それでも気分が良くありません。

もちろん、戦隊ものの制作者がその辺をよく心得ていて、いろいろ工夫していることも分かってはいますが。



この辺のところでも思うことがあるので、いずれブログの方に書こうと思います。



またどうぞ!
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