今どきの依存症 ハマるを科学する
磯村毅
今どきの依存症。と聞いて何を連想しますか?
ネット?ゲーム?携帯?
私の専門は呼吸器内科です。
肺病診療のため禁煙支援するうちに他の依存症にも関心が広がってきました。
私は内科医なので依存症を脳の変化と行動や心理の相互作用という観点から見ています。
脳科学の知見を交え考えてみます。
◇止まらない回路
依存症とは単にその薬物や行動を頻回に繰り返すということではありません。
コントロールできないことが重要です。
それは「やり始めると止まらない」ということです。
アルコール依存症になると節酒は困難です。
程々のところで切り上げることができません。
そこで「断酒」を試みることになります。
私の患者さんに五年間断酒をしていた人がありました。
その間に仕事に復帰し娘さんの結婚も決まったそうです。
ところが、その娘さんの結婚式の日、今日くらいいいか、と一杯飲んだ。
それがきっかけで毎日飲む生活に戻ってしまいました。
依存症になると脳内ドパミン神経に大量のシナプスができ、
非常に信号が伝わりやすい回路となってしまいます。
依存対象に過敏となるのです。
そしてこの構造変化は死ぬまで続くと考えられています。
まるで一度自転車に乗れるようになると死ぬまで乗れるのと同じような変化が神経系に生じます。
ギャンブルやゲームでも止まらない回路ができることは間違いありません。
ギャンブル依存となるとつきあいでパチンコに行くことは困難です。
一回のつもりでもずるずる繰り返し元の木阿弥です。
◇他の事では楽しめない
依存対象への過敏化に加えて、依存対象以外には逆に鈍感になっています。
薬物依存症患者に性的な刺激を起こすビデオを見せても興奮するはずのドパミン神経の反応が低い。
金銭報酬や食べ物による刺激に対しても低い。
こうした変化はアルコール・ニコチン・ギャンブル依存症でも共通しています。
ただしこの幸せが感じにくいという現象の原因についてはまだ不明確です。
一般的には成育歴や生まれつきの性質により、
もともとリラックスしたり幸せが感じにくい人が依存症になりやすいと考えられています。
ただ私はそうした要素に加えて、薬物を摂取する、ギャンブル・ゲームを行うということ自体によっても
幸せが感じにくいという変化が起こされると考えています。
たとえば、喫煙者は、もともとは食後にタバコを吸う欲求はなかったはずなのに、
しばしば食後にタバコが吸いたくなります。
これは常習的喫煙により脳のドパミン神経が弱り、食事により本来食後に出るはずのドパミンが出ず、
物足りなく幸せが完成しないため、と考えるとつじつまが合います。
あるいは、登山の後景色の良い頂上で一服。
これも非喫煙者からすればなぜこの一番景色の良い空気の良いところで吸いたくなるの?と不思議ですが、
そういうところでこそ、ドパミン不足のためなんとなく物足りなくなってしまう。
というようにいろいろな場面が説明しやすいのです。
この依存性薬物や行為には依存対象以外に対して幸せを感じにくくする作用があるという仮説を
「失楽園仮説※」と呼びます。以下はそれに沿って考えます。