超高機動銀河恋愛黙示録モロッソスギャラクシー

美少年刑務所の名物所長チャキオと
小悪魔ボディの見習い天使アヴダビが激突する
モロッソスみそっみそっ創作宇宙

妖精大百科フェアリー・マンダーラ40 〔チャキオ〕

2007-05-31 01:45:40 | 妖精大百科フェアリー・マンダーラ
 40匹目「テーマパークの成れの果ての精 スチ郎」

 珍しいことに洋一郎之介は外に出ました。彼は別段、引きこもりというわけではありませんが、家で色んなことをしていると、外に出る必要がなかったからです。
 しかし、洋一郎之介にはついに外に出る用事が……。担任が替わり、熱血味のあふれる先生になったため、学校を休みがちな洋一郎之介の家にまで訪れる始末。
 先生との交流ほど面倒くさいものはありません。彼らは妖精とのやり取りと違い「どうして学校に来ないのか?」だとか、「何か悩んでることでもあるのか?」だとか、答えられない質問ばかりしてくるのです。洋一郎之介には学校に行かない理由も、悩みも、何一つないのです。
「まったくあいつらはホントにクルクルパーだよ。何度言ったらわかるんだろう……。俺ほどのミラクルな存在は学校なんて好きな時にだけ行けばいいんだよ。そう、こういう遊園地に行くようにね……」
 どこまで歩いたのかわかりませんが、洋一郎之介の目の前には、さびれた遊園地が建っていました。いきなり気持ちの悪いマネキンが置いてあったり、薄気味悪い巨大なペンギン?のモニュメントが置いてあったり、入園料を払うのもためらわれる感じでした。もちろん、洋一郎之介は払うつもりもありません。お金も持ってませんし……。
「タダなら入ってやっても良かったのにな……」
 そう言って、来た道を戻ろうとした、その時です。来た時には見つけられなかったお地蔵さまが立っていました。しかし、そのお地蔵さまったら……。なんとビックリ、発泡スチロールでできていたのです。
 地蔵と言ったら石、その定義を根本から覆す存在です。更に言えば、発砲スチロールでできているのですから、頭の一部がもげたように欠けています。色々と哀れでした。
「可哀想にねえ……。色も落ちて……」
 洋一郎之介はそのお地蔵さんの頭に着いたホコリを払ってやろうと、つかみました。すると、もろくなっていた発砲スチロールですから、ボロッとなり、欠けがひどくなりました。
「ひいっ。俺……違うよ。何もしてないよ」
 誰も見てないというのに、誰に言い訳したのか、おどおどとその場を去ろうとした、まさにその時。
「おまちなさい」
 穏やかな声です。振り返るとお地蔵さんが語り出しました。
「ひゃあ! お地蔵さんがしゃべった!」
「私の名前はスチ郎。お地蔵さんではありません。私はテーマパークの成れの果ての精です」
「テーマパークの成れの果ての精……?」
 洋一郎之介はお地蔵さんだと思っていた物がいつもと同じ妖精だと知って若干ガッカリしました。
「そうです。私はとても悲しんでいます」
「どうしてだい?」
「人間というものは、本当に勝手な生き物です。できた当初はあんなに盛り上げておいて、結局このザマです。飽きっぽくて、単純で、バカで……」
 徐々にスチ郎の言葉が荒くなってきました。少し興奮しているのかな?
「でも、人間にも良いところもあるよ!」
 とりあえず、人間代表として洋一郎之介も対抗してみせました。が……
「例えばどんなところですか?」
 と、スチ郎に返されて言葉に詰まる自分がいました。
「どんなところ……? う~ん……。う~ん……」
「私はもっと言えます。人間は意地汚くて、嫉妬深くて、表面では良い顔を見せているくせに内心では小バカにしてたり、知ったかぶって自分の知識を見せつけようとするし、すぐに物を失くすし、老廃物を溜めるし、金に目がくらむし、すぐ裁判を起こすし、口を開けば文句しか出ないし、みんなと一緒のことをしてないとすぐ不安になるし、バカだし、臭いし……」
 畳み掛けるようなスチ郎の攻撃にノックアウト寸前の洋一郎之介です。
「ねえ、お兄さん。人間の良いところ、教えてくださいよ」
 スチ郎はニヤリと笑いました。
「ゴメン! 出ない! 人間ってホントに嫌な存在だね」
「そうでしょ? 分かってくだされば、それで良いのです」
「すごくよく分かったよ、スチ郎。俺、早く妖精になりたーい!」
 洋一郎之介はまるで何かのアニメのように叫びました。
「兄さん……。アンタ、素質あるよ。大丈夫。きっといつか立派な妖精になれる日が来るから……」
 妖精に? やっぱりそれは困る……、という言葉は口には出せませんでした。スチ郎のあんなに歪んでいた表情が晴れやかに見えたから……。
「兄さんには、妖精のオーラがある。……ような気がする……」
 スチ郎は自分で言い出しておいて、洋一郎之介の半開きの口を見るなり、語尾が怪しくなりました。
「ねえ、本当? それって、俺は特別な人間ってこと?」
 洋一郎之介は特別扱いを受けるのが大好きなタイプの人間だった為、スチ郎の言葉にシャカリキです。スチ郎の方も、そんな洋一郎之介に本当の事を言うのを躊躇ってしまいました。
「と……特別……? かな……? あ、う……ん……。そうかも……」
 スチ郎は少年の目の輝きを前に、何も言えなくなってしまいました。
「私は……成れの果てとはいえ、テーマパークの精……。少年の夢を壊すことはできないのです……」
 スチ郎の目から一筋の光が零れ落ちると同時に、強い風が吹き荒れました。そして、もうスチ郎の姿はどこにも見当たりません。そこには、たださびれた遊園地が建っているだけでした。

 スチ郎は飽きっぽい人間によって作られた悲しい産物なのかもしれません。しかし、あなたの記憶の片隅に、スチ郎がいたりしませんか? 今度の週末、ネズミのお屋敷に行く予定だったあなた。たまには地元の山奥にひっそりと佇んでいる遊園地を訪れてみてはどうでしょう?
 スチ郎か、もしくはどこかで見たような、法的にも怪しげな、そんなキャラクターだらけのパレードに出会えるかもしれませんよ。
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妖精大百科フェアリー・マンダーラ 39(ゲストストーリーテラー海太郎さん)

2007-05-25 23:17:13 | 妖精大百科フェアリー・マンダーラ
39匹目「大事なものを重ね合わせようとすると失敗してしまう精 ズラッシャー」

「今日は最も最悪だ!」
洋一郎之介が怒りに身をまかせてゴミ箱を蹴ると、少し外れて足の小指をしたたか打ち付けてしまいました。
「うくッ」
声もあげられず、洋一郎之介は涙目でうずくまってしまいました。
なんて可哀想な洋一郎之介。本当に今日はツイていません。

朝、5度寝をしようと思ったのに、なぜか目が冴えてしまって4度寝しかできませんでした。
ファミコンの続きをしようした時は、画面に「ふっかつのじゅもんがちがいます」としか出てくれませんでした。
ポテトチップスのパーティー開け練習(いつかみんなの前で披露しようと洋一郎之介は練習をはじめていたのでした。昨日から)もうまく行かず、床に散らばったポテチも拾い上げるのに3秒以上かかってしまいました。これでは外にまいて小鳥のえさにするしかありません。このエコ野郎。
そうして怒りながらベランダへ向かう途中に、小指を負傷してしまったのでした。

「ひ、ひ、ふぅー、ひ、ひ、ふぅー。本当に最悪だよ。むしろ悪そのものだよ。俺は良い子なのにさ。ひ、ひ、ふぅー。良い子なのにさ。あ、同じこと2回言っちゃった。独り言なのに」
痛みが引くまで、誰に教わったか分かりませんがステキな呼吸法(もしかすると、赤ちゃんのときの記憶かもしれませんね)をしていると、妖精の気配を感じました。
「何奴! あ、割れ吾郎っぽく言っちゃった」
洋一郎之介がうっかり見てしまう時代劇「眼鏡同心 レンズ割れ吾郎」の影響です。割れ吾郎のメガネがリニューアルしてオシャレ眼鏡になったので、見るのを一度をやめようとしましたが、割れ具合が以前の5割増しになったので、洋一郎之介は許すことにしたのです。
「あれ、声が、遅れて、聞こズラッシャー」
「きこずらっしゃあ? っていうかスゴイ! キモイ! スゴキモイ!」
洋一郎之介は一度使ってみたかった若者用語を挟みつつ、両手を叩いてはしゃいでいます。カーテンの影ではにかんでいる妖精は、声と口の動きがズレていたのです。

「キミは、ココロと、カラダが、ズレて、いるんだ」
はにかみ妖精が、そそそと洋一郎之介に近づいてきました。
「だから、ガマ口に、指を、挟むんだ」
ズラッシャーが洋一郎之介の胸にぶら下がっているがま口を指して言いました。
「いや、それは挟んでないけど」
「(なんだよ、挟んでおけよクソ)」
「えっ?!」
洋一郎之介はそんな声が聞こえたような気がしました。でも、妖精の口はまったく動いていません。またいつものアレでしょうか。
「ともかく、ぼくのココロと、キミのココロを、合わせるんだ」
「え、どうすればいいの?」
「(うぜえなぁ)『赤いもの』、で思い、浮かぶ、のは? せーの」
照れた表情のまま、案外強引な妖精のようです。
あわてながらも洋一郎之介は叫びました。
「あ、アップル」「おめえの血は何色だ!」
答えも合っていませんし、息も合っていません。
窓から差し込む光はまぶしく、外では小鳥たちがささやきあっています。洋一郎之介は、ポテトチップを拾ってベタベタなままの手を見ました。
「あの、今、普通に喋ってなかった?」
「(うるせえちゅーねん)じゃあ次、『行きたくない場所』と、いえば? せーの」
「……」「……」
二人とも無言でした。そしてため息だけは合いました。
「これも、合ったってことにな…」
「最後、いく、よ。『欲しいもの』は? せーの」
「……と、友達」「……愛、かな」
恐る恐る洋一郎之介は妖精と視線を合わせてみました。向こうもこちらをジッと見ていました。洋一郎之介は、なんだかおかしくなって、同じようにはにかんでみました。

洋一郎之介とズラッシャーは、寝っころがって天井を見ています。木目がなぜだかにじんで見えました。
「いやさ、妖精にもいろいろあるじゃん」
スーパー腹話術の喋り方ではありませんでした。はにかんだ表情は少し疲れた陰を見せ、視線は天井のその先を見ているようでした。
「え、あ、うん」
「ああ、『じゃん』とか言われても困るよね。まぁいろいろあるわけよ。何かねー、周りとズレてるっていうかさ。まあズラッシャーだから仕方ないっていえばそうなんだけどね」
「大丈夫」
洋一郎之介は、かみしめるように言いました。
「大丈夫だよ。うん。時間はかかるかもしれないけども。俺も『きこずらっしゃあ』も。たぶん、大丈夫だよ」
なんだか、二人で天井を見上げているだけでココロが少し暖かくなっていました。心強くなった洋一郎之介は、調子に乗って少しだけ前向きになったようでした。

「ねぇ」
急に近くに体温を感じた洋一郎之介はビクッとしました。気がつくと、そそそと寄って来たズラッシャーの顔がすぐそばにあります。
「ひゃふン」
「カラダと、カラダも、重ねて、みない?」
切れ切れですが、スーパー腹話術じゃありません。息を切らしながら喋っているのです。
「ねぇ、ねぇ」
「あ、やだ、太もも。やだ! やめろっつってっだろ!」
混乱してしまいました。思わずズラッシャーを突き飛ばした洋一郎之介は涙声です。

「ごめんね」
ズラッシャーの声が洋一郎之介のすすり泣きにかぶさりました。
「やっぱり、ズレた、まんまだ」
突き飛ばされた妖精は頭をぶつけたショックでか、半透明の幽体が元の体からはみ出ていました。お別れのときが来たようです。
「でも、でも、俺、こんなんじゃなくて。『きこずらっしゃあ』のこと……」
あとは言葉になりませんでした。
「ありがズラッシ……」
最後の方は、もう聞き取れませんでした。

洋一郎之介は目をつぶると、胸のガマ口に手を当てました。
パチン。パチン。
ゆっくりと。
パチン。パチン。パチッ。
「痛っ」
洋一郎之介は挟んだ指を舐めました。
「俺も、まだ……」
その指先は、薄い鉄の味と、ポテチの味がしました。


ズラッシャーは大事なものを重ね合わせようとしては失敗する妖精です。
でも、その失敗は未来へと繋がっているのです。
重ねることの意味を、一緒に考えてくれる妖精でもあるかもしれません。

さようなら。ズラッシャー。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

モロジャラ(rinmayプレゼンツ) 得点について

2007-05-24 21:00:22 | モロジャラ
リーチ札……5000点
リーチし損……マイナス2000点

ドラ……1枚含まれるごとに5000点

基本役(一組ごとの得点です)
背景色のみ揃え……1000点
背景色+キャラクター絵揃え……5000点

特殊役(基本役の点数に加算されます)
同キャラ4枚揃い(キャラ揃え一組+背景色揃え一組など)……1万
イヤリング(聖・ジョゼッペイ・ムターシャ)……2万
メガネ(グラサン可)……1万
親族 (仁哉・汰雲・京作)……2万
料理道具(チェルシー・お兄さん・家光)……2万
中年(ジョギ先・ドスコイ・執事)……2万
ヒゲ(お兄さん・家光・慶喜・執事のうちの三人)……1万
帽子(家光・お兄さん・よみこ・デス山・ジョゼ・汰雲のうちの三人)……1万
刃物(ジョゼ・パッツン・よみこ)……2万
ヒヨコ(竹豊・僕・聖)……2万
妖精(ハイタワー三兄弟・肉まん・ジョゼのうちの三人)……1万
モロギャラ(アフロ・ムタ・パッツン・ダン・ジョゼのうちの三人)……1万
ドスコイ(ドスコイ・ヘロヘロ・チェルシー・ロボのうちの三人)……1万
メガネ三銃士(三銃士・ピタゴラスのうちの三人)……1万
ヒロイン(よみこ・マリー・ムタ・チェルシーのうちの三人)……1万
主人公(モロッソス・仁哉・お兄さん・僕・デス山・ヘロヘロのうちの三人)……1万
イケメン(パッツン・竹豊・ピタゴラスのうちの三人)……1万



おまけ
『リンメイ狂い咲き』

桜の咲きかけた道を歩きながら ふと思う
あなたと笑った さわやかな日々を
あの頃の私にはもう戻れない……
メイクも板についてきた
ドレスも笑顔も華やかに
いけない私 ごめんねダディ ごめんねマミー
けれど私はここでしか輝けないの
鐘が鳴る…… 行かなきゃ ミラクルロードを通って
桜が私を祝福してる
きらめくハート ありがとハニー ありがとダーリン
クロスステップ ボックスステップ 咲き誇れ
大音量のミュージック 流れるリズムに身をまかせ
すべての蕾よ花開け 私のために花開け
コメント (3)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妖精大百科フェアリー・マンダーラ 38(アヴダビ)

2007-05-21 23:33:43 | 妖精大百科フェアリー・マンダーラ
38匹目「ホストの精 清盛」

 幼馴染の猫耳メイドくノ一は、冥王星から花嫁修業にやってきた見習い悪魔だった……
 一つ屋根の下で繰り広げられる誰にも言えない僕と彼女の物語。
 新番組「美少女メガネ☆ミルキーレンズ」
 ズバッ! 瓶底眼鏡の熱視線! に、ご期待下さい!

 そんな予告に、洋一郎之介はイライラします。
「またラブコメか! ダメ男がなぜかモテる話にはウンザリだよ! そんな下らない番組作るなら眼鏡戦隊ドキンガンを続けろってんだ!」
 ドキンガンは主演俳優の不祥事のせいで、放送三回で打ち切られていました。
「どいつもこいつもモテようとしやがって! ナンパな野郎には腹が立つ!」
 なにげに硬派に憧れている洋一郎之介は、誰かに愛を告白されたら何と言ってお断りしようか密かに考えていました(そんな機会はありませんが)。
「だいたい、美少女が突然手に入るなんてタナボタ話、実際にあるはずないじゃないか! 現実に目を向けようとしない視聴者をあざ笑いながら製作されているに違いない!」
 洋一郎之介の怒りは臨界点を超え、思わず走り出してしまうのでした。無我夢中で玄関を飛び出した時……ドシーン!
「アイタタタ……君、大丈夫かい?」
 洋一郎之介は扉の向こうにいた若い男とぶつかってしまったのでした。
 黒っぽいのに、なんだか不思議にチャラチャラしたスーツを着ています。こんなサラリーマン見たことありません。手にはチラシの束を持っています。
 洋一郎之介はピーンときて、こう聞きました。
「君は、誰?」
「え?」
 いぶかしげな男。
「ええと、山田シゲ……じゃなくて、清盛です。君、お母さんいる? これを渡しといてくれる?」
 山田シゲ……清盛は持っていたチラシ(清盛の名刺がホッチキスで留めてあります)を洋一郎之介に渡しました。そこには、

 なめた女は張り倒す!
 さめた女も胸焦がす!
 クラブ突Ken首領(つっけんどん)、駅から徒歩20分です

の文字が躍っていました。
「これなあに? 何か……すげえ硬派な感じがするよ!」
「まあね。硬派が売りでやってるんだよ」
 しかしそう言う清盛はチャラチャラした姿なのです。
「でも清盛は硬派じゃないよね? 全然、魁! って感じじゃないもん」
「え……」
 清盛はショックを受けたようでした。
 空気が凍りつき、そして割れました。清盛が不意に涙をこぼしたのです。
「ぐす……ふふ、やっぱりそう見えるよな……。成績は散々だし、十歳も年下のホストの鞄持ちしてるし、下戸だし……。だいたい俺、この店には向いてなかったんだ。俺……本当は、赤ちゃんみたいな甘え方が得意なんだ」
 目の前でめそめそする大人をじっと見ていた洋一郎之介でしたが、我慢できなくなって、ついに……
「え!?」
 洋一郎之介に抱き締められて、清盛は目をパチクリさせました。
「良い子だから、もう泣くんじゃないよ。ほーら。あばばばば~」
 洋一郎之介はとっておきの変顔を披露しました。
「あ、えっと……」
「あばばば」
「あ、あは、あははは」
「うふふふ。ほおら、おかしいだろ? うふふ……ぐすん」
「おかしいよ、あはははっ、う、ううっ」
 それから二人、抱き合って泣きました。

「俺、ふるさとに帰るよ。そして親父の柴刈りを手伝おうと思う」
「うん、山田シゲ……清盛はきっと、生まれる時代を間違えたのさ」
 固く握手し、清盛は去っていきました。
 その後姿を見つめながら、洋一郎之介は、俺の方が上手に甘えられる、俺ならナンバーワンになれる、と確信するのでした。
コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妖精大百科フェアリー・マンダーラ 37(アヴダビ)

2007-05-14 21:57:43 | 妖精大百科フェアリー・マンダーラ
37匹目「大切な何かをかくしてくれる妖精 ヒーホー君」

 その夜は空気が澄んでいて、とても美しい星空でした。窓枠に顎を乗せて、そんな星々を眺めている洋一郎之介です。
 そんな彼の目に、星と同じぐらい綺麗な光が煌きました。泣いていたのです。
「俺……本当に長生き出来るかなあ。暗黒メガネ神が攻めてきてもちゃんと戦えるかなあ。怖いよ。……どうせこの世は滅亡するんだ。未来なんて来なければ良いのに」
 サン・テグジュペリの肖像画のプリントTシャツの裾で涙を拭いたその時です。夜空を切り裂いて、回転花火のような物が飛んできたのです。
「うわわ! こっち来た!」
 火花を撒き散らしながら、そいつは突っ込んできました。ボカーン!
「ごほんごほん! 何なの~!?」
 洋一郎之介の部屋に飛び込んできた物、それは大きな亀の甲羅でした。先ほどジェット噴射のように火花が出ていた四つの穴から、にゅっと足が飛び出しました。そしてもう一つの穴からは頭が……。
「頭……かどうか分からない!」
 それもそのはず、頭部らしき箇所にはモザイクがかかっていたのです。目を擦っても消えません。いったいどういう原理のモザイクなのでしょう。
「ヒーホー君だよ」
 モザイクがカタカタして、そこから声がしました。
「ヒーホー君?」
「そう。君は未来を恐れているね」
「え、うん……。だって人類は滅亡するんだよ! ノストラダムスも言ってたし!」
「ノストラ……。君はそれを信じてるのかい? もう21世紀になって何年も経つのに」
「だって……」
「君、自分の未来の姿を見たくないかい?」
「え!? そんなこと出来るの!?」
「僕のこのモザイクの向こうに、大人になった君が見えるはずだよ」
 洋一郎之介はドキドキしながらモザイクを見つめました。しかしどの角度から見ても、目を細めても、モザイクの向こうは見えません。
「何も見えないや……。俺、やっぱり大人になる前に死ぬのかな」
 洋一郎之介はぽろぽろと涙をこぼしました。
「泣くなバカ!」
 モザイクに包まれた何かが、不甲斐ない洋一郎之介の頭に振り下ろされました。それはとても情熱的な打撃でした。
「い、痛いよ……」
 涙声で洋一郎之介が訴えると、
「僕の方が痛いよ!」
 ヒーホー君もキレ気味に叫びました。モザイクがぷるぷると震えています。
「見えるものだけが全てじゃない。それを君に分かってもらうために、このモザイクはあるんだ」
「え……」
 俺のためにあえて隠してくれていたの……? モザイクの脇からのぞく青筋を見つめながら、洋一郎之介はそう思いました。
「大丈夫、君はきっと立派な大人になる。忘れないで。大切なものは目に見えないんだ」
「大切なものは目に見えない……」
 頭をさすりながら洋一郎之介は呟きました。
 モザイクは満足そうに頷きました。
「ね、忘れないでね。君はいつかきっと、僕みたいに立派な大人になるから……」
 モザイクは四肢とともに、にゅっと引っ込みました。ヒーホー君は回転をはじめ、来た時と同じように火花を散らしながら窓の外へ飛び出して行きました。
「ヒーホー君……。何だか分からないけど、ありがとう!」
 洋一郎之介は星空に向かっていつまでも手を振りました。もう、涙はとっくに乾いていました。
コメント (10)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妖精大百科フェアリー・マンダーラ36 (チャキオ)

2007-05-10 22:56:55 | 妖精大百科フェアリー・マンダーラ
 36匹目「都会者にライバル心を燃やす妖精 クリキンst」

 洋一郎之介は今日もCSのアニメ専門チャンネルでなつかしアニメ『プロゴルファー猿』を見ていました。
「いいなあ……。俺も、ワイとか言ってみたいなあ……」
 洋一郎之介はすっかり猿の話し方に夢中です。
「ワイは……生まれも育ちも日本でんがな……」
 洋一郎之介は今、暮らしているところが日本であるという程度の知識しかなかった為、プロゴルファー猿の言葉遣いもどこか遠くの国の言葉だと思っていました。彼は自分と違うしゃべり方にひどく憧れを抱いていました。バイリンガルという言葉だけは知っていたので……。
「どうせ、生まれも育ちも都会っ子のワイには使いこなせないもんやってん。しんどいみゃ~」
 テレビで聞きかじった方言を並べ立てます。
「ふざけんじゃねえ!」
 突然、目の前に薄汚れたお爺さんのような、それでいて体型的にもバランスの悪い存在が現れたのです。
「だ……誰!?」
「俺の名はクリキンst。田舎育ちの何が悪い!」
 洋一郎之介は唖然としました。
「何、勝手に怒っているのさ……。田舎育ちだなんてカッコいいよ。どこかのシンガーが俺はTOKYO生まれ、HIPHOP育ちって言ってたじゃない! 俺なんて日本生まれ、日本育ちでおもしろくもなんともないよ」
 洋一郎之介は地理の勉強をしてこなかったので、HIPHOPも田舎も地名だと思っていました。
「あ……いや……俺も日本生まれ日本育ちではあるんだけど……」
 クリキンstはバツが悪そうに頭を掻きました。
「何だよ! じゃあ、俺と同じじゃないか!」
「うん……まあね……へへっ」
 洋一郎之介は憧れの存在が実は着ぐるみだったと知った子供のようにガッカリしました。(ちなみに、洋一郎之介は未だに着ぐるみの怪獣を本物だと思っています)
「あ~あ……。俺もバイリンガルになりたくったって“ワイ”すら上手に使いこなせないよ……」
「バカヤロウ!」
 クリキンstは何かを思い出したように白目になり、洋一郎之介に殴りかかりました。
「何すんだよぅ!」
「お前みたいな……お前みたいな根っからの都会っ子に俺たちの苦労が分かってたまるか!」
「どういうことだい?」
 クリキンstは何かを憑依させたように小刻みに震えながら、口を開きます。
「俺たちが……どんな苦労をして……田舎言葉を封印してお前らに合わせているか……わかるか! ある時はニュースキャスターのモノマネをし、またある時は聞き取り難いドラマの主人公のしゃべり(多分キムタク?)を真似たり、ドリフの早口言葉に参加しながら(多分、テレビ前)、あの忌まわしき標準語なるものを習得しようとしているのに!」
 クリキンstは震えながら、持っていた虫取り網をへし曲げました。そうとう興奮している様子です。
「うひゃあ! すごいよ! クリキンst……。俺、俺……そんな努力はゴメンだよ……」
「そ……そうかい?」
 洋一郎之介の尊敬の眼差しに、クリキンstは勝手におだてられ、ニヤニヤと恥ずかしそうに笑いました。
「本当にすごいよ。二つの言葉を操るなんて、バイリンガルじゃないか! 俺はなんの苦労もしたくないから、二つの言葉を操るだなんて一生無理なことだよ」
「そうかな……?」
 クリキンstは更にモジモジしながら、持っていたキャンディーをそっと洋一郎之介に渡しました。
「ねえ。クリキンstは何語が使えるの? しゃべってみてよ」
 洋一郎之介はもらったキャンディーをペロペロしながら訴えます。
「よし、いいか? よく聞いてろよ……」
 ゴクリ。洋一郎之介は生唾を飲み込みました。緊張の一瞬です。ところが……。
「あれ? おかしいな……。えっと……」
 クリキンstはモタモタしています。
「ねえ、早くぅ!」
 辛抱たらない洋一郎之介は徐々に面倒くさくなってきました。キャンディーも残り少なくなってきています。
「だ……ダメだ……。俺は……俺は……大切な何かをこの荒んだ東京砂漠で忘れちまったようだ……」
「う……うん……?」
「お前のおかげで目が覚めたぜ……。もう一度、あの頃のワイを取り戻しに……」
 そう言いながらクリキンstはフワーッと消えていきました。
「田舎育ちってよく分かんないや。俺は、日本生まれ、日本育ちでよかった」
 あんなに憧れていた『プロゴルファー猿』でしたが、次の番組『ベルサイユの薔薇』が始まれば、すっかり宮廷貴族に憧れを抱く洋一郎之介でした。
コメント (8)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妖精大百科フェアリー・マンダーラ 35(ゲストストーリーテラー春日さん)

2007-05-08 21:45:55 | 妖精大百科フェアリー・マンダーラ
35匹目「クレープの精 タベニクスン」

洋一郎之介はみんなの憩いの広場にやってきました。
「いい空だな」
彼は芸術的なまでに渋い表情でベンチに座っています。
噴水の周りではカップルたちが語り合い、芝生では女の子が犬とたわむれています。若者たちは思い思いのまま、青春を謳歌していました。
犬と遊ぶ少女は彼より少し年下でしょうか。おさげがよく似合っています。
――ああ、あんな子が妹だったらなぁ
「『おにぃちゃんたら、もう』なーんちゃって、おっと声に出しちゃったよ」
彼が凝視していると、芝生にガキ大将がやってきて女の子をからかい始めました。眉毛のつながった厳つい顔に女の子は今にも泣き出しそうです。
――僕がなんとかしなければっ!こんな時は・・・。
洋一郎之介は辺りを見回しました。
「どこだっ、どこにいるんだ」
テキィィィィン。
洋一郎之介の額に稲妻が光ります。
「そこかっ」
洋一郎之介はワゴン屋台のクレープ屋へとかけていきました。
「バナナクレープ一つお願い」
「はーい、ありがとうございまーす。500円になりまーす」
若いんだか年なんだかわからない女性店主が笑顔で答えました。
そして魔法のような早業で鉄板に薄く生地をのばして焼き上げます。クリームとバナナを生地でくるむと、あっという間にバナナクレープが出来上がりました。
洋一郎之介はひったくるように受け取ります。すると当然のようにそれが喋りだしました。
「やぁ、僕はクレープの妖精タベニクあっ」
妖精の台詞を聞き終わる前に洋一郎之介は一飲みです。。
洋一郎之介の体にフェアリー分が吸収されると、彼の体に豊富に残留していたアンフェタミンと合成してスカラベ酸を作り、血中をかけ巡ります。
その間三秒。そこにいるのはもう洋一郎之介ではありません。
芝生にスチャっと降り立ち、クレープ生地のようなマントをひるがえして振り向きます。
胸には「フ」の文字が大きくプリントされています。
「誰だ」
そう問うガキ大将に向かい、両手シャカシャカさせ言い放ちました。
「血の繋がらない妹との絆を信じる男、フェアーリーマン」
ここに死闘の火蓋が切って落とされました。
それは知識の無い第三者から見ればまるで子供のケンカのようでしたが、達人同士の戦いとはそういうものです。
フェアーリーマンが手近な棒を拾うと、それはメルヒェンソードとなりました。太陽の光を反射して 輝き、それがガキ大将の目をくらませます。
その一瞬の隙をつき、袈裟斬りが炸裂。勝利の女神はフェアーリーマンに微笑みました。
正義は勝つのです。
「見事だ、フェアーリーマン。だが、私が倒れてもあのガキ大元帥にはかなうまい・・・グフっ、ガキ帝国バンザーイ」
ガキ大将が断末魔の叫びをあげると、仰向けに倒れ大爆発を起こしました。
マントがたなびきます。
爆風に煽られながらも茂みに鋭く視線を向けると、その先にはガキ参謀とガキ兵たちが潜んでいました。
「ひ、ひけぇ」
彼らは一目散に逃げ去っていきました。

「もう、大丈夫だよ」
「あなた、誰なの?」
「僕は・・・君のお兄ちゃんだよ」
「え、え、わたしにはお兄ちゃんはいないよ・・・あ、ママー」
母親の姿を見ると、彼女も一目散に逃げ去っていきました。
ひとりぼっちになったフェアーリーマンの目から一滴の涙がこぼれ落ちました。すると彼の姿はいつもの洋一郎之介に戻りました。
涙を流すことにより体と心の老廃物が排出され変身が解けるのです。

タベニクスンは薄っぺらい見た目とは裏腹に、充実された中身を持つ妖精だそうです。
コメント (6)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

妖精大百科フェアリー・マンダーラ 34(アヴダビ)

2007-05-03 21:41:24 | 妖精大百科フェアリー・マンダーラ
34匹目「ピーマンを残す子供におしおきをしようとする妖精 ジョンピル」

 行儀悪くソファの上であぐらをかいて、今日も家でお弁当を食べる洋一郎之介です。ですが……。
「ああ! お弁当にピーマンが入ってる! お母さんめ~!」
 好き嫌いの多い洋一郎之介ですが、特に嫌いなのがピーマンだってこと、皆さんは知っていましたか?
 皆さんの中にもピーマンが苦手な子、多いんじゃありませんか? でも、洋一郎之介の場合はちょっと違うのです。
「ピーマン! 外はつやつやなのに中身はスカスカの見掛け倒し野郎め! 俺は外見だけめかし込んで中身の無い奴は大嫌いなんだ!」
 洋一郎之介は最近観ているお気に入りの昼ドラのセリフを叫び、ピーマンを睨みつけました。そのドラマは今この瞬間も観ているわけですが。
「俺は中身のつまった立派な男だ! お前は俺の前から立ち去るがいい!」
 洋一郎之介が庭に埋めて隠すためにピーマンをつまみ上げた時です。
「ピーマン残すのどの子だい?」
 それは小さな気弱そうな声でしたが、実は食べ物を捨てる事に後ろめたい気持ちで一杯だった洋一郎之介は仰天してしまいました。
 振り向けば、ピーマンに顔と手と車輪のついた、子供が工作で作ったような不思議な物体がいました。
「き、君は誰?」
 捨てようとしていたピーマンを後ろ手に隠しながら、しどろもどろで尋ねます。
「僕、ジョンピル。ピーマンを残す子にお仕置きするためにこの世に生を受けたの」
「え、お仕置き!?」
 洋一郎之介の背筋に冷たい物が走りました。給食食ベ終ワルマデ帰ッチャイケマセン……。いつかの悪夢が甦ります。
「ピーマン嫌いは生きてちゃいけないの。だから、死ね~」
「ええー!」
 予想以上に物騒な事を言って、ジョンピルが突っ込んできました。
「わあっ」
 ジョンピルは洋一郎之介のくるぶしの辺りに体当たりし、しかし跳ね飛ばされてひっくり返ってしまうのでした。
「まだまだあ。死ね~」
 何度も何度も突撃をするピーマン妖精。でも洋一郎之介には1ミリもダメージを与える事が出来ません。
 そうして、八十回ほど攻撃を受けた頃でしょうか。
 洋一郎之介はいても立ってもいられなくなり、ジョンピルを抱き上げました。
「分かったよジョンピル! 君のそのひた向きな姿に俺は心打たれたよ! ピーマンの中にも君みたいに真の詰まった野郎がいたなんて。俺の、敗けだよ!」
 度重なる特攻によって、ジョンピルは満身創痍でした。
「これに懲りたら、もうピーマン残さないでね……」
 そう言いながら、ジョンピルの姿は消えていきました。
「分かったよジョンピル! 俺、もう残さない!」
 洋一郎之介は泣きながら、捨てようとしていたピーマンをほお張りました。
「にが! なにこれ!」
 一瞬後には勢いよく吐き出していました。
 そうして、魚肉ソーセージやチーカマなど、好きな物だけを食べて食事を終えました。
 ジョンピルがまたやってきても、いつでも返り討ちにしてやれる、そんな暗い情念がある間は、しばらくピーマン嫌いは直りそうもありませんでした。
コメント (4)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする