2019年に金融庁が公表した「高齢社会における資産形成・管理」という報告書から、老後2,000万円問題が取り上げられるようになりました。
当時は大きな話題を呼んでいましたが、その後新型コロナの感染拡大によって人々の収入・支出に様々な変化をもたらした結果、老後2,000万円問題にも影響がみられたと考えられています。
今回は、そんな老後2,000万円問題とコロナ禍を経てどのような変化が見られたのか、結局老後にはいくら必要になるのかなどを解説します。
■老後2,000万円問題の概要
そもそも老後2,000万円問題がどのような問題なのかを理解しておく必要があります。
老後2,000万円問題とは、2019年に金融庁が公表した報告書において、夫65歳以上・妻60歳以上の高齢夫婦かつ無職世帯をモデルとした際に、毎月約5.5万円の赤字が発生するという試算が行われた結果、30年間で約2,000万円の生活費が不足するというものです。
2,000万円が不足するというインパクトの大きさから、当時は各メディアで大きく報道されていました。
試算されたモデルケースは、老後20~30年における生活費をシミュレーションしています。
収入と支出の内訳は以下のとおりです。
【収入】
公的年金:191,880円
勤め先の収入:4,232円
事業収入:4,045円
その他収入:9,041円
合計:209,198円
【支出】
食費:64,444円
家賃:13,656円
水道光熱費:19,267円
家具・家事用品費:9,405円
被服費:6,497円
保険医療費:15,512円
交通・通信費:27,576円
教育費:15円
教養娯楽費:25,077円
社会保険など:28,240円
合計:263,718円
毎月の収入と比べて約5.5万円が不足するとなると、貯金から切り崩して赤字を補填していかなければなりません。
その結果、2,000万円を貯金しておかないと老後の生活が破綻する恐れがあると試算したのです。
ただし、上記はあくまでもモデルケースを試算したものであり、実際はその世帯ごとに異なります。
例えば子どもからの仕送りによって収入が5万円多かったり、食費は高齢夫婦2人でそれほど量を食べないことから3万円まで抑えられたりもするでしょう。
このように、世帯ごとで必要となる老後資金は異なることを理解しておく必要があります。
■老後2,000万円問題がコロナ禍を経て変わった?
2019年に話題を集めた老後2,000万円問題ですが、その後新型コロナウイルスが世界中に感染拡大し、経済活動がストップするなど様々な影響を及ぼしてしまいました。
この影響は生活だけでなく、老後2,000万円問題にも大きな影響を与えています。
これまでは毎年旅行に出かけていた家庭も、コロナ禍になると遠出をするのが難しくなり、お金を使う機会も減ったため貯金が増えたところもあるでしょう。
貯金が増えればその分老後資金としても活用できるため、老後2,000万円問題をクリアした人もいるかもしれません。
また、新型コロナ禍によって本業の仕事がほとんどなくなってしまったため、副業を始めた人の中には現在本業よりも稼げるようになり、貯金が増えたという人もいるでしょう。
このように、新型コロナ禍の影響で家計収支が大きく変化した結果、老後資金を一気に増やせた人も多いです。
■結局老後はいくら必要になる?
新型コロナウイルスの影響を受け、2,000万円まで貯めなくても良くなったというケースもあるでしょう。
しかし、あくまで2,000万円まで貯める必要がなくなったとしても、老後に向けてある程度の資金を確保しておくことも重要です。
では、結局老後はどれくらいの資金が必要となってくるのでしょうか?
ここでは2024年時点における老後資金のシミュレーションを行ってみましょう。
総務省から発表された令和5年家計調査年報(家計収支編)では、2人以上の世帯(世帯主の平均年齢60.2歳)における家計消費は、1世帯あたり1ヶ月平均293,997円という結果でした。
2022年からコロナ禍以前の水準に戻っていますが、それ以上に生活費が増えている状況です。
これは物価が高騰していることが影響していると考えられます。
65歳以上の夫婦のみの無職世帯の場合、収入は244,580円で、可処分所得は213,042円となります。
消費支出は250,959円となり、可処分所得から差し引くと以下の金額になります。
213,042円-250,959円=-37,917円
約3.8万円が毎月不足する計算となるため、これが30年間続いた場合、1,368万円分が赤字となるため貯蓄から切り崩す必要が出てきます。
こちらもあくまでも目安となりますが、老後2,000万円問題から新型コロナ禍を経て約700万円分の余裕が生まれていることになります。
■老後資金のために今から始められること
現状におけるシミュレーションでは、2,000万円まで貯めなくても良いことが分かりました。
しかし、結局約1,300万円は赤字となるため、老後で収入がなくなる前に資産を増やしておく必要があります。
また、世帯によっては1,300万円も必要ないケースもありますが、将来どのような事態が起きるか予測できないため、安心のために資産を増やしておくことも大切です。
そこで、ここからは老後資金のために今から始められることをご紹介します。
・家計を見直してムダな支出を抑える
老後資金のためにすぐにでも始められることは、家計の見直しです。
収入や貯蓄が支出を上回っていれば、生活レベルを落とさずに生活することも可能です。
65歳以上でも働くことは可能ですが、現役時代と比べて働く時間やできることも減ってしまうため、収入が下がってしまうことも少なくありません。
このような場合、しっかりと給料をもらっていた頃の生活レベルからいきなり変更するのは非常に難しいです。
今のうちから家計を見直しておき、ムダな支出を抑えるように心掛けておけば、老後も生活レベルを落とさなくても十分に暮らしていけるでしょう。
また、ムダな支出を抑えればその分貯金も増やすことができ、老後資金の増加につながります。
・NISAやiDeCoを始める
NISAは金融庁が推奨する投資信託です。
本来株式などで利益を得ると、その金額の20%分を税金として納める必要が出てきます。
しかし、NISAを利用すれば毎年一定金額の範囲内なら非課税になるため、節税にもつながります。
なお、NISAは18歳以上から利用することができ、非課税期間も無期限になります。
そのため、始めるのが早ければ早いほど資産形成もしやすくなりますが、逆に40代・50代からでも始めることは可能です。
例えば50代からNISAで積立をスタートさせたとしても、20年間毎月3万円を積み立て、想定利回り3%で運用した場合、元本と運用収益を合計して985万円になります。
70歳までに運用で約1,000万円も貯められれば、年金と合わせて十分に生活もしていけるでしょう。
また、これは想定利回りを3%に設定したシミュレーション結果となりますが、4%で運用すれば約1,100万円になりますし、積立金額を毎月5万円にして3%で運用した場合は約1,642万円になります。
あくまでもシミュレーションであり、投資信託になるため元本が減ってしまうリスクもありますが、将来のための資産を貯めるならNISAがおすすめです。
他にもiDeCoを始めるのもおすすめです。
iDeCo(確定拠出年金)は、自分で公的年金・国民年金に上乗せできる年金を作るための制度です。
自分で金融商品を選んで運用し、積み立てた資産を60歳以降に一括または分割で受け取れるようになります。
原則60歳まで積み立ててきた資産の引き出しはできないものの、掛金全額が所得控除されるため節税対策ができたり、運用中に得た利益もすべて非課税になったりするなど、税制優遇も受けられます。
普通に貯金をしておくよりも、iDeCoで貯めた方がお得になる可能性が高いです。
今回は老後2,000万円問題がコロナ禍を経たことでどのように変化したのか、現在どれくらいの老後資金が必要と言われているのかをご紹介してきました。
老後2,000万円問題はあくまでもモデルケースを使った試算であり、それぞれの世帯によって必要となる老後資金は変わってきます。
実際に自身の老後に必要な資金を計算してみて、どれくらいの資金を貯めた方が良いのかチェックしておくと良いでしょう。