いのちの煌めき

誰にだって唯一無二の物語がある。私の心に残る人々と猫の覚え書き。

茂さん

2023-04-29 01:15:00 | 日記
茂さんは80歳代、男性。慢性呼吸器疾患を患っておられる。在宅酸素吸入を必要とされているが、それ以外、身体の麻痺も認知症もない。

現役時代は会社役員をされていたそうだ。今でも、その頃の名残りが残っている。私が家事援助に伺った時も、上司から部下に指示を出すような口調になることがあった。なんだか、ちょっと面白い。私が関わるのは短時間のことだから、内心、面白がって、やり過ごしていれば問題ないのだか、これが奥さんで、毎日のことなら、大変だっただろうな…と想像する。

また茂さんには、アルコール依存の傾向も見られた。部屋の中には、いつもワインの空き瓶がゴロゴロしていた。毎日、夕方頃からワインを飲み始めるのだか、何かのことで、うっかり、その時間帯に訪問してしまうと、とても機嫌が悪く乱暴な対応をされた。飲んでいる時の茂さんは、かなり恐い。

私は茂さんの居室では、特に念入りに(上司みたいに叱られないように)お掃除をするようにしていた。ある時、その掃除を気に入ってもらえたようで「いつも家の中を、こんなに綺麗にして貰えてたら、旦那さんは幸せやろうな」と言われたことがある。それから、呟くように「わしは若い頃は、そういう事が全然、わかっていなかったんや」とも。何か、深く後悔しているようだった。

茂さんの奥さんは鬱病を発症して、別の施設に入所しておられた。

もっと、労わってやればよかった、優しくしてやればよかった、茂さんの心には、そんな気持ちが込み上げていたのかもしれない。でももう、遅すぎたのだ。