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Youだけではダメ?英語の二人称複数の言い方

英語の二人称代名詞は単数でも複数でも「you」だと英語の授業でも習ったし、辞書にもそのように載っている。

しかし、現在のアメリカでは「you」だけだともはや単数しか表さず、相手が複数の場合は「you」の後に何かしら付けないといけないという風潮があるようだ。複数の相手に「you」だけで言うのは「人生で一度も聞いたことがない」と言い切る人もいる。
これに関してはユーチューブでも話題になっている。
you 複数 - YouTube

まず、英語の二人称の歴史について説明すると、古くは二人称単数形として「thou」があり、相手が一人でかつ親しい人(友人、家族など)や目下の人に使う親称だった。Thouを使った場合、動詞は二人称単数の活用形を使った。二人称複数形は「ye」(古くは主格はyeで目的格がyouだった)で、複数の相手の他に初対面の人や目上の人に対する敬称として一人に対しても使った。のちに主格も「you」に変わり、17世紀中に単数でも相手との関係を問わず「you」を使うようになり、「thou」は使われなくなった。
英語以外の欧米の言語の多くは現代も親称・敬称の区別がある。英語で「thou」が廃れた原因に、イギリス人は丁寧な言葉遣いを好み「you」を使う範囲が広がったことと、北欧からヴァイキングが移住し、彼らは動詞活用が複雑になるのを嫌い、動詞活用の種類が少なくて済むように二人称はすべて「you」で通したことが考えられる。

こうして、英語では長い間二人称は単数でも複数でも同じ「you」が使われてきたが、単数と複数を区別しないことで不便が生じることもあるため、複数の場合は「you」の後に複数であることを明示する語を付加した形も使われるようになった。

主なものを以下にあげる。

you guys
アメリカで最も多く用いられている二人称複数の表現。呼びかけでは単に「guys」と言うこともある。「Guy」は「野郎」、「やつ」という意味合いで男性を指す言葉だが、「you guys」は慣習的に性別関係なく女性にも使われる(男女混合や全員女性でもOK)。フレンドリーな言い方で主に親しい人に使われるが、初対面で使うことも珍しくない。授業で先生が生徒たちに使ったり、会議で上司が部下に、また複数人の同僚に使われることがある。
上司など目上の人には使うべきではないと言われているが、あまり気にしないと言う人もいるので、中には上司に「you guys」を使う人もいるかもしれない。ファーストネームで呼ぶ相手(上司をファーストネームで呼ぶことも珍しくない)になら使ってOKかな。
年齢はあまり関係なく、年上の相手に使っても問題ない。
「You guys」はカナダでも多く使われる。私が大学2年の時、Oral Englishの授業でカナダ出身の先生が生徒全員に話しかける時「you guys」と言っていた。この動画で見られるように、男女二人組の客がいて、店員が客一人(男性)に対しては丁寧な呼びかけである「sir」を使いながら二人に対しては「you guys」を使うといったこともある。

you all
比較的丁寧な言い方で、多くは目上の人に対してや改まった場面で多く用いられる。また、「ここにいるみんな」というニュアンスを出したい時(この場合「all」を強く言う)には親しい人や目下の人にも使うことがある。
二人だけで「all」はおかしいので、通常「you all」が使えるのは3人以上だと考えられている。しかし、中には二人からOKという人もいるようだ。

y’all
「You all」が縮まった言葉で、「you guys」と似たようなくだけた言い方。主にアメリカ南部で使われ、南部の方言とも言われている。インフォーマルな言葉だとされていて、目上の人に対してや改まった場面では略さずに「you all」と発音した方が無難だ。

「You all」ももとはアメリカ南部で使われはじめたフレーズで、もともとは南部方言だったとも言われている。かつては「you all」もしばしばインフォーマルだとみなされ、複数でも「you」を使うのが正式と考えられていたようで、子供に「You allはくだけた言い方だから大人と話す時やちゃんとした場所では相手が複数でもyouだけで言うように」と教えることもあったとのこと。

all of you
「You all」よりも改まった言い方で、フォーマルな場面で多く使われる。

you two, you three(人数を表した表現)
少人数の場合、相手が二人なら「you two」、3人なら「you three」というふうに、数詞を使って言うこともある。相手が目上で「you guys」を使うのを避けたい時にも使える。だいたい「you four」までが限界で、それより多い数ではあまり使われない。二人の場合「you both」とも言う。

you people/you folks
「You people」は丁寧な言い方だと言う人もいるが、見下した感じがあるので目上の人には使わない方が無難。
Folksもpeopleと似ていて「人々」という意味。「You folks」は「you people」より丁寧な言い方で、目上の人に使っても問題ない。

you ladies/you gentlemen
「You ladies」は女性が複数人、「you gentlemen」は男性が複数人いる時の丁寧な言い方。目上の人や初対面の人に使うことが多い。

you boys/you girls/you gals
「You boys」はおおむね10代までの男子に、「you girls」は女子に使う。「You girls」は全員女性の相手に「you guys」の代わりとして使う人もいて、やや上の年齢でも使われる。「You girls」の代わりに「you gals」が使われることもある。

you kids
小さい子供に使う。

二人や3人といった少人数の相手に丁寧に言う時は名前を二人称として使うこともある。単数の場合名前を二人称の主語や目的語として使うことはできず、必ず「you」を使うが、複数の場合に限って名前を二人称の主語や目的語として使うことができる。例えば「Mr. Smith and Ms. Brown」のように。

yous
一般名詞と同じようにyouに複数形の-sを付けた形。使えると便利そうだが、使われる地域が限られた方言的な言葉だ。もともとスコットランドやアイルランドの方言として使われ、アメリカではアイルランドやスコットランドからの移民が多い地域で使われる。非標準な言い方なので改まった場面や目上の人には使わない方が無難。
あと、youとyousでは「s」という子音一つあるかないかの違いだから、聞き分けがちょっと難しいかな。

everybody/everyone
ある程度の人数がいれば(特に大人数の場合)「everybody」または「everyone」を複数の二人称として使うこともある。これらを主語とした場合、動詞は三人称単数扱いになる。

「You」は「you-your-you-yours」と格変化するが、所有格と所有代名詞は相手が複数でも変わることなくそれぞれ「your」、「yours」を用いる。単数と複数を区別し複数の場合「you」の後に何かしら付ける傾向が強いのは主語と目的語、中でも特に主語である。

「You」という単語が含まれた決まり文句の一つに「thank you(ありがとう)」があるが、それ自体が熟語になっているため、複数の相手にもそのまま使われることが多い。「Thank you guys」などと言うこともあるが、「Thank you, everyone」、「Thank you, Tom and Jerry」(名前)などのように呼びかけ語を添えるだけでも複数人に言っているということが十分わかる。「皆さんが◯◯して下さったことに感謝します」というような文章で言う時は「We thank you all for coming」というふうに「you all」などを用いることが多い。「Thank you very much」はそれ自体一つのかたまりという感覚があり、複数人に言う時も「you」の直後に「very much」を続けて言うのが普通。複数を表す語を入れたい場合は「Everybody, thank you very much」とか「Thank you very much, everyone」というふうに冒頭か最後に付けるのが自然。
一方、複数の人に「またね」と言う場合「See you」だけではおかしいと言う人が多いようで、「See you guys」、「See you all」、「See you guys tomorrow」のように複数を表す語を入れるのが普通らしい。

これを話題にしたユーチューブのコメントを見ると、「イギリスでは単数でも複数でも『you』を使うよ」というコメントがちらほら見られた。一口に英語と言っても複数の国で使われるので、国や地域によって違いがあるようだ。それぞれの国の周辺で話される言語の影響もあるんじゃないかな。

イギリスから近い国の言語であるフランス語の二人称代名詞のなりたちを見てみると、「tu」と「vous」の二つがあり、「tu」は単数形でかつ親称であり、家族や友人など親しい人や子供に対して、「vous」は複数形だが単数の敬称でもあり目上の人や初対面の人などには一人に対しても使う(この点はまさに17世紀以前の英語と同じね)。つまり、敬称で話す相手には単数でも複数でも「vous」を使う。
そういうフランス語の影響もあるためか、イギリスでは単数でも複数でも同じ「you」を使うことにあまり抵抗を感じないのだろう。

一方、アメリカで最も身近な外国語といえばスペイン語だ(アメリカ国内でもヒスパニック系の多くはスペイン語を話し、第二公用語とされている)。隣国のメキシコをはじめ、中南米諸国の大部分はスペイン語圏だから。
スペイン語の二人称代名詞は単数と複数がはっきり分かれている。単数の相手には「tú」(親称)か「usted」(敬称)を使う。複数形はスペインと中南米で違いがあって、スペインでは親称として「vosotros」(男性形:全員男性か男女混合)、「vosotras」(女性形:全員女性)を使い、敬称として「ustedes」を使うのに対し、中南米では複数の相手にはすべて「ustedes」を使う。
こういったスペイン語の影響からか、アメリカでは二人称の単数・複数を区別したがる風潮が強いようだ。

カナダでも基本的に複数の相手には「you」の後に何かしら付けるようだ。カジュアルな場面では「you guys」が広く使われる。

イギリスでも一応「you」の前後に何かしら付けて複数を表す場合もあり、イギリス独特の言い回しもある。「You two」、「you three」といった人数を使った表現は英語圏各地で使われる。
「You guys」はアメリカ英語だが、最近はイギリスでもアメリカの影響で若者を中心に使われるようになってきているが、一般化していないため、「you guys」という言葉になじみがない年配者に使うと失礼にあたる可能性が高い。

英語以外の欧米の言語では、英語の「I」に対する「we」(一人称)や「he/she」に対する「they」(三人称)と同じように、二人称でも複数を表す固有の単語があり(中にはフランス語のように二人称複数形を単数の敬称を兼ねる言語もある)、複数の相手にはそれを使えばよい。その種類は1種類から数種類程度。
それに対して英語での二人称複数の言い方はかなりのバリエーションがあり(「you」をベースにして「you+何か」という言い方が多数生まれた)、欧米の他の言語と比べて複雑だ。単数でも複数でも「you」を使ってきた反動だと言える。

現代英語の二人称は親称と敬称の区別はないと言われている。単数の場合「you」一択だから確かにそうだ。しかし、アメリカやカナダでは複数の相手には「you」の前後に何かしら付けて言うのが普通になり、それがカジュアルな表現からフォーマルな表現までいろいろある。そのため、複数では親称・敬称の区別があると言えるだろう。「You guys」、「y’all」、「you boys」、「you girls」、「you people」、「you kids」は親称、「you all」、「all of you」、「you ladies」、「your gentlemen」、「you folks」は敬称だと言えるだろう。
ちなみに、他の言語では単数に親称・敬称の区別があるが複数に親称・敬称の区別がないという言語は多いが、親称・敬称の区別が複数だけにあって単数にないという言語は極めて珍しいようだ。

「You guys」はアメリカとカナダで最も多く使われている二人称複数の表現だが、単数形の「guy」はもっぱら男性を指す言葉なので、本来男性のみを指した言葉を女性にも使うのは男性優位の表れだとして嫌う人も一部いる。そういう人は「y’all」、「you people」などのニュートラルな表現を好んで使うだろうね。
女性には「you guys」に対応する女性版を使うという手も考えられる。「You girls」や「you gals」が「you guys」の女性版と考えられることもある。男女混合の場合使われるであろう「you guys and girls」、「you guys and gals」をヤフーでフレーズ検索してみたら、多数ヒットした(「girls」の方がヒット件数が多かった)。「Guy」がスラングであることを考慮すると「you gals」が「you guys」に対する女性版として最もふさわしいと言えるが、実際は「you girls」以上にインフォーマルとされている。Girlやgalは若い女性を指す言葉で、「you girls」や「you gals」も基本的に若い女性にしか使えず、「you guys」のように広範には使えない。親しい仲間内では年をとっても「you girls」や「you gals」で呼び合うということはあるかもしれないが、それ以外で明らかにgirlsという年齢ではない人たちに「you girls」や「you gals」を使うのは失礼にあたる。「you guys」と同じくらい広範に使えて「you guys」に対する女性版としてぴったり当てはまる言葉はないのが現状だ。

「You」は「人は」といった意味で一般論を言う時にも使われるが、その場合は話し相手が複数人いても「you」だけで言う。

作文ではみんなの前で発表する前提があっても「you」だけで使われることが多い。アメリカではこの場合の「you」は集団を指しているのではなく、個人個人を指しているものとしてとらえる傾向がある。これは個人主義志向の影響とも言われている。

アメリカやカナダで使われている二人称代名詞の単数形と複数形が文法上完全分離したとまでは言いがたい。先述の「Thank you (very much)」の例や、作文発表時に大勢の前で「you」を使うといったことがあるから。
アメリカやカナダでも複数の相手に「you」だけで言うことが本当に100パーセントないのかというのは疑問が残る。例えば最近のニュースで岸田首相がアメリカを訪問した際も政治的な場で複数人を指して「you」と言っていたのを見たし、改まった場面では複数の相手にも「you」だけで言うことは案外あるような(「all of you」も使われるが、単に「you」と言うこともありそうな)気がする。英語圏でも国によっては「you」を単数・複数両方に対して使えるから、国際的な政治の場では「you」だけで言っているのも見られるだろう。
「You」の直前直後ではなく「you」から少し離れた部分で複数を表す語を言う場合も時々あるみたい。「Thank you very much, everyone」もそうだけど、「you guys」と言う代わりに冒頭で「guys」と呼びかけてその後は「you」だけで言うこともあるらしい(例:Guys, do you wanna eat something?)。

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