超高機動銀河恋愛黙示録モロッソスギャラクシー

美少年刑務所の名物所長チャキオと
小悪魔ボディの見習い天使アヴダビが激突する
モロッソスみそっみそっ創作宇宙

超美麗! ジョギング先生カルタ その2 (制作:ジンコ先生)

2007-03-31 02:59:36 | イラスト!
えへへ。隠していた秘蔵っ子をまたしても皆様の前にお見せしちゃおうかしら。

スーパー美少年描きジンコ先生のワンダフルカルタ。
ジョギング先生カルタ第二弾を春の陽気で頭がポウッってなってるお前達にお見舞いしてやるわ!
目ん玉ひん剥いて、とくとご覧アレ!

ウフフ……。カンワイ~~~~♪

では、素敵読み札の方も紹介しちゃおうかしら。

『こ』・・・こうきじゃないよセイントだヨ

『れ』・・・れんあい相談はオカマに限るダス

『い』・・・いつ言える? 驚くべき素敵なこと

『ん』・・・んごんご言ってる……。ウィップ言ってる……。

どれも素敵ですね。

このカルタで遊んだ時のことを踏まえたジョギング先生ストーリー「オカマになったら関係ない!」は前後編で、絶賛公開中です。
ここからちょっとスクロールすると見れるよ。

次の秘蔵っ子公開はいつになるやら。
それはもちろん、チャキオが堪能してからの話ですがね。ウフフ。

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僕たちの青春シリーズ ジョギング先生 第十七話 (チャキオ)

2007-03-28 22:35:05 | ジョギング先生
  第十七話 「オカマになったら関係ない!(後編)」

(前回のあらすじ)
『僕たちはカラオケボックスに行った。ちょっと懐かしいアニソンなんかを歌いながら、カルタやら、ゲームやら、色んなことをしたぜ。楽しかったなあ。
 アヴダビとかいうヤツは店員さんに男性トイレの場所を教えてもらえなかったんだぜ。
 そうそう、水道橋の駅からはちょっと遠かったんじゃない? まあ、そんなことは置いといて、後半戦もヨロシクな!』


 嫌な予感。このゾクゾク感……。僕、覚えてる。あれは聖……。それからカルロス・ヨシキとセルジオ・エジーニョ。奴らが変化した時と同じだ……。
 鼻三郎が紫のオーラに包まれている。もわ~っとなって……その後、僕たちの前にニュー鼻三郎が現れた。ニューというか……ニューハーフといいますか……。完全に聖のそれ……だ……。紫のアイシャドウがにくい。
「やぁだ~。あなたったら、どうしたの~?ダス……」
 鼻三郎の視線の先、基次だ……。まさか基次も……?
「アンタこそ、やあね~。そのチーク、濃すぎるんじゃな~い?」
 ギャーッ! キモイ……。オカマ……。俗に言う、それになっている……。

「ちょっと、アンタたちっ! 急にどうしたってのよ!」
 元来のオカマである聖も、ジョギンギング・パルプンテの餌食になったみたいで、進化もド派手だった。ショー前のオカマバーのママ……。そんな感じだった。
 お前ら……。どうなってんだよっ! オカマの村か? ここは! あ……れ……? どうやら……僕……いいえ……アタシも……。

「ちょっと~、アンタ、かわいいじゃな~い? 何よー。お肌ツルツルねえ。もうっ。いやんなっちゃうっ!」
「いやだぁ……。基子だって綺麗よ~」
「基子もキレイダスけど、やっぱママよね~ダス……」
「みんな、カワイイ。いつでもお店、開けるわね」
 フフフ……。ウフフ……。アタシたち、何だか気分いい……。女になるってステキなことね。
 私たちがワイワイはしゃいでると、床屋から出てきたのは、そう……。究極の……最終兵器彼氏。竹豊が……元の髪型に戻って……出てきたのよぉー! いや~ん。待ってましたぁっ!
「た……た……」
「竹豊く~~~~ん!」「竹豊く~~~んダス!」「竹豊~~~~!!」
 えっ!? ちょっと待ってちょうだい! アンタたち! 聖ママはわかるわ。前から竹豊にホレてた私のライバルだったから……。けど、アンタたち(基子)(鼻三子)は関係ないじゃない! どうしてよぉ!
「どうしてか……。竹豊君が無性にかっこいいダスわ」
「本当ね……。もう、キラキラ輝いて見える……。ああ、竹豊……。私の竹豊……」
 キーーーーッ! 何、勝手なこと言ってんのよ! 何なの? オカマになると何故、みんな竹豊を愛すの? 何の陰謀よ!
 あ……あたしが……あたしがコイツらより先に竹豊を捕まえて、驚くべきステキなことを言ってやるわ! 見てなさい!
オカマたちの集団移動に竹豊は完全にひいていたわ。さすがに順応性のある竹豊でも今回ばかりはビビッちゃったようね……。そんなトコも……カワイイわ……。
「竹豊~~~~!! 待ってーーーー!!」
 竹豊は言えば言うほど、追えば追うほど、逃げていくの……。んもう。アタシたちの気持ち、そろそろ受け止めてん♪
 途中、ジョギ先に何度か接触したけど、私たちはもう、それどころじゃなかったわ。誰が先に、竹豊をゲットするか……。それしか脳の中にはなかった。まさに狂喜乱舞。オカマの酒池肉林……。
 そんな時、基子(基次)が……ついに竹豊に接触……。たしかに、この中で一番足が速いのは、基子ですけどぉ……。
「竹豊~~~~! アタシをさらって~~~~! 否、アタシの罠にはまってチョーダイ! 出でよ。納豆の池!」
「わぁっ!」
 え? 何よ……。今の技……。どこで習得してきたのよ! まさか、お前までジョンゲル系? 
 いつの間にやら竹豊の足元に基子の罠であるネバネバした池が現れていた。
「うっ……。臭い……。ネバネバして……気持ち悪い……」
 竹豊は苦しそうに体を動かしてるけど、もがけばもがくほど、よけい絡まっているみたい。ウフフ。なんか壮観……。ヤダッ。そんなこと言ってる場合じゃなくって……。
「ウフフ! 私の竹豊……。イタダキだわ~~~~!」
 納豆のネバネバに捕らわれている竹豊を更に捕らえようとする基子。
 イヤーーーーッ! 私の竹豊~~~~!! 清らかな竹豊~~~~!!
 ボムウッ!
 え? あれ? 基子が突然、アフロに……。
「しまったーーーー! 勢いつけすぎたーーーーっ!」
 オーバーヒートしちゃった基次はこんもりアフロになって、オカマ口調も元に戻っていたわ。
「と……と……止まらねぇーーーー!」
 勢いのまま、駆け抜けていく基次。罠だけ仕掛けておいて……。まあ、いいわ。これで竹豊は私のもの……。
「あー、気持ち悪かった。臭いかなあ……」
 あれまあ。竹豊ったら自力で這い上がっちゃってる。何よぉ……。やっぱり漁夫の利ってことには、なかなかならないのね。悔しいわ……。
 それにしても、オカマになると内股で走りにくいわ。健康体の竹豊に追いつくはずないじゃない! キイッ。
 竹豊はどんどん遠ざかっていく。そりゃ、そうよね。基次は元に戻ったけど、残りはみんな竹豊を追っているんですもの。一刻も早く逃げたいわよね……。
 特に、聖ママのパワーは半端ないわ。もう、危険の域に達してるわ。私だって、ちょっと怖いもの。あんな聖ママに捕まった日には、魂ごと吸い取られるわよ。昔話に出てくる鬼婆みたいよ。
 でも、私の愛しの竹豊には誰にも触れさせないわ。私が救ってあげなくちゃ……。一番、カワイイ、この私が。待っててね、竹豊。レースは佳境だわ。

 ふと、横を見ると、いつの間に現れたのか、カウンセリングルームなるものが出てきたの。何かしら?
 好奇心旺盛の私は、レースのことも一瞬忘れて、恐る恐る入ってみたの。
「いらっしゃ~い」
 ヤダッ。確か“カウンセリングルーム”って書いてあったわよね。ゲイバーじゃないわよね。カーテンの奥から変な声がしたんだけど……。
「どうぞ、入ってらっしゃいよ~」
 おかしいわ。やっぱりダミ声よ。オカマのそれだわ。ビクつきながらも私はそっとカーテンを開けてみたの。
 ギャーーーーーース!
 白衣を着た……ガタイのデカイ……男……。男よねえ? すごい化粧濃いけど、男よ……。絶対……。
「岡間カウンセリングへようこそ。あなたも心に何かを背負った子羊ちゃんなのね」
 見かけによらず、岡間先生はとても丁寧な口調で……私ったらすっかり、安心してしまったわ。
「先生……。私……私……。好きな子がいて……全然、素敵なことが言えなくて……うっ……うっ……」
「あらぁ……。カワイイお悩みなのね。あなたはとっても素敵よ。ありのままで良いのよ。そうね、無理して女にならなくても良いのよ。女じゃなきゃ、男を好きになっちゃいけない……なんてこと、ないんですから」
「先生……」
 私は思わず、先生の膝にすがり付いて泣いてしまったわ。だって、だって……。私が求めていた言葉を、言ってくれたから……。
 先生は何でもわかってしまうのね……。なんだか……すごく落ち着くわ……。先生……。
「まずは一度、ありのままの姿に戻ってごらんなさい。女になるのは、それからで充分よ……。私はもう、戻れないんですから……」
「先生……。先生は、まさか……もう!?」
 私が叫ぶと、先生は少しはにかんで笑ったの。
「いいのよ……。私はそれで。だからこそ……スカートもはける……」
「手術……成功した……の……? ううん。何でもない」
 言えなかったわ。だって……先生は未だに男らしかっただなんて……。それ以上、言えない。薄っすらヒゲが生えてきているだなんて……。
「さあ……。目をつぶりなさい。あなたを元の姿に戻してあげるわ……」
「お……お願いします!」
「せーの。どんだけーーーー!?」
 パアァ……
 全身に漲るエナジー。何かが……私の中の何かが抜けていくぅーーーー!
 さようなら……私の中の乙女。さようなら……私の中の二丁目……。

 気づくと、僕はカウンセリングルームの外に出ていた。
「岡間先生! 僕、戻れたよぉ! これで……走れるよぅ!」
 僕はカウンセリングルームの前で涙を零した。体の中の老廃物が零れ落ちるように、涙が溢れていくよ……。
 そんな僕の前に、聖がちょうどやってきた。
「あら? あなた……。もしかして……元の姿に……?」
「うん。僕、もう戻れたよ。走りやすいや」
 そう言って、僕は聖に向かって、男をアピールするように、腕筋をムキッとさせてみた。けど、よく見たら、聖の方がムキムキだった。まあ、いい。
「ここに……。このカウンセリングルームに入れば……元に戻るの?」
「うん。岡間先生が元に戻してくれた」
「チイッ」
 ん? 今、聖、舌打ちしなかった? 聞き間違いかなぁ……。って、あれーーーー? 何してんの? 聖!
 聖は何故か、せっせと何かをカウンセリングルームの入り口に設置しようとしていた。こ……これは……ジャンプ台だぁ……。何故、こんなことを……。
「元に……元に戻させてたまるかよーーーー! バーを……バーを開くんだからぁ!」
 なるほど~。聖はママになりたかったんだね……。でも、もうオカマになってるのは、鼻三郎くらいしかいないのに……。
 なんか、頑張ってる聖を見ていると、不思議と涙が溢れてくるよ。
「その心意気……。俺が引き受けた!」
 え? 基次? お前……わざわざ戻ってきたの……?
「オーライ! 聞いてください。モリシンさん(森進一)に捧げます。ゴッドマザー」

        「ゴッドマザー」作詞・作曲・歌 柳沢基次

     おふくろさん、なんてもう呼ばない
     だからアイツとのことなんて 心配しなくていい
     手紙を書くのは得意なんだ
     あぶり出しに気づくかなあ
     泣いてなんかいないぜ ミカンの汁だよ……
     小さい頃に教えてもらったやり方です
     あなたの前の 母親に
     気にしないで下さい 今はあなたがゴッドマザー
     マザー マザー ゴッドマザー
     血に飢えた虎 牙をむく狼
     マザー マザー ゴッドマザー
     食べて寝る猫 あざ笑う馬
     たまには手料理食べたいな
     たまにはハタキもかけてくれ
     それでも ゴッドマザーはあなただけ


 ねえ……基次……。これを歌いたいが為に、戻ってきたの……? だいたい……モリシンさんって……。余計なお世話だよ……。もう、勝手にして! でも、スランプ脱出できたみたいだ。よかったね。
 その時、遅れて走っていた鼻三郎が……僕たちのやり取りを一部始終見ていたようで、号泣していた。
「聖ママ……。私……私だけでも……ショーに立つダス~~~~!」
「鼻三子――――っ!」
 堅く抱き合う二人を尻目に僕は走った。だって、こんなことしている間に竹豊がどんどん遠くなってるんだもん。
 逃がすかっ! 僕のマイスウィートエンジェル!
「た……た……た……竹豊―――――っ!」
 僕の鬼気迫る姿に驚いた竹豊は慌てちゃって、何かを落っことした。何だ? これ……。えっ? 何~?
 わあっ……。これは……ボディーオイル?
 ツルッ
 案の定、僕はスッテンコロリンした。やっぱりね……。お約束だよーーーーっ!
 それにしても……何故、竹豊はボディーオイルなんて持ってんだよぉーーーーっ! おーーーーっ! ぉーーーーーっ!
 気づいた時には、結構戻っていた。だって……さっきまで竹豊が目前にいたのに、聖たちの方が近くなってるんだもん……。あぁぁ……。竹豊……。チックショーーーー! 僕は何故か手にしていた竹豊のボディーオイルをポイ捨てした。
 なんだい! こんなもの!
 その時だった。
「ヒヨコ! ポイ捨てはいかんぞ! ノワッ」
 ジョギ先だぁ……。でも、ヤツもボディーオイルでスッテンコロリンした。けど……けど……アイツ……すげえーーーーっ! 上空で一回転して、元に戻った。何なの? この人……。
 も~やだ~! 帰りたい~~~っ! こんなとこ……こんなとこ……いやだーーーーっ!
 僕が泣きながら猛ダッシュすると、あれ? 目の前に『ゴール』の字が。いったい……?
 そこにはすでに、洋一郎之介と竹豊と基次がいた。あれ? いつの間に基次に抜かれたんだろう……。
「こっちこっち! こっちに来ればゴールだよ!」
 ああ……。竹豊が手招きしている。まさか天国じゃないよねえ……。天国でもいい……。こんな訳のわかんないトコから出られるなら……。あ、でも死ぬのはイヤだなあ……。とりあえず、ゴール! うわーい! 竹豊――――っ! 
 ハッ! 今だ。驚くべき素敵なことを言うのは、今、この時なんだ!
「竹豊――――っ! あい……」
「ヒヨコーーーーーッ!!!」
 またしても、嫌な予感……。そろそろ来ると思ったよ……まったく……。
 ジョギ先は一直線にゴールに飛び込んできた。
「ヒヨコたち……。よく頑張ったな……。先生は……。先生は嬉しい!」
 例の如く、号泣だ。この人、僕たちを追いかけてなかったっけ? なんで感動してんだろう……。
 恐らく、『ゴール』という文字を見ると、無駄に感動してしまうのだろう。条件反射ってやつかもしれない。
 コーフンしたジョギング先生は僕と基次にゴールテープを持たせて、何度もテープを切っていた。意味が分からない。

 そこへ現れたのは、聖&鼻三郎のオカマコンビだ。聖ママは疲れちゃってる鼻三郎を抱えていて、実に逞しい。マッスル剥き出しだ。
 しかし、聖ママはゴール先の竹豊を見て、興奮した。よく見ていると、何故か鼻三郎も興奮していた。そっか。オカマは竹豊が好きなんだっけ?
「竹豊くんっ! 私の竹豊くーーーーん!」
「私の竹豊君ダスよ!」
 ゴール手前で争い合うオカマふたり。確かに、よくテレビで見る双子のオカマも仲良くしているかと思うと、急に「何よ、アンタ!」とか言い合ってるもんね。オカマは男が絡むとすぐこれだ。
 聖は鼻三郎を投げ飛ばし、1人ゴール! やっぱり最後は鼻三郎なんだなあ……。そして、鼻三郎もヨロヨロになりながら、やっとゴール!

 とにかく、これで全員揃ったかな? ん? いや、まだだ。まだ誰か走ってるぞ……。最後に走ってきたのは……。ごめんなさい。誰?
 さっきから、ずっと気になってたけど、見ないフリしていた……。けど、誰? あの黄色い人。
 黄色い人は淡々と、表情も変えずに走っている。けど……誰?
 とりあえず、わかんないけど、もうちょっとだよ! 黄色い人! あっ。でも……そこは……。ダメだ……。そこを踏んじゃあ……。そこには竹豊のボディーオイルがーーーー!

 ツルッ

 黄色い人はスッテンコロリンして、跡形もなく消えて行った。黄色い人がスッテンコロリンしたと同時に、僕たちはモワモワ~ッとした煙に包まれて、次に目覚めた時は、和室のカラオケボックスだった。
「俺が思うに、あの黄色い人は、妖精だと思う」
 洋一郎之介が自信満々に呟いた。そんなわけ、ね~だろ~!って言いたいトコだったけど、ひょっとしたら、そうなのかも……って気もしてきた。
 妖精でもなんでも、構わない。黄色い人は僕たちの心に一生残り続けるんだと思う……。思う……? うん……。思う……。多分。
 そうだ。きっと……。黄色い人は僕たちを元の世界に戻す為に消えて行ったんだ……。きっとそう。そういうことにしといたら、綺麗に締まるよね?
 ありがとう……。黄色い人。さようなら……。黄色い人。

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妖精大百科フェアリー・マンダーラ 29(アヴダビ)

2007-03-25 09:21:15 | 妖精大百科フェアリー・マンダーラ
29匹目「メガネ妖精 メガネズミ」

 今日は日曜日。
 洋一郎之介は休日にも関わらず朝も七時には起きて、テレビの前にスタンバイしています(と言っても、彼は毎日が日曜日状態なので別に大したことは無いですね)。
 ベッドの上で三十分ばかり変身ポーズを練習し、だいぶ体がほぐれてきた頃、奴らがブラウン管に現れました。
「メガーネメガーネ、メーガネーまくれ~オゥラ~イ♪」
 そうです、メガネレジェンドの最新作「メガネ戦隊ドキンガン」です。
「やれ! メガネボーエキ(巨大ロボ)! 今だ! 必殺! サカサメガネ!」
 クライマックスに向けて洋一郎之介の興奮は最高潮に達し、自分もメガネ戦隊とともにラガン族と戦っているように、ベッドの上で暴れまくりました。
 そうこうするうちに、テレビの中ではラガン族の将軍が悶絶死しました。
「はぁはぁ、やったぜ!」

 さて、引き続き八時からは「メガネドライダー小池」です。
 単体のメガネヒーローが悪を根絶やしにするために奮闘する番組ですが、メガネレジェンドと違って、子供向けの振りをして大きいお友達向けに作ってあるため、なんだか小難しい話で、洋一郎之介は全然楽しめません。
「あ~、なにチンタラくだらないドラマを演じてんだよ。いいから早くメガネかけろよ!」
 洋一郎之介はイライラして、羽毛の枕をボスボス殴りました。あまりに乱暴に殴ったため、枕がやぶけ、羽が飛び出してしまいました。
 部屋中に羽が飛び散り、まるで(仏教徒の日本人が勝手にイメージする)天国のようです。
「わあ、幻想的……」
 部屋の片付けは親まかせの洋一郎之介は、ただ純粋に羽の舞い降る様に感動する事が出来ました。
 するとどうでしょう。
 羽とともに、一つのメガネがフワフワと降りてきたのです。まるで(聖書を読まない人が勝手に想像する)神様からの贈り物のように……。
「わあ! メガネだ! やったー!」
 メガネ戦士に憧れながらも目の良さゆえにメガネを買ってもらえなかった洋一郎之介は、思わず狂喜乱舞しました。
 すると……。

「まあそう興奮するんじゃないチュー」
「え、誰!」
 嫌な予感がして、手の上のメガネを凝視しました。視力は良いくせに注意力散漫な洋一郎之介は、ここではじめて、このメガネが鼻メガネであることに気付きました。しかも、ネズミをかたどったような鼻なのです……。
「ボクはメガネ妖精メガネズミだチュー!」
 案の定、鼻メガネはキーキー叫びました。
「キミと会ったのも何かの縁、さあ、ボクをかけてみるが良いチュー」
「う、うん……」
 何となく気乗りのしない洋一郎之介です。
 それは、メガネが妖精だったからだけではありません。彼はおばあちゃんから、「目が良いのにメガネなんぞかけたら、目が爆発しちまうぞ」と脅かされていたのです。この婆は、子供時代の洋一郎之介の父親・深川山太郎之介にも「テレビの(ダイヤル式の)チャンネルを逆に回すと爆発しちまう」「スイカの種を飲み込むと腹にスイカの木が生えちまう」と言ってトラウマを植えつけるような迷信婆でした。
「俺、やっぱ怖くてダメだ~」
 洋一郎之介は泣き出してしまいました。
「大丈夫! 実はボク、本当は度が入ってないんだチュー。このレンズだって、サランラップを張ってあるだけなんだチュー」
「え、本当!?」
「嘘なんか嫌いだチュー。さあ、ためしてみるが良いチュー」
「うん! へへ、ドキドキするや……。よし! チェンジ! メガネなんとか!」
 洋一郎之介は気合い一発、変身ポーズを取りながらメガネズミを装着しました(緊張していたのか、あれだけ練習していた変身時のセリフはど忘れしました)。
「やったーぁ……。う、う~ん……」
 あれほどはち切れそうだった嬉しい気持ちが、しゅわしゅわ~としぼんでしまいました。
 メガネズミ本体、つまり鼻メガネの鼻の部分ですが、裏側は生温かく、湿っていて、そしてとても、獣臭かったのです。
「ねえキミ! どんな気分?」
 鼻先でメガネズミがチューチュー言ってます。
「へ? う、う~む」
 洋一郎之介はもう臭くて臭くて、気を失いそうでした。癇癪を起こす元気もありません。ただ静かに、メガネズミを外しました。
「いったいどうしたんだチュー?」
 心配そうなメガネズミには、とても本当の事は言えず、ただ「ありがと」と呟きました。
 メガネズミは何かを感じ取ったのか、寂しそうな、そしてつらそうな顔をしました。二人の間に重い空気が流れました。

 その時です。
 テレビの中で、ようやく小池がメガネ変身をしたのです。
「あ! メガネドライダーにやっとなった! 気をもたせやがって~!」
 それから洋一郎之介とメガネズミは、必死になって小池を応援しました。
 次回予告で、小池がパワーアップして鼻メガネをかける事が明らかにされた時なんぞ、メガネズミは有頂天でした。
 そんなメガネ妖精を、なんだか複雑な気持ちで見つめる洋一郎之介でした。
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妖精大百科フェアリー・マンダーラ 28 (チャキオ)

2007-03-22 21:16:01 | 妖精大百科フェアリー・マンダーラ
 28匹目「理由なく反抗する妖精 ビリー」

 その日は、珍しく学校に行った洋一郎之介ですが、放課後、担任の先生に呼び出され、教室に残されていました。個別指導ってやつですね。
「深川君。君には、いつかちゃんと話そうと思っていたんだ。今日はいい機会だ。君はどうしてちゃんと学校に来ないんだい? 今日だって、もう給食も終わった時間に来たじゃないか。それでは学校に来ているとは言えないんだぞ!」
 そうです。洋一郎之介は今日も、見たかった教育テレビを全てチェックしていたら、お昼過ぎていたのです。昼過ぎて、囲碁番組になってしまい、つまらなくなったので、暇つぶしに学校に行ったのでした。
「でも……先生……。俺は今日、道徳のテレビ『にこやか2組』で友達の大切さを学びました」
 先生は困ってしまいました。話がかみ合っていないからです。
「そういうことを言ってるんじゃないっ!」
 先生は強く机を叩いてみせました。新米の先生は色々な指導法を試して、問題児である洋一郎之介に対抗しようとしていたのです。飴とムチ、使い分けてみました。
 しかし、洋一郎之介は類まれなる根性なしだったので、ちょっと脅かしただけなのに、完全に怯えています。今にも泣き出しそうでした。新米先生は今がチャンス! とばかりに洋一郎之介に畳み掛けました。
「だいたい君は制服をどうしたんだ! 今日だって、なんだ? このピアノの鍵盤のTシャツなんか着て! ちゃんと制服を着なさい!」
 先生の一喝にビクゥッとして、涙をポロポロと零し始める洋一郎之介。彼は今日、起き抜けに学校に向かったので、制服を着忘れていたのでした。お気に入りのピアノの鍵盤の描かれたTシャツを悪く言われた洋一郎之介の涙は止まりません。
 先生は幾分、悪いことをした気持ちになりました。ちょうどその時、校内放送がかかり、新米先生は電話が入ったとかで、洋一郎之介を残して席を立ちました。

「うっ……うっ……。なんだよ……アイツ……。俺のお気に入りの鍵盤Tシャツを……」
 1人泣き濡れる洋一郎之介。すると、教室の扉がガラッと開きました。
「泣くのはよしな! あんなワカランチンの為に!」
「だ……誰!?」
 そこにいたのは、顎の長い、いかにも外国人の不良(ひと昔前)というような憎たらしげな顔をして、BJと描かれたスカジャンを着ているのに、耳だけはエルフのように尖っているナゾの存在でした。
「もしかして……君は……」
「そうだ。俺様は妖精さ。名はビリー。理由なく反抗することを生きがいにしている」
「理由なき……反抗!? なんてカッコいいんだ! ビリー!」
 洋一郎之介の目は輝きました。
「よせやい。照れるぜ……」
 ビリーはニヒヒと笑いました。
「ビリー! 俺は……俺は悔しいんだ! 先生が俺のこのTシャツをバカにするんだ! もう……何もかも嫌だ!」
「お前のそのTシャツ……。半端ねえくらいソウルフルだぜ。そのTシャツの良さも分からねえような先公の言うことなんてクソ喰らえだ!」
 ビリーはそう言うと、小さく「ポウッ」と付け足しました。
「ビリー! どうすれば俺も君みたいにカッコよく生きれるんだい?」
 必死になる洋一郎之介。彼はビリーの今にも両手を広げて、片足を上げて、ミュージカル風に踊り出しそうな、そんな雰囲気に魅せられていました。洋一郎之介の憧れの眼差しを前に、ビリーもまんざらでも無いように、腰を折り、指パッチンをしながら、洋一郎之介に近づきます。
「ボーイ……ボーイ……クレイジーボーイ……。ゲットクールボーイ……」
 ビリーは「もしかして歌か?」と言うような口調で語り出しました。
「いいか。少年。俺様の言うことを守っていれば、お前は立派なジェームスになれるぜ。よく聞きな」
 洋一郎之介は固唾を呑んで、ビリーを見つめています。
「お前はこれから、あの先公に何を言われても、『知らねえよ』『うるせえな』『マジうぜえ』の3つを繰り返しな。そして、先公が何かアクションに出た時は、これだ。『やんのか? コラァ!』。これでお前もクールボーイの仲間入りってわけだ」
 そう言うと、ビリーはニヒルに笑って、スススと消えていきました。
「ビリー! わかったよ! 俺を見守っていてくれ!」
 ビリーが消えたとほぼ同時に、用事を済ませた先生が戻ってきました。

「深川君。すまないね。待たせちゃって……」
 洋一郎之介はニヤリを笑いました。ここだ! 彼の直感が口を開かせます。
「知らねえよ!」
「な……! 深川君! どうしたんだ? 急に……」
「うるせえな!」
 新米先生は洋一郎之介の豹変振りに唖然としています。
「誰に向かってそんな口を!」
「マジうぜえ!」
「深川君、いったい何があったんだ!」
「知らねえよ!」
「落ち着きなさい!」
「うるせえな!」
「そんな言葉遣いをして、親御さんが泣くぞ!」
「マジうぜえ!」
 洋一郎之介は自分のあまりのカッコよさに失神しそうでした。思わずニヤニヤしてしまいます。先生は戸惑いつつも、“飴とムチ”を思い出しました。
「深川君!」
 そう言って、激しく机を叩いて、立ち上がります。洋一郎之介はすかさず、あの言葉を放ちました。そうです。
「やんのか? コラァ!」
 あまりのグッドタイミングに身も震える想いです。先生は想定外の出来事に対処しきれず、「今日はもう帰りなさい」と小さく呟き肩を落としました。
 洋一郎之介はその言葉が先生の敗北宣言に聞こえました。満面の笑みを残して、教室を出ます。
「ビリー! 俺、やってやったよ! 俺、立派なジェームスになれたかな?」
 洋一郎之介はこのままエデンの東を目指したかったのですが、東がどっちかが分からなくて、太陽の沈む方向に歩いていきました。

 その日の先生の教育メモには「深川洋一郎之介。やや難あり。進路先、悪漢高校……か?」と記されていました。

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妖精大百科フェアリー・マンダーラ 27(アヴダビ)

2007-03-18 13:07:46 | 妖精大百科フェアリー・マンダーラ
27匹目「自分の気持ちをヘルメットに言わせる精 カブオ」

 今日も家でゴロゴロしながら、夕方からやっている昔のドラマの再放送を見ていた洋一郎之介。ブラウン管の中では、病気で入院している中学生が、お見舞いのメロンを食べています。高級なメロンをしゃくしゃく食べるその様子に、洋一郎之介の目は釘付けです。
「うっまそ~う! 昔の日本では病気になるとメロンが食べられたんだね。良き風習だよ」
 早速彼は、台所にあるホワイトボードに向かいました。
「ええと……『風邪ひいた。明日は学校休む。お見舞いに八百屋さんで……』」
 洋一郎之介の両親は共稼ぎで、朝早くに家を出て夜遅くに帰ってくるため、グウタラで早寝遅起きの洋一郎之介とはなかなか話す機会がありません。そこで台所にかけてあるホワイトボードの伝言で連絡を取り合う事にしているのですが、なんだか寂しい家庭ですよね。
「さて、俺は病気って事なんだから、もう寝なきゃね」
 意気揚々と、ベッドに潜り込みます。今日は何の理由もなく学校を休んだくせに、おかしいですね……。

 そして翌日。
 結局昨晩は、毛布を砂漠に見立てて、その上でミニカーを走らせてラリーごっこをしたりして、夜更かししたために、今朝も寝坊してしまいました。もう十時を過ぎていました。
「さてさて、あるかなあるかな」
 わくわくしながら台所へ向かいました。ホワイトボードには、『残さず食べて、早く治してね』とお母さんの字で書いてあります。しかしその下に待ち構えていたのは、黄色い、一つのレモンでした。
「なななななんでレモンなんだよ!」
 ショックのあまり箸立てをひっくり返す洋一郎之介。割り箸や、トーベ・ヤンソンの顔が描かれたプラスチックの箸がばら撒かれました。
「ふざけやがって~! こんな酸っぱい物、食べられるはずあるか! 俺が食べたいのはメロンでレモン……じゃないよ……。あれ? メロ、レモン? 俺が食べたかったのはレモン? 黄色いのは……メロン?」
 実は洋一郎之介は、メロンとレモンがどっちがどっちだかすぐに分からなくなるのです。自分でどっちをホワイトボードに書いたのか、思い出せません。そしてどっちが食べたかったのかも。
「あれ? これでいいんだっけ?」
 レモンを手に小首をかしげる洋一郎之介。

 そんな彼に、辛らつな言葉が飛びました。
「本当にバカだな。まったくお前みたいなノータリンは見た事ねーよ」
「なんだと~う、誰だ!」
 失礼な言葉に振り向くと、見た事の無い少年がモジモジしていました。その顔は非常に気弱そうで、とても今の暴言を吐いたのが彼だとは思えません。
 でも、ただの子供が洋一郎之介の前に現れるわけはありませんよね。この少年の場合は、その頭です。変チクリンなヘルメットをかぶっているのです。
「あの……僕はカブオといいます……」
 少年(その名はカブオだ!)は落ち着かなげに自分のお腹や腕を擦っています。よく見れば彼の服は、国民的漫画&アニメーション作品「ドラちゃん」に登場する、暴れ者Gのコスチュームと同じデザインです。しかしその臆病そうな顔には全然似合っていません。
「おいおい、お前もまた身の程を知らん奴だなあ」
 洋一郎之介は人差し指を突きつけて笑ってやりました。しかし。
「お前みたいな青びょうたんが何をぬかす。靴紐が縛れないから未だにマジックテープで留めるスニーカーしか買わないようにしているくせに、人のファッションに意見出来るのかよ」
 またもカブオから飛んできた凄い毒舌が、洋一郎之介を打ち据えました。
「な、なんでそんな酷い事言うの……」
 あまりのダメージに、洋一郎之介の足は震え、目には涙が溢れ、お腹はゴロゴロと言うのでした。
「あ、あの……ごめんなさい」
 カブオがおろおろして、洋一郎之介の背をさすってくれました。その優しさに洋一郎之介はジ~ンと来ると同時に、また強気にもなるのでした。
「ごめんって、もう遅いよ! この悪魔め! テメエは俺を苦しめる! 邪悪なり! 俺の不幸はみんなお前のせいだ! アニメの主題歌の二番から先が妙に歌いにくいのも、夜中に干してある洗濯物が怪物に見えるのも、みんなお前が悪いんだ!」
 怒鳴ってから、はっとしました。そこまで言うつもりは無かったのです。案の定、カブオはショックを受けたようで、その顔は今にも泣き出しそうに歪んでいました。そして、くるっと背を向けてしまいました。
「あ、待って!」
 駆け出そうとしたカブオの手を、洋一郎之介が掴みました。
「わあっ」
 よろめいて、勢い余って二人は転んでしまいました。
 その時、カブオのかぶっていたヘルメットが吹っ飛び、偶然洋一郎之介の頭にすぽっとはまりました。するとどうでしょう……。
「おい、カブオ、まあ待てって。俺ァよ、あんな事言うつもりはなかったんだぜ。俺、本当はお前に背中をさすってもらって、すげー嬉しかったんだぜ。出来れば俺がつらい時とか、さり気なく背中をさすり続けてもらいたい、そう思うぐらいによ。だからよ、お前、俺と一緒に朝飯食ってかねーか。なんかお前とならよ、すっげー美味くて楽しい朝飯になりそうなんだぜ」
 ちょっと妙な口調でヘルメットが喋りだしたのです。でもそれは、実は洋一郎之介が心に思った本当の気持ちだったのです。洋一郎之介は赤面しました。
「な、なんだよ、このヘルメット! 返す!」
 洋一郎之介は慌ててそれを脱ぎ、カブオにすぽっと被せました。すると。
「いや、小僧、俺も悪かったんだぜ。実は俺もよく、雑誌の『ムー』と『ニュートン』の区別がつかなくなっちゃうんだぜ。だからよ、なんか俺たち、気が合いそうじゃん? だからよ、朝飯、美味くなりそうじゃん?」
 カブオがヘルメットの下で照れ臭そうに微笑みました。
 それから二人で、レモンを半分に切り、砂糖をかけて食べました。恐ろしく酸っぱくてつらかったけれど、それでもとっても楽しい朝食になりました。

 カブオは本音を言い出せない内気な妖精です。代わりにヘルメットに言わせちゃうズルさを持っています。でも本当は、自分の言葉で伝える事がなによりも大切だと、皆さんは知っていますよね。しかしそれは、大人になるにしたがってどんどん難しくなります。でも、そんな時、大人はお酒を呑みます。お酒にはカブオのヘルメットと同じ効果がある事を経験から知っているからです。『大人は誰でもあの日のカブオ』、昔の人はうまい事を言ったものですね。
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妖精大百科フェアリー・マンダーラ26 (チャキオ)

2007-03-13 22:05:09 | 妖精大百科フェアリー・マンダーラ
 26匹目「ハウリングの妖精 ハウル野狂四郎(ハウルノ・キョウシロウ)」

 洋一郎之介は生まれて初めての勇気を振り絞りました。そうです、兼ねてから憧れていたカラオケボックスを訪れてみたのです。
 もちろん、友達などと一緒ではありません。一人きりです。しかし、洋一郎之介は寂しくなんかありませんでした。なぜなら、彼は電話ボックス然り、トイレの個室然り『ボックス』を連想させるような場所は一人で入るものと信じて疑わなかったからです。
 受付の際、店員に奇異なものを見る目付きをされましたが、洋一郎之介には、それが特別な存在を意味しているのだと感じました。そうだ、俺は神に最も近い男。とても神々しくて、普通に接することができないんだな、そう思いました。あまりにもの自分の存在に恐れをなした店員が「お飲み物は何にしますか?」と訪ねてきやがった。迂濶にもそう考えた洋一郎之介は「コーラをお願いします」とヘコヘコしながら答えました。大物になれないタイプです。

 狭い部屋に通されると、不思議な機械がたくさん置いてあって、初めてカラオケボックスを訪れた彼にとっては、未知との遭遇でした。
「何だよ! 何でマイクが二本もあるんだよ!」
 洋一郎之介は無駄に多いマイクや分厚い本に書かれている暗号のような数字、そして三流のCMのようなものがひっきりなしに流れるTV、全てに苛立ちが募ります。
 そして、ついに歌い始めました。アカペラで。両手に1本ずつ、マイクを持って……。そうです。彼には機械の使い方、及び、マイクの使い方すらわからなかったのです。
 マイクを近づけて歌う、それは爆弾を抱えて歌うようなものです。案の定、キーーーーーーンッ! と耳障りな音が、狭い個室に響き渡りました。
「キャアッ! 何なの!? この音は!? もしかして……ヤツか!? ヤツが来たのか!?」
 洋一郎之介は慌ててマイクを放り投げました。しかし、マイクは2本とも同じ方向に飛んで行ってしまい、また近くなって共鳴し始めました。
 キィーーーーーーンッ
「ヒイィッ! 俺を……俺を洗脳しようとしているなっ! 俺を洗脳して、改造して、何かを埋め込んで……超人にしあげようとしている秘密組織の面々が……やってくるぅぅーーーーっ!!」
 洋一郎之介がソファの上で暴れると、テレビの隙間から黒い影がヌッと出てきたのです。
「来たな! 悪の組織! 俺様に何をする気だっ!」
 妄想癖のある洋一郎之介はすっかり何かのヒーローになった気で黒い影に向かって叫びました。
「オレは悪の組織ではない。オレの名は、ハウル野狂四郎。ハウリングの妖精だ!」
 言葉の最後はキーーーーーーンッという耳障りな音により掻き消されました。
「ハウル野狂四郎……? 妖精だって?」
 洋一郎之介はハウリングに苦しみながらも、その姿を確認しました。嫌な表情をしています。エルフの様な耳を持ち、マイクを手にしているにも関わらず、八つ墓村の様に、頭に2本のマイクを突き刺して常にハウリングを起こさせようとしているのです。あげく、背中にもマイクを背負っていて、さらに胸元にはマイク型の小さなペンダントまでしています。これでもかとマイクを主張しているルックでした。
「ヒヒヒ……苦しめっ! 苦しむがいい! 特に、わざわざカラオケボックスにまで来ておきながら、歌うのが恥ずかしいだなんて言って誰かを巻き込んで無理矢理キンキキッズ、タキツバ、狩人を歌う女子や、デュエットを口実に嫌がっている女子社員の肩を抱こうとして『銀恋』や『男と女のラブゲーム』を入れるサラリーマンや、頼んでもいないのにエグザエルやケミストリーをハモらせてくる男子……。みんなハウリングで苦しむがいいっ!」
 ハウル野狂四郎がそう叫ぶと、キィィーーーーーンッと一際、不愉快な音が部屋中を駆け巡ります。
「やめてくれーーーーっ! 何かの間違いだっ! 俺は君の言っている事が全く理解できないんだっ!」
 洋一郎之介は耳を塞いでも聞こえてくるノイズに頭が割れてしまいそうになって泣き叫びました。
「オレの言ってることが分からない訳ないだろっ! こんな真昼間っからカラオケにくるようなヤツは!」
「俺は……俺は……ただ……『100人レジェンド大集合~フルコーラスバージョン~』が歌いたかっただけなんだぁーーーーっ!」
「な……何ぃっ!」
 ハウル野狂四郎は洋一郎之介の叫びに、激しく動揺しました。その証拠に、頭のマイクが一本グラリと傾いたのです。そのおかげでか、ハウリングは一瞬収まりました。
「お……お前……あの伝説の『100人レジェンド大集合~フルコーラスバージョン~』に……手を出すのか……!? 悪い事は言わない! やめた方がいいっ! あの歌は……一度入れると歌い終わるまでに……100分以上かかる幻の歌だぞ! オレは……このカラオケボックスに長年いるが、歌いきったヤツを……それどころか、チャレンジしようとしたヤツを……見たことがないっ!」
 必死で止めようとするハウル野狂四郎に静かに首を振って答える洋一郎之介。その目は、熱き魂を漲らせた、特撮ヒーローのそれでした。
「いいんだ……。俺は……俺はその為にここに来たんだからなぁっ!」
 ハウル野狂四郎はガクッと両手を床につけて、涙を落としました。その姿はまるでサヨナラホームランを打たれた高校球児のようでした。
「やられたよ……。まさか……そんな強敵に……出会えるなんてな……」
 そんなハウル野狂四郎を尻目に洋一郎之介はマイクを持ちました。
「チャーラーチャッチャララッララララーララー」
「ま……まさか……アカペラで……前奏からっ!?」
 勇ましい洋一郎之介の姿を見て、ハウル野狂四郎は立ち上がりました。手にしていたマイクを最大に近づけます。すると……キィィーーーーーンッと激しいハウリングが部屋中に響いたかと思うと、ブツッとテレビ画面に『100人レジェンド大集合~フルコーラスバージョン~』の映像が映し出されました。
「あっ! テレビに……テレビにメガネレジェンドたちがっ!」
 そうです。カラオケビデオが流れ始めたのです。
「ハウル野狂四郎! 君がこれを……入れてくれたのかいっ!?」
 洋一郎之介が振り向くと、そこにいたはずのハウル野狂四郎の姿は忽然と消えていました。
「ハウル野狂四郎……。君の想いを無駄にはしない……」
 洋一郎之介はしんみりとした気持ちで歌い始めました。すると、一緒に歌い始めたようにキィィーーーーーンッとマイクが唸り、その後、洋一郎之介が100分歌いきるまで再びハウリングを起こす事はありませんでした。

 ハウル野狂四郎はハウリングを起こすイタズラ好きの妖精です。あなたがカラオケボックスに行った時、続けざまにハウリングが起きるなんてことがあったら要注意! ハウル野狂四郎の勘に触ってしまったかもしれませんね。
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妖精大百科フェアリー・マンダーラ 25(アヴダビ)

2007-03-11 13:56:09 | 妖精大百科フェアリー・マンダーラ
25匹目「身の程知らずのコスプレの妖精 エボック少佐」

 その日は平日でしたが、洋一郎之介はもちろん家でロールケーキを食べながら、テレビのアニメ専門チャンネルを観ていました。この時間は「ベルサイユのばら」をやっています。こうして洋一郎之介は、昔のアニメにどんどん詳しくなっていくのです。
「オスカルって超強いよね……」
 世界史に疎い洋一郎之介は「ベルばら」が一応歴史物である事に気付いていません。どこか別の惑星の話だろうと漠然と捉えていました。フランスと言われても「パンみたいな名前でおかしいね」なんて言っているのです。それにオスカルが男だったか女だったかもすぐに分からなくなります。
「ああー、俺もオスカルみたいになりたいなー」
 持っていたフォークをレイピアのように握り、フェンシングの真似事をする洋一郎之介。
「ハイハイハイ! 極楽三段突きぃ!」
 妄想癖のある彼は、アニメのキャラのために、勝手に必殺技を考案してあげたりもするのです。
 しかし……!
 ガキイィン!
 フォークによる極楽三段突きは、何者かの細身の剣によって受け止められ……!
 ギャリリリ! クルクル……ざく!
 弾かれ、回転しながら飛んでいき、天井に刺さってしまいました。
「だ、誰だ!」
 驚く洋一郎之介の前には、白い豪華な制服を着てレイピアを持った一人の男がポーズを決めていました。
「私はオスカル」
「ええーー!」
 洋一郎之介が驚くのも無理はありません。確かに、「ベルばら」に出てくるような白い生地に金の飾りのたくさんついた、華麗なコスチュームに身を包んでいます。ですが、それを着ているコヤツの顔といったら、「まんが日本昔ばなし」に出てくる貧乏な子供みたいな感じなのです。洋一郎之介は思わず殴りたくなってきました。
「お前みたいなオスカルがいるか!」
 洋一郎之介の激昂に、日本昔ばなしはフフッとほくそ笑みました。
「失礼。今日はオスカル、と言えば良かったかな。私の名はエボック少佐。コスプレの妖精さ」
 そう言うと、エボック少佐は剣を構えました。それはもう、ビシッと華麗に決まりました。さぞや何回も練習したのでしょう。しかし顔は相変わらずなのです。
「コスプレだって!? そういえば聞いた事がある。二次元と三次元の垣根を越えようと努力する冒険者がいると……」
 そう思ってからエボック少佐を見ると、その目には確かにフロンティア・スピリッツの炎が燃えて……いるはずもなく、きょとんとしたハナタレ小僧の目でしかないのです。
「テメエにオスカルのコスプレをする資格はねえ!」
 洋一郎之介の中で、光り輝くバラが咲き乱れました。
「うおおお!」
 潜在能力を爆発させ、超ジャンプし、天井に刺さったフォークを掴む! そうして、天井を蹴り、急降下アタック! それを迎え撃つエボック少佐!
「「俺(私)が本物のオスカルじゃあああ!」」
 激突する二輪のバラ!

 そうして一輪は倒れ、もう一輪は立っていました。
「う……べふッ! ふふ、効いたよ……」
 口の血を拭いながら、エボック少佐は身を起こしました。やぶれたながらも、その目はとても清らかで、華やかに激しく生きろと産まれた者に相応しいものでした。先ほどまでの、お地蔵さんのお供え物を盗んで食べそうな意地汚さは消えうせていました。
「今日のオスカルは、あんただよ……」
 エボック少佐はよろけながら白い制服を脱ぐと、洋一郎之介の肩にそっとかけました。
「エボック少佐……。いいのかい?」
「いいのさ。それにほら、とても似合っている……よ……」
 そう言うと、コスプレの妖精は洋一郎之介の胸にがくっと倒れこみました。その体は、抱きとめた洋一郎之介の腕の中で、すうっと音もなく消えていきました。それはまさに、気高いバラが美しく散ったかのようでした。
「強敵よ、あなたもまたオスカルだった!」
 洋一郎之介はからになった腕を強く抱き、叫びました。
 それから涙を拭い、エボック少佐の残してくれた白いコスチュームを見ました。首の後ろの部分に札が付いていました。そこには「おもしろコスチューム・カールスモーキー石井タイプ」と刺繍されていたといいます。
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妖精大百科フェアリー・マンダーラ 24(アヴダビ)

2007-03-06 21:48:37 | 妖精大百科フェアリー・マンダーラ
24匹目「メイドの精 ウパ川ルパ子」

 今日も洋一郎之介は学校へ持っていくはずだった弁当を、家で一人食べていました。
 ぽつんと一人ぼっちの食卓に、テレビの音だけが流れています。昼の情報番組、本日は昨年流行したアキバ型メイド特集でした。
 ふりふりした服装で、客やレポーターに媚びるタイプの接客をする女の子達。その姿を食い入るように見る洋一郎之介。
 番組が終わる頃、ちょうど洋一郎之介の昼食も終わりました。今日の弁当のおかずは、チーカマやカニカマボコ、そしてチーズちくわでした。どれも彼の好物です。が、この満たされない気持ちは何?
 一人ジャバジャバと弁当箱を洗っていると、不意に涙がこぼれました。
「俺、今日も一人ぼっちだ……。世のオタク達は街でメイドとよろしくやってるっていうのに。うちにもメイドさんがいてくれたらな……。俺の面倒を見てくれたらな……幼児に接するように過剰な愛情を示しながら……」

 その時です。
「あらあら、そんなに水を飛ばして。お召し物が濡れますわ」
「誰!?」
 背後に聞こえた女性の声に、過度の期待を込めて洋一郎之介は振り向きました。
 そこにいたのは、たしかに女性でした。しかしその顔はウーパールーパーのようにのっぺりとして、さらに難解なパーマをかけています。着ているのはチマチョゴリか着物か判別しにくい物で、しかも裾はスカートになっているのです。では帯は、いったいどこに締めているのでしょう? いろいろと不思議なファッションでした。
「え、え~と」
 いくらか拍子抜けして言葉に詰まった洋一郎之介を尻目に、彼女はてきぱきとエプロンを装着しています。
「あたしはメイドのウパ川ルパ子」
 ウパ川ルパ子……。字で書くと目の錯覚を起こしそうな名前だ! 洋一郎之介は一瞬でそこまで見切りました。
「ほら、どいて下さいな。ハッ!」
 気風の良い妖精はちゃきちゃきと小気味良く動き、食器洗いもこの通り……パリーン!
「あーら、やっちゃった」
 ガラスのコップは床に落ちて粉々に砕けてしまいました。
「ああ~! 俺のコップが~!」
 それは洋一郎之介のお気に入りの、トーベ・ヤンソンの顔が印刷されたコップでした。
「こら! カケラを踏んだら危ないから、向こうに行ってなさい!」
 しかしルパ子は謝るどころか、小さい子を叱る年の離れたお姉さんのような責任感溢れる投げ技で、洋一郎之介を撃退しました。
「うわあ」
 あまりに綺麗に投げ飛ばされて、洋一郎之介はふすまに激突し、ズボッと頭を貫通させてしまいました。
「あーら、やだ」
 自分のおてんばに照れたのか、ルパ子は頭をコツンと打ち、舌を出しました。
 洋一郎之介は頭で突き破ったふすまを首にはめたまま、手で支えて持ち、そんなルパ子を見ていました。
 なぜだかドジなルパ子に心安らぐものを感じていました。一人ぼっちの洋一郎之介の欲しかったもの、いや、現代日本が失いつつある大切な何かが、確かにルパ子からは漂っているのです。

 その時、ふと洋一郎之介の胸に、ある種の呪文のようなものが浮かんできました。生まれてこのかた、一度も言ったことのない、でもなぜだか懐かしい、この言葉……。
 洋一郎之介は勇気を振り絞って、それを口にしました。
「ええと……、俺、野球行ってきまーす」
 そんな約束あるはずないのに……。そんな友達いないのに……。それなのに。
「こら、宿題がさーき!」
 首根っこを掴んできたルパ子の手は、とても温かく……。
「あ、あのさ、ルパ子さん、このまま家に……」
 洋一郎之介の胸にこみ上げてくる何かは、酸っぱくて、でも気持ちの良いものでした。
「あ! たいへーん! 石油ストーブの横でアイロンつけっ放しだった!」
 突然ルパ子がそう叫ぶと、彼女の背後に、ボウン! という爆発音とともに、犬小屋のような物が出現しました。
「それじゃ、あたしはこれで。またお会いしましょう。うふふ」
 ルパ子がひょこひょこしたスキップで小屋に入ると、小屋は、まるで彼女をゴクンと飲み込んだように、上下に大きく揺れました。
 そしてボムン! と煙が噴き出して、それが晴れると小屋もルパ子も消えていました。
「ウパ川……ルパ子か……。メイドが流行るのが何となく分かった気がするや」
 そうして洋一郎之介は、もしもいつか同級生の友達が出来たら、中島と呼んでやろうと決めたのでした。
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僕たちの青春シリーズ ジョギング先生 第十六話 (チャキオ)

2007-03-04 17:01:04 | ジョギング先生
  第十六話 「オカマになったら関係ない!(前編)」

 それはある日、突然、嵐のように訪れた奇怪な出来事。いつものように竹豊のおコタでヌクヌクしていると、バカ2号の雄叫びが聞こえた。
「あ~! も~ダメだっ! ナイスなアイデアが浮かばないんだよーーーーっ! この俺様に……ついにきたよ! スランプがっ!」
 えっ!? スランプも何も、あんなスットコドッコイな歌に、そんなアーティスティックな出来事があるの? と、突っ込みたかったけど、必要以上に頭を掻き毟ってベートーヴェンのようになってしまった基次にビビって突っ込めなかった。何だか悔しい。
「イギ~ッ! 歌、歌いてぇっ! もはや何でもいい! 自作でなくともいいっ! 今すぐ歌わせろ~!」
 うひ~。完全に中毒患者だよ。怖い……。
「大丈夫かよ。基次……。落ち着けよ……」
 竹豊が心配げに基次に近づく。んもう……。優しいんだから……。
「ダメだって言ってんだろ~! 歌わせてくれよ~っ!」
「わかった……。わかったから、落ち着けって……」

 と、いうことで、僕らは今、御茶ノ水と言いつつも実は神田神保町にある、カラオケボックスに来ている。内装もけっこうキレイで広くって、しかも和室なんだ! すごいよ。もう、今が授業中だってこと、忘れてたよ。フフフ。
「さ~、歌うぞ~! 歌うぞ~!」
 基次が張り切ってる。すでに歌う気マンマンだ。
 僕は、何となく履歴で前の人が何を歌っていたのか、見てしまうタイプだ。調べてみると「ギャバン」とか「ルネッサンス情熱」とか、なんとなく年代を感じるアニソンとかが入っていた。
 も~、何、この人たち! アニソンばっかじゃないかよっ! 調べても調べても、アニソンだった。時折、申し訳程度にユキちゃんとかが混ざってるけど、結局アニソンに戻ってるんだ。
 あと、「金の器~」っていうタイトルのアニソンが何回も入ってる。実は、僕はこの歌を使っているアニメが大好きなんだ。バイブルだと思っている。この歌を、僕も可愛らしく熱唱して、竹豊をコロッといかせようっと。さっそく入れてみた。すると……。
「キャッ! 誰? 『おにいさまへ』を入れた方は!」
 その声は……聖……。まさかっ!
「アタシもこのアニメ、大好きよ! これが好きだなんて、通ね。素晴らしいわ! 一緒に歌いましょう!」
 ギャースッ! 勘弁してよ! 何が悲しくて、聖とデュエットしなくちゃいけないんだよっ!
 しかし、なんかおかしい。僕の想いが通じたのだろうか? 入れても入れても、「金の器~」が出てこないんだ。何でだろう……。
 僕が必死にリモコンをいじっていると、バカ1号の声が。
「ねーっ! 何かあるよ! ここに!」
 見てみると、一枚のゲームボードのような物が置いてあった。
「前の人が忘れていったのかなあ……」
「激しく色んな絵が描かれてあるね……」
「グッチャグチャだなあ……」
 僕たちがジッとそれを見ていると、コンコンとノックする音が。店員さんが入ってきた。
「お客様……。お連れの方がいらっしゃいました」
「え? ツレ?」
 僕たちはいつもの6人でキッチリ揃っている。連れなんかいないはずだ。しかし……。ドドドとスゴイ音が……。この足音は……。
「ヒヨコたち~!!! 何、学校サボってこんなトコにいるんだーーーーっ!!」
「ギャーーーーッ!! 先生――――っ!!」
 現れたのはジョギング先生で、ものすごい形相をしていた。前回の悪魔を引き継いでいるんじゃないかと思えるほど……。
「ヒヨコたち。先生は悲しい……。学校をサボり、こんな所で楽しくエンジョイしようだなんて……。そんなヒヨコに選別した覚えはナイッ!」
 わああ……。先生が例のカクガリータのポージングで襲い来るよ! 助けてーーーーっ! 誰かーーーーっ!
「よ~し! こんな時は……ヌンゲル・モンゲル……ヲンゲ・モンゲ・ヨンゲ……違った。モンゲ・ヨンゲ・モンゲ……違う。モンゲ・ヲンゲ・ヨンゲ……違うっ。ヨンゲ・ヲンゲ・モンゲ……ちがっ……とにかくパパヤパーッ!」
 洋一郎之介がナゾ呪文を叫ぶと、パアッと光が輝いた。しかも、ゲームボードから……。なんで?
 僕たちとジョギング先生はゲームボードの中にあれよあれよと吸い込まれていった。
「あれ……? ここは……? スタートって書いてある……」
「なんだろうね……。いったい……」
 僕たちがキョロキョロしていると、後ろからジョギング先生の足音がぁぁ! 怖いっ!
「ヒヨコたち~! こんなところにまで逃げ込んで~!」
「ギャアァッ! に……に……逃げろーーーーっ!!」

 《学園ラリー ジョギンゲイザ→》

 僕は足が遅いから、我先に走り出した。けど、やっぱり思ったほど進まない。これじゃあ、僕のカワイイ頭が角刈になっちゃうよぉ!
「こらぁ! ヒヨコたち~! 待て待て待て~い!!」
 ジョギング先生は竜巻のように走り出して、勢い余って僕たちを追い抜いて走り去っていった。ビックリだ……。
 でも、おかげでみんな角刈の危機を逃れた。良かったぁ。僕のキュートヘッドと竹豊のビューティホーヘッドが寒くならなくて……。本当に良かったよ。
 さあ、あとは竹豊が来るのを待ってっと……。
「妖精はどこだーーーーっ!」
 あれ? バカの声が……。竹豊は? 竹豊はどこ?
「おかしいなぁ……。妖精界への入り口を開く呪文だったはずなんだけどなぁ……」
 ノヤロー! やっぱりこのヘンテコ世界はお前のせいかよっ!
 まあ、いい。それより、竹豊はまだ? も……もしかして、聖とランデブーなんてことは……ないよねえ……。
 僕がモヤモヤ、イライラしていると、後ろから走ってきたのは、その聖で一瞬ホッとした。
「聖……。竹豊は?」
「竹豊君なら鼻三郎と一緒よ。あの子……もうヘバッちゃって……」
 えーーーーっ! もう? まだ走ってもいないじゃん! 早くない? 竹豊ったら本当に優しいんだから……。鼻三郎なんて待ってたら日が暮れちゃうよぉっ!
 よく耳を澄ますと、スタート地点から話し声が聞こえてきた。
「竹豊君……。僕はもう……ダメダス……。ここでもう少し休んでいるから……先に行っててくれダス……」
「でも、大丈夫?」
 ああ……。なんて優しい竹豊。早く早く、僕の元へ……おいでよぉ。
「僕はゆっくり動くのが好きだから、竹豊君のペースにはついていけないダス……。先に、行って欲しいダス……」
「わかった。じゃあ、ゴールで待ってるからな。後でちゃんと来いよ」
「うん……。ダス……」

 おーーーーっ! やっと竹豊のお出ましだ! ヘヘッ。待ってましたっと。来た……。来たよ……。竹豊。
 けど、一度走り出した竹豊は100メートル走でもしてるくらいの勢いで僕の脇を駆け抜けていった。あれれ? 気づいたら、洋一郎之介にも……そして聖にも置いてかれてた。
 キイィッ! どうせ、僕は足が遅いよ! そして、何だか嫌な予感。
 ギャーーーースッ!! 狭い道で……狭い道を利用して、聖のヤローが竹豊をストップさせようとしている。いきなり前に立ち塞がった聖に、100メートル走ばりのスピードの竹豊が突っ込んで……。ゴロゴロと入り乱れ……。
 あああーーーーっ!! あのヤローーーーっ! どさくさに紛れて、竹豊にしがみ付いている! それをボンヤリと眺めている洋一郎之介。ちょっと! ボンヤリしてないでさあ! あの二人を邪魔してよ~! 二人の間を引き裂いてよーーーーっ!
 けど、聖はいっこうにどこうとしない。ギーーーーーーッ! 僕のイライラは頂点にっ!
 そんな僕の元に、バカ2号がやって来た。
「イヨッス! 何だか不思議な出来事になっちゃったねえ。不思議な街にみな来る(ミラクル)!」
 うざい……。なんだって基次はいつでも親父ギャグなんだよ! この、ご陽気者がぁ! もういいよ。頼れるものは僕しかいない。聖を止めるのは……それができるのは僕だけなんだっ! 悪魔のオカマから姫(竹豊)を救い出せるのは、この僕だけなんだ! 竹豊……。今、行くから待っててねーーーーっ!
 ふと後ろを見ると、まだ鼻三郎はノンビリしていた。アイツ……。まあ、いい。今はそれどころではない。
 イチャつく二人になんとか追いついたぞ!
「二人とも! 何してんだよ!」
「え?」
「あれ?」
 おかしい……。僕は確かに竹豊と聖に話しかけたはずなんだ。それなのに……。え……? この人……誰?
 何だか、黄色いオーラをまとった、のっぺりとした顔の人が僕の横にいるんだ。見たことないよ、こんな人。いったい……誰なの? クラス……メイト……じゃないよね。うん。違う違う。
 僕が黄色い人に目を奪われていると、向こうからオカマの誘うような声が聞こえてきた。
「竹豊くぅぅ~~~ん♪」
 ギャッ! 今はこの黄色い人はひとまず置いといて、竹豊とオカマをなんとかしなくっちゃ。黄色い人は……ひとまず……。うん、気になるけどひとまず置いておこう……。

「聖! さっさとそこをどいてよっ! みんな、詰まってるんだから!」
「なによぅ! アタシと竹豊君のランデブーを邪魔しないでちょうだいっ! 行きたきゃそこから行けばいいじゃない!」
 聖の指差す方にいたはずの洋一郎之介がいつの間にかいなくなっていて、スペースが空いていた。アイツ……いつの間に……。ホントにマイペースだなあ……。
 なんて、洋一郎之介に感心してる場合じゃなくて、今は竹豊のランデブーだけは何としても防がなくちゃぁ!
「あっ。ホントだ。空いてるじゃん! お先!」
 そう言って、竹豊は去って行った。竹豊もマイペースだよね。僕と聖は誰の為にこんな争いをしてると思ってんの……? 僕と聖が睨み合いをしている間に、さっさと行ってしまった竹豊。
「ああっ。待っ……待って……竹豊く~ん……」
「た……たけとよーーーーっ!」
 僕は呆然と佇んで、竹豊の後姿を見つめていると、向こうから猛烈に走り寄る存在が……。
 ジョ……ジョギング先生だーーーーっ!!
「カクガリータ・エッセンシャル・センセーション!」
「うひょ~! 頭が寒いぜ~!」
 ん? あの声は……。洋一郎之介だよね。先に走ってたもん……。もしかして、ジョギ先……戻ってきてる?
「カクガリータ・エッセンシャル・センセーション!」
 ジョリジョリジョリ……。なんか……嫌な音が聞こえたよ……。
「あーーーーっ! 何すんだよ! ジョギング先生!」
 その声……。いやぁ。もしかして……竹豊……? まさか角刈なんてこと……ないよねぇ……。
 そんなこんなで、僕の前にもついにヤツが現れた。
「フフフ……。ヒヨコたち……。覚悟するがいいっ!」
 ジョギ先の手には、おそらく洋一郎之介と竹豊のものと思われる髪の毛が……。黒いのは洋一郎之介で、こげ茶のフワフワは竹豊だ。竹豊の髪……。筆にしたいな。筆にして……今、大ブームのひと筆書きに使いたいな。面白いんだよ。ひと筆書きって。
 特に秋山仁先生の作った本に載ってるヤツなんて、本当、どうしようもないくらいミラクルな出来栄えなんだよ。僕はあれで、毎日脳を鍛えてるんだ。おかげで僕の脳は1.5倍くらい膨らんだ気がする。あ、安心して。カワイさは変わってないからね。むしろ、最近、近所のオバちゃんに利発そうで賢そうな顔をしているっていう目つきで見られるようになったんだ。フフフ……。
 僕がそんな物思いにふけっている間に、角刈になっていた。イヤーーーーッ! ついに僕にっ! 僕にぃ……角刈の魔の手が! どうしようっ……うっ……うっ……。
「あら、あなたも意外とお似合いよ」
 僕が涙にくれていると、聖が哀れんだ目つきで僕を慰めてくれた。何だか悔しい。聖は元々角刈だからいいよ。けど、僕は……頭がスースーするのだけは耐えられないんだっ!

 みんなジョギ先に一網打尽に頭を刈られた。そのおかげでか、なんか知らないけど、鼻三郎がやっと動き始めた。ノロマもいいとこだよ。ジョギ先なんて、またどっか走り去っていったのに……。
 鼻三郎がやっと走り出した、その時……。
「ギャーーーーッ! ダスーーーーッ!」
 ん? 何? 今の声……。すると鼻三郎は何故か落とし穴にスッポリとはまっていた。えーーーーっ!? 誰が作ったんだよーーーーっ! 確か、さっきまでそこにいたのは、黄色い人……? とにもかくにも、鼻三郎はどうしようもないノロマだ。
 仕方ないので、僕と基次と聖でひっぱり上げてやった。まったく……足手まといなんだから……。
 その時、鼻三郎の叫び声が聞こえたのか、慌てて駆け寄ってきたのは竹豊……。やっぱり優しい僕の竹と……よ……。あれ? おかしいな。人違いかな? なんか、見間違えだといいな。だって……僕の前に現れたのは……アフロの子だったから……。
「大丈夫か? 鼻三郎!?」
 やっぱり竹豊だよーーーーっ! この優しさ。このキュートな顔。そして、甘いボイス。全てが愛しの竹豊なのに……。なぜアフロ……。
 どうしてアフロなんだよーーーーっ! 神様のバカァーーーーッ!
「竹豊……。その頭、どうしたの?」
「うん。鼻三郎の叫び声が聞こえて、超ダッシュしたらさ、ボムゥッってなって。マジ、ビックリしたよー」
 って……。ビックリしたのはこっちだよ。そんなこと……あるの? でも、竹豊って……アフロになってもカワイイんだぁ……。そういうファンキーなとこも、また、いいかも……。ウフフ。

 僕たちはとりあえず一緒にゴールを目指した。竹豊はアフロが重いのか、あまり早く走れないようだった。足の速い竹豊と一緒にジョギングできるのはサイコーに嬉しいけどね。ここで、コイツらさえ、いなけりゃあなあ……。
「あれ? これ……何ダス?」
 僕のウキウキをさっそく壊すバカ3号の声。鼻三郎が手にしていたのは……。あんまり言いたくないなあ……。『ジョンソン・ゲルペッカー3月号』だった。おそらくどっかのバカの落し物だろう。
「なんか色々な呪文が書いてあるダス」
「本当だ。何なに? 『妖精界から脱出できる呪文』だって。ちょっと……これ、唱えてみてよ」
 基次が鼻三郎に促す。そんなことより、僕は僕と竹豊の髪が元に戻る呪文が知りたいよ。こんな状態……不健康だよ……。
「いくダスよー。ヌンゲル・モンゲル……サミダレ・チヨマーゲ・ロミオ・ヨッチャン……ポウッ……ダス……」
 何も起こらなかった。最後の「ダス」がいけなかったんじゃないかしら? それとも、まさか……あのバカ以外使えない……なんてこと、ある~?
 あ、でも、あり得るかも。っていうか、アイツ以外、こんなスットコドッコイなこと、出来てたまるかよっ!
 結局、何度唱えても、鼻三郎には何も起きなかった。やっぱり悔しいけど、あのバカを認めざるを得ない。それが無性に悔しいよ。
 とにかく、走り去っていった洋一郎之介を追わない限り、ここから出られないんじゃないか? 僕たちは不本意ながらも、洋一郎之介を追いかけた。
 目の前の竹豊のカリフラワーのようなアフロが気になってしかたない。走るたびにユサユサ揺れるんだ。
「このアフロ、走りにくいよなぁ……。もう少し、コンパクトならいいんだけど……」
 竹豊って本当に順応性のある子だよね。いつもあんなにオシャレに髪型キメてるのに……。ある意味、何でもいいんだ……。
「あれ? あんなトコに床屋があるよ!」
 ここは一体……? 何? なんでこんなトコに床屋があるんだよ……。でも、竹豊は嬉しそうに床屋に入っていった。
 待って……竹豊……。その時、後ろから感じる殺気。あの走る足音……。あれは……間違いない……。ジョギング先生だーーーーっ!!
「ヒヨコたち、待てーーーーい!」
 一周して、戻ってくるなんて、反則だよーーーーっ! これ以上、これ以上、刈り取るものは……何もないよーーーーっ!!
「ジョギンギング・パルプンテ!」
 え? 何? 新しい、必殺技……。あ……第1の犠牲者、鼻三郎が……あーーーーーっ!!

(後編へつづく)
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妖精大百科フェアリー・マンダーラ 23(アヴダビ)

2007-03-01 23:52:07 | 妖精大百科フェアリー・マンダーラ
23匹目「ガムの妖精 クッチャッペ」

 信じられないかもしれませんが、洋一郎之介はガムがとっても苦手です。
 彼は、ポテトチップスと一緒にガムを噛んだ時にそのままガムが口の中から消えうせてしまったミステリーに、未だにとらわれているのです。
 また、以前ペットショップで見かけた犬用ガムを普通のガムかと思って買い、噛み、オエ、となった経験もあるのです。
 とにかく、洋一郎之介の中では、ガムというわけの分からぬ物に対する不信感と畏怖心が募りまくっていたのです。
 そんなある日、どうしてもガムを噛まざるを得ない事態に陥ってしまったのです!
 彼の好きなヒーロー番組「メガネレジェンド・サイゴードン」のタイアップ商品として、フーセンガムが発売されたのです(確かメーカーはカバヤ)。さらに困った事に、フーセンガム膨らましコンテストが開催され、優勝者はメガネ少年団員役として番組に出演できるというのです!
「俺……今まで一度もフーセンガムを膨らませた事ないけど……やるしか、ないんだ!」
 その目は、もはやダメ中学生ではなく、恐竜のそれでした(ステゴサウルスぐらいに)。
 その日から洋一郎之介のガム噛み特訓が始まったのです。

「モグ、モグ、モグ、ペッ! だめだ~」
 しかし速攻で吐き出してしまった洋一郎之介。しかも、焦って紙に包まずに台所の流しに捨ててしまったのです。
 案の定、ベタ~とくっ付いてしまいました。
 その時、何者かの声が!
「オメエよ~、ガムは紙に包んで捨てなきゃダメだろ~がよ~」
「だ、誰だ!」
 振り向けば、問答無用に妖精が立っていました。小さく貧弱な体の上に、ぺらぺらの一枚の紙で出来た頭。その頭の、おでこの辺りにくっ付いた、何か、ベタッとした物……。こんな姿の生き物、妖精以外に考えられねえのです。
「なんだお前!」
「俺はよ~、クッチャッペってんだ~。オメエよ~、ガムをそのまま捨てたらベタベタになるだろ~がよ~」
 そう言うとクッチャッペは洋一郎之介にベタ~と抱きつきました。クッチャッペのおでこと洋一郎之介のおでこがベッタリとくっ付きました。彼のおでこは、噛んだ後のガムだったのです。
「ぎゃー! ベタベタして気持ち悪い!」
「そう邪険にするなよ~」
 洋一郎之介が無理に引き剥がそうとすると、クッチャッペのおでこがグニョ~ンと伸びるのでした。だってガムですから。
「もうやめて……俺、もう悪い事しないから……ガムは包んで捨てるから……」
 洋一郎之介は泣きながら訴えました。
「分かればい~んだ」
 するとクッチャッペの顔である銀紙が、クシャっと丸まりました。そうしてそのまま膝を抱えて、全身をくまなく包み込むと、最終的に小さな一つのゴミになってしまいました。
 洋一郎之介は大急ぎでそれを掴むと、窓の外へ向かって力いっぱい投げました。クッチャッペだった物は、空き地の向こうのカミナリ親父の家の方へ飛んでいきました。
「クッチャッペといったな……強敵だった。この世にはまだまだ俺の知らない強い奴が隠れているらしい。んん~、負けんたい!」
 洋一郎之介はサイゴードンの決めゼリフを元気に叫ぶと、ガムのオマケのメガネシールを冷蔵庫に貼るのでした。
コメント (6)
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