40匹目「テーマパークの成れの果ての精 スチ郎」
珍しいことに洋一郎之介は外に出ました。彼は別段、引きこもりというわけではありませんが、家で色んなことをしていると、外に出る必要がなかったからです。
しかし、洋一郎之介にはついに外に出る用事が……。担任が替わり、熱血味のあふれる先生になったため、学校を休みがちな洋一郎之介の家にまで訪れる始末。
先生との交流ほど面倒くさいものはありません。彼らは妖精とのやり取りと違い「どうして学校に来ないのか?」だとか、「何か悩んでることでもあるのか?」だとか、答えられない質問ばかりしてくるのです。洋一郎之介には学校に行かない理由も、悩みも、何一つないのです。
「まったくあいつらはホントにクルクルパーだよ。何度言ったらわかるんだろう……。俺ほどのミラクルな存在は学校なんて好きな時にだけ行けばいいんだよ。そう、こういう遊園地に行くようにね……」
どこまで歩いたのかわかりませんが、洋一郎之介の目の前には、さびれた遊園地が建っていました。いきなり気持ちの悪いマネキンが置いてあったり、薄気味悪い巨大なペンギン?のモニュメントが置いてあったり、入園料を払うのもためらわれる感じでした。もちろん、洋一郎之介は払うつもりもありません。お金も持ってませんし……。
「タダなら入ってやっても良かったのにな……」
そう言って、来た道を戻ろうとした、その時です。来た時には見つけられなかったお地蔵さまが立っていました。しかし、そのお地蔵さまったら……。なんとビックリ、発泡スチロールでできていたのです。
地蔵と言ったら石、その定義を根本から覆す存在です。更に言えば、発砲スチロールでできているのですから、頭の一部がもげたように欠けています。色々と哀れでした。
「可哀想にねえ……。色も落ちて……」
洋一郎之介はそのお地蔵さんの頭に着いたホコリを払ってやろうと、つかみました。すると、もろくなっていた発砲スチロールですから、ボロッとなり、欠けがひどくなりました。
「ひいっ。俺……違うよ。何もしてないよ」
誰も見てないというのに、誰に言い訳したのか、おどおどとその場を去ろうとした、まさにその時。
「おまちなさい」
穏やかな声です。振り返るとお地蔵さんが語り出しました。
「ひゃあ! お地蔵さんがしゃべった!」
「私の名前はスチ郎。お地蔵さんではありません。私はテーマパークの成れの果ての精です」
「テーマパークの成れの果ての精……?」
洋一郎之介はお地蔵さんだと思っていた物がいつもと同じ妖精だと知って若干ガッカリしました。
「そうです。私はとても悲しんでいます」
「どうしてだい?」
「人間というものは、本当に勝手な生き物です。できた当初はあんなに盛り上げておいて、結局このザマです。飽きっぽくて、単純で、バカで……」
徐々にスチ郎の言葉が荒くなってきました。少し興奮しているのかな?
「でも、人間にも良いところもあるよ!」
とりあえず、人間代表として洋一郎之介も対抗してみせました。が……
「例えばどんなところですか?」
と、スチ郎に返されて言葉に詰まる自分がいました。
「どんなところ……? う~ん……。う~ん……」
「私はもっと言えます。人間は意地汚くて、嫉妬深くて、表面では良い顔を見せているくせに内心では小バカにしてたり、知ったかぶって自分の知識を見せつけようとするし、すぐに物を失くすし、老廃物を溜めるし、金に目がくらむし、すぐ裁判を起こすし、口を開けば文句しか出ないし、みんなと一緒のことをしてないとすぐ不安になるし、バカだし、臭いし……」
畳み掛けるようなスチ郎の攻撃にノックアウト寸前の洋一郎之介です。
「ねえ、お兄さん。人間の良いところ、教えてくださいよ」
スチ郎はニヤリと笑いました。
「ゴメン! 出ない! 人間ってホントに嫌な存在だね」
「そうでしょ? 分かってくだされば、それで良いのです」
「すごくよく分かったよ、スチ郎。俺、早く妖精になりたーい!」
洋一郎之介はまるで何かのアニメのように叫びました。
「兄さん……。アンタ、素質あるよ。大丈夫。きっといつか立派な妖精になれる日が来るから……」
妖精に? やっぱりそれは困る……、という言葉は口には出せませんでした。スチ郎のあんなに歪んでいた表情が晴れやかに見えたから……。
「兄さんには、妖精のオーラがある。……ような気がする……」
スチ郎は自分で言い出しておいて、洋一郎之介の半開きの口を見るなり、語尾が怪しくなりました。
「ねえ、本当? それって、俺は特別な人間ってこと?」
洋一郎之介は特別扱いを受けるのが大好きなタイプの人間だった為、スチ郎の言葉にシャカリキです。スチ郎の方も、そんな洋一郎之介に本当の事を言うのを躊躇ってしまいました。
「と……特別……? かな……? あ、う……ん……。そうかも……」
スチ郎は少年の目の輝きを前に、何も言えなくなってしまいました。
「私は……成れの果てとはいえ、テーマパークの精……。少年の夢を壊すことはできないのです……」
スチ郎の目から一筋の光が零れ落ちると同時に、強い風が吹き荒れました。そして、もうスチ郎の姿はどこにも見当たりません。そこには、たださびれた遊園地が建っているだけでした。
スチ郎は飽きっぽい人間によって作られた悲しい産物なのかもしれません。しかし、あなたの記憶の片隅に、スチ郎がいたりしませんか? 今度の週末、ネズミのお屋敷に行く予定だったあなた。たまには地元の山奥にひっそりと佇んでいる遊園地を訪れてみてはどうでしょう?
スチ郎か、もしくはどこかで見たような、法的にも怪しげな、そんなキャラクターだらけのパレードに出会えるかもしれませんよ。
珍しいことに洋一郎之介は外に出ました。彼は別段、引きこもりというわけではありませんが、家で色んなことをしていると、外に出る必要がなかったからです。
しかし、洋一郎之介にはついに外に出る用事が……。担任が替わり、熱血味のあふれる先生になったため、学校を休みがちな洋一郎之介の家にまで訪れる始末。
先生との交流ほど面倒くさいものはありません。彼らは妖精とのやり取りと違い「どうして学校に来ないのか?」だとか、「何か悩んでることでもあるのか?」だとか、答えられない質問ばかりしてくるのです。洋一郎之介には学校に行かない理由も、悩みも、何一つないのです。
「まったくあいつらはホントにクルクルパーだよ。何度言ったらわかるんだろう……。俺ほどのミラクルな存在は学校なんて好きな時にだけ行けばいいんだよ。そう、こういう遊園地に行くようにね……」
どこまで歩いたのかわかりませんが、洋一郎之介の目の前には、さびれた遊園地が建っていました。いきなり気持ちの悪いマネキンが置いてあったり、薄気味悪い巨大なペンギン?のモニュメントが置いてあったり、入園料を払うのもためらわれる感じでした。もちろん、洋一郎之介は払うつもりもありません。お金も持ってませんし……。
「タダなら入ってやっても良かったのにな……」
そう言って、来た道を戻ろうとした、その時です。来た時には見つけられなかったお地蔵さまが立っていました。しかし、そのお地蔵さまったら……。なんとビックリ、発泡スチロールでできていたのです。
地蔵と言ったら石、その定義を根本から覆す存在です。更に言えば、発砲スチロールでできているのですから、頭の一部がもげたように欠けています。色々と哀れでした。
「可哀想にねえ……。色も落ちて……」
洋一郎之介はそのお地蔵さんの頭に着いたホコリを払ってやろうと、つかみました。すると、もろくなっていた発砲スチロールですから、ボロッとなり、欠けがひどくなりました。
「ひいっ。俺……違うよ。何もしてないよ」
誰も見てないというのに、誰に言い訳したのか、おどおどとその場を去ろうとした、まさにその時。
「おまちなさい」
穏やかな声です。振り返るとお地蔵さんが語り出しました。
「ひゃあ! お地蔵さんがしゃべった!」
「私の名前はスチ郎。お地蔵さんではありません。私はテーマパークの成れの果ての精です」
「テーマパークの成れの果ての精……?」
洋一郎之介はお地蔵さんだと思っていた物がいつもと同じ妖精だと知って若干ガッカリしました。
「そうです。私はとても悲しんでいます」
「どうしてだい?」
「人間というものは、本当に勝手な生き物です。できた当初はあんなに盛り上げておいて、結局このザマです。飽きっぽくて、単純で、バカで……」
徐々にスチ郎の言葉が荒くなってきました。少し興奮しているのかな?
「でも、人間にも良いところもあるよ!」
とりあえず、人間代表として洋一郎之介も対抗してみせました。が……
「例えばどんなところですか?」
と、スチ郎に返されて言葉に詰まる自分がいました。
「どんなところ……? う~ん……。う~ん……」
「私はもっと言えます。人間は意地汚くて、嫉妬深くて、表面では良い顔を見せているくせに内心では小バカにしてたり、知ったかぶって自分の知識を見せつけようとするし、すぐに物を失くすし、老廃物を溜めるし、金に目がくらむし、すぐ裁判を起こすし、口を開けば文句しか出ないし、みんなと一緒のことをしてないとすぐ不安になるし、バカだし、臭いし……」
畳み掛けるようなスチ郎の攻撃にノックアウト寸前の洋一郎之介です。
「ねえ、お兄さん。人間の良いところ、教えてくださいよ」
スチ郎はニヤリと笑いました。
「ゴメン! 出ない! 人間ってホントに嫌な存在だね」
「そうでしょ? 分かってくだされば、それで良いのです」
「すごくよく分かったよ、スチ郎。俺、早く妖精になりたーい!」
洋一郎之介はまるで何かのアニメのように叫びました。
「兄さん……。アンタ、素質あるよ。大丈夫。きっといつか立派な妖精になれる日が来るから……」
妖精に? やっぱりそれは困る……、という言葉は口には出せませんでした。スチ郎のあんなに歪んでいた表情が晴れやかに見えたから……。
「兄さんには、妖精のオーラがある。……ような気がする……」
スチ郎は自分で言い出しておいて、洋一郎之介の半開きの口を見るなり、語尾が怪しくなりました。
「ねえ、本当? それって、俺は特別な人間ってこと?」
洋一郎之介は特別扱いを受けるのが大好きなタイプの人間だった為、スチ郎の言葉にシャカリキです。スチ郎の方も、そんな洋一郎之介に本当の事を言うのを躊躇ってしまいました。
「と……特別……? かな……? あ、う……ん……。そうかも……」
スチ郎は少年の目の輝きを前に、何も言えなくなってしまいました。
「私は……成れの果てとはいえ、テーマパークの精……。少年の夢を壊すことはできないのです……」
スチ郎の目から一筋の光が零れ落ちると同時に、強い風が吹き荒れました。そして、もうスチ郎の姿はどこにも見当たりません。そこには、たださびれた遊園地が建っているだけでした。
スチ郎は飽きっぽい人間によって作られた悲しい産物なのかもしれません。しかし、あなたの記憶の片隅に、スチ郎がいたりしませんか? 今度の週末、ネズミのお屋敷に行く予定だったあなた。たまには地元の山奥にひっそりと佇んでいる遊園地を訪れてみてはどうでしょう?
スチ郎か、もしくはどこかで見たような、法的にも怪しげな、そんなキャラクターだらけのパレードに出会えるかもしれませんよ。