彼らは漫画やアニメの業界で一旗揚げようと、「トキワ荘」よろしく世間に揉まれてもがいていた。
親分肌の「クロダ」くんは業界人も舌を巻くほどの博識なオタクで、最年少の「はっちゃん」は一番絵が上手いが絶対彼女できなそうな永遠のチェリーボーイ、3人の中では最も常識人だがチキン野郎の「ポッター」というニックネームは多分このオヤジが言い出したのだと思う。
「ハリーポッター」みたいな眼鏡をかけていたから「ポッター」で、モグランポ の常連さんたちも自然に彼のことを「ポッターくん」と呼ぶようになっていった。
彼は声優志望で、まあ3人の中では女子には一番モテそうなタイプだが気が弱いのが難点だった。
その当時店にはよくテレビ制作のスタッフから、出演依頼やら面白い人がいないかというような連絡があった。
何度か興味本位でテレビに露出したこともあったが、スタッフがダメだったり後が面倒臭かったりといいことがなかったからそれ以来断っていたけれど、ある時「銭形金太郎」のスタッフから面白い貧乏さんがいませんか❓という依頼があり、真っ先に思い浮かんだのが「ポッター」だった。
「声優を目指す貧乏さん」なんてちょっといいじゃないかと考え、とにかくきっかけ、チャンスをものにしなけりゃあの業界でやっていけないだろうし、何が転機になるかわからないのだからグイグイやらにゃいかんと、まず親分の「クロダ」くんに話すと、
「いいじゃないすか、やりましょうよ、ガンガンいきましょうよ」
と彼が言い、すぐに「ポッター」を呼び出した。
どうせやるなら徹底的にテレビ的演出をしちゃえと、彼をもっと貧乏くさく見せよう作戦を「クロダ」くんと話しているところへ本人がやってきて、このチャンスをものにしようと話すと・・・、
ああ、残念なチキン野郎は、
「銭金だけは勘弁してください・・・クニの親が見たら悲しみますので・・・」
ぬわぁにぃ💢 何を昭和の好青年みたいなことをほざいてやがるんだコヤツは😡
どう説得しても「銭金」だけは、と固辞するのでこの話は流れてしまった。
ああ、つまんねぇの。
そんなチキン野郎の「ポッター」は女子に対しては積極的で、当時いっぱいいた「ヨウコ」のふたりに想いを寄せていた。
ひとりは「日本天然党」の総裁にしてド天然の「ヨウコリン」で、だが彼女は懸命にも調子コキ大魔王の「バーバーくん」に傾いていたので思いは叶わず。
次のひとり、当時我が家に居候していた「ようこ」に言い寄ったのだ。
まあ若い男女が好きあってどうなろうとかまわないし、親父ヅラして苦言をたれるようなヤボではないけれど、我が家の近くを手を繋いで歩く二人を見て冷やかしで声をかけたら、「ポッター」大慌てで後も見ずに駆けて逃げていった。
なんだよ、オマエは犯罪者か⁉
やましいことでもあるんか❓
そんなことがあって後日、店の近くで「「ポッター」を見かけたのでまた声をかけようとしたら、さっと電柱の陰に隠れやがったのだ。
オマエは寅さんかっ👊
今考えてもあの光景は笑っちゃうが、その後貧乏くさい3人組の貧乏くさい生活は終わりを告げ、「ポッター」は声優の道を諦め生業につき、チェリーボーイの「はっちゃん」は苦節ん年漫画家デビューを果たし、「クロダ」くんは今でも業界でシコシコ頑張っている。
あんな若者たちとめぐり合うことはこの先あるだろうか❓
見事な貧乏だったけど楽しそうで、金のない中ちゃんと酒も飲んでケンケンガクガクの議論もぶつけ合って、まだ定期的に集まっているようだ。
風の噂で「ポッター」は地元北海道で結婚してお父さんになっていると聞いた。
昨夜電話で予約してくれた男が、まさか「ポッター」だとは夢にも思わなかった!(◎_◎;)
何年振りかで会う「ポッター」は、トレードマークの「ポッター」メガネではなく、年相応にちょっと太り、相変わらずコシは低く、いや懐かしい。
今は営業の仕事をして出張で東京に出てきたので、わざわざ寄ってくれたのだった。
昨日は透析して血圧が低くてテンションがあがらなったが、彼がきてくれたおかげで元気が出た。
やはり話題はあの当時のこと、そして現在の彼のこと。
2児の父になり、仕事も順調で頑張っているようで、夢は叶わなかったけれど幸せそうでなにより。
まだ当時おデブでブイブイ言っていたオヤジを、こうして覚えていてくれて会いにきてくれるなんて、嬉しい。
みんな元気で、また会えるといいなと心から思う。
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