見出し画像

ばりん3g

「経験中心の履歴書」と主張した人の特徴を、教育心理学の観点から考察。

今週の頭ぐらいからか、「学歴中心の履歴書から経験中心の履歴書へ[1]」なる主張を中心に議論が展開された。私がSNSを視聴した時は、経済格差と学歴の構造を理由とした批判が殆どだったが。

学歴やら経験やらといったお話は教育心理学にも関係があるため、本来なら私も「経験中心の履歴書が一般化したときに発生する災禍」といった真っ当な批判を投稿するべきだろうが、真っ当な批判はすでに成田悠輔さんをはじめとした方々が構築されているのでそちらを参照してほしい。

この記事では、当該議論を違う視点から考察する。

「経験中心」を主張した人が、なぜこのような主張をするに至ったかを、教育心理学の観点から考察していく。

 

まず、「個人が持つ唯一無二の経験。いつからでも、自分の頑張り次第で結果も生み出せて[1]」の文脈より、主張した人にとっての経験は自発的な学習行為であると仮定しよう。

そして「学歴中心の履歴書から経験中心の履歴書へ」の主張から、主張した人は自発的な学習行為を重んじる人であると推測する。

 

自己決定理論[2,3]は前提として「人は生まれつき好奇心旺盛で学習意欲に富んでいる生物」だと仮定しているが、「その生まれつきの特性は外的要因によって簡単に抑制される」とも主張している。

この主張はWHOが定義する健康[4]と相関関係にあり、それらと絡めて簡潔にまとめると、人間は不健康なとき、意欲が続かない生物であるといえる。

人を不健康にするものは幅広く、睡眠習慣[5]や食習慣の乱れ・意思決定の権限が手元にない環境[6]・破綻した人間関係[7]・債務状況[8]など、健康や社会や精神衛生などの観点から観測されたものが相互作用的に働いている。

これらの要素は意欲減退を招いたり[9]、自発的な学習行為を妨げたり[10]、うつ病を引き起こしたり、あるいは物理的な疾患を招いたりする。

人間は不健康なとき、自発的な学習とかどうこういってられないぐらいに衰弱するのだ。

 

不健康を解消するためにはヒト・モノ・カネといった広域的な資産が必要だ。

規則正しい睡眠と食生活、意思決定の権限が自分にある環境、自律性を認め合える仲間、それを維持できる充分な金銭が人を健康にし、そして自発的な学習行為を促進させるのだ。

これを示唆するのが、反転教室だ。

反転教室[11]とは主に、それまで授業で行っていた基礎学習を宿題として課し、授業では応用的な学習を展開する授業形態のことを指す。

具体的な構造は自発的な学習の促進方法の詰め合わせであり[12]、オンラインサービスによる課題の管理やビデオ授業の閲覧、ディスカッション形式の授業、生徒同士や生徒先生間のコミュニケーションツールの導入などが見受けられる[13]。

反転教室の実態は非常にコストが高い授業であり、先生はディスカッション進行や調整などの技術習得が課せられ、生徒は授業外学習を課せられ、学校はオンラインサービスの維持を課せられる。

これらのコストを解消できるだけの資産、ハイスペックな先生や授業外学習を課されても問題ない身辺整理された生徒やサーバー構えてもへっちゃらな学校がそろって初めて、反転教室はその効果を発揮する[13,14]という。

なお、見込める効果は生徒の自発的な学習行為の強化が主[13]なのだとか。


ここからは完全に私の持論。

自発的な学習行為ができる人は、自発的な学習行為を推進する傾向にある

青山学院大学出身の、英語文献黙読が趣味な私の友人は「起業家育成学校」と口うるさい。私の知り合いの、神奈川大学出身と新潟大学所属で有機農業にお熱なお二方は、方向性はやや違うが「農業を介した自律的な場所の提供」をそれぞれ掲げている。

理由としては、発起人である自分たちもその活動に参加したい、活動の恩恵を受けたいという願望があるからだろう。神奈川大学出身の人は「参加者と提案者の壁をなくしたい、全員が等しく自律性を発揮できる場を」と主張している。

彼らは、自分たちが望む活動を自分で作ろうとするほどに自発的なのだ。

そして、彼ら自身が自発的な学習行為に長けているため、望むものが「自発的な学習行為のためのものづくり」になるのだろう。

 

主張した人は早稲田大学の出身で「「地球をひとつの学校にする」をミッションに掲げるWorld Roadを設立」、「ひとりひとりが自分の軸で生きる境界線のない社会を目指し」ているという[15]。

経験中心を掲げ、両親の教育方針で感謝していることに自己責任と言う[15]この人にとって、自身の活動は自分にとって居心地のいい場所づくりなのだろうか。

 

自発的な学習行為は、健康な生活のための資産があることと高い相関を持つ。

自発的な学習行為ができる人は、自発的な学習行為を推進すると推測する。

自発的な学習行為の推進は決して悪いことではないが、その行為が健康を前提としていることを忘れてはならない。

 

 

参考文献

[1]SAKISIKU 2022年8月24日12:10 「学歴中心の履歴書から経験中心の履歴書へ」女性起業家の発言が10か月経って“炎上” https://sakisiru.jp/34859

[2]Edward L. Deci &Richard M. Ryan (2000) The What and Why of Goal Pursuits Human Needs and the Self-Determination of Behavior.

[3]Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Psychologist, 55(1), 68–78.

[4]公益社団法人 日本WHO協会 世界保健機関(WHO)憲章とは https://japan-who.or.jp/about/who-what/charter/

[5]Louise Beattie,Simon D.Kyle et al. (2014) Social interactions, emotion and sleep:A systematic review and research agenda.

[6]Töres Theorell, Anne Hammarström et al. (2015) A systematic review including meta-analysis of work environment and depressive symptoms.

[7]Annick Cudré-Mauroux,Geneviève Piérart et al. (2020) Partnership with social care professionals as a context for promoting self-determination among people with intellectual disabilities.

[8]Maya Clayton,José Liñares-Zegarra et al. (2015) Does debt affect health? Cross country evidence on the debt-health nexus.

[9]Richard M. Ryan &Edward L. Deci (2000) The Darker and Brighter Sides of Human Existence Basic Psychological Needs as a Unifying Concept

[10]Flink, C., Boggiano, A. K., & Barrett, M. (1990). Controlling teaching strategies Undermining children's self-determination and performance. 

[11]J Bergmann,A Sams. (2012) Flip your classroom: Reach every student in every class every day.

[12]Jacqueline O'Flaherty and Craig Phillips. (2015) The use of flipped classrooms in higher education A scoping review.

[13]Zamzami Zainuddin and Siti Hajar Halili (2016) Flipped Classroom Research and Trends from Different Fields of Study.

[14]Sarah J. DeLozier & Matthew G. Rhodes (2017) Flipped Classrooms a Review of Key Ideas and Recommendations for Practice.

[15]GOETHE 2022.04.09 【平原依文】8歳で中国へ単身留学、培われた国際人としての嗜み──連載【起業家の星】Vol.01 https://goetheweb.jp/person/article/20220409-ibun_hirahara01


論文を参考にいろいろ喋るブログです。

名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「旧記事群」カテゴリーもっと見る