知名孝ブログ

日々の経験・思ったこと・考えたこと。精神保健福祉、発達障害、(児童思春期の)メンタルヘルスや自転車、ギターのこと。

精神医療の脱施設化は外来解体から

2013-08-30 18:13:26 | 日記
先週末、看護の学会にシンポジストとして参加させてもらいました。地域における看護実践の展開がテーマになっていましたが、現場の看護師からはこれからどのような実践をしていくのかということよりも、今の職場がなくなるのではないかという危機感のほうが聞かれました。

そもそも日本の精神医療の脱施設化は、アメリカの精神科病院で勤務経験のある私からすると、順序が逆のような気がするのです。昨今ACT(Intensive Case Managementという言葉が使われたりしますが)が欧米諸国より輸入されて実践されたり、退院促進が個別支援化されたり、90年代からは精神科急性期病棟が診療報酬上差別化されたりとさまざまな取り組みがされてきています。これらはすべて、入院している患者・当事者をどのように地域移行するかというパラダイムですすめられている政策であり、プログラムです。しかし海外の実践や制度を見てみると、入院システム改革の前に、外来医療の変革が目につきます。

以下に記しているアメリカ(といってもサンフランシスコでの勤務経験しかないのですが)の精神科医療・保健福祉の特徴です…
1)精神科入院医療機関が外来や訪問看護、デイケア、その他のサービスを行わないし、外来をやっているところでも限られたケース数である。サンフランシスコ市(郡・county)には4ヶ所ほどの精神科病床をかかえる病院があり、そのなかでもSan Francisco General Hospital(サンフランシスコ総合病院)が救急・急性期含めた中核の入院施設です。日本の精神科病院のように、入院患者が退院後その病院での外来通院を続ける制度ではありません。もちろん、そこにはデイケアはありませんし、訪問その他の支援サービスもありません。日本のように入院と外来が密着した医療システムにはなっていないのです。
2)それじゃ退院後の地域生活を支えるための取り組み、外来医療はどこで? いわゆるデイケアなどの日中活動機関は、病院とはことなる経営主体により、市中のことなるロケーションで行われています。医療サービスではない、日本の地域活動支援センターのような感じで運営しています。さらに日本で言えば(精神)障害福祉サービスで、医療サービスが受けられる仕組みになっています。医師は週に1日~2日の非常勤勤務ですし、看護師は必要に応じて非常勤・常勤の勤務体制です。例えば、地域生活支援センターあるいは地域活動支援センター、通所型生活訓練事業所などで、精神科医師や看護師が非常勤勤務して必要な処方を行います。場所によっては少し不安定になっている人への応急処置(注射・点滴)、入院の必要性のアセスなどもするわけです。
3)日本の感覚では(精神)医療機関ではないところで必要な医療を提供することになるのです。でもそれって、生活現場・活動現場での医療の提供っていうことになるし、それがいわゆる「地域医療」っていうことになるのではなでしょうか?
4)同時にそれは地域で生活する精神障害者にとって、精神科病院の必要性・重要性を低下させるものです。脱施設化を本当に行うなら、精神科病院が重要な役割を果たさなくても、安心して地域で医療サービスを受ける仕組みが必要でしょうね。要は日本の精神医療の脱施設化・脱精神病院を阻害しているのは、入院長期化の問題もさることながら、精神科病院に過剰な外来機能や地域生活支援機能がぶら下がりすぎていることだろうと思うのです。脱精神科病院には、「精神科病院を骨抜きにする」ような制度の見直しが必要だと思うのです。それにより、病院で勤務していた医療スタッフが地域で仕事(=転職)しなければならなくなる。実は実践としてはその方が楽しいと思うのですが…。
5)でもそれを急激にやるとたいへんなことになる。少なくともソフトランディングを意図している厚生労働省にとっては、難しい話なんだろうと思います。現在の地域支援サービスに医療加算をつけるとか、いくつかモデル事業をやってみるとか、試行してもいいのではないでしょうか。
6)特に、精神科外来の診療報酬扱いになっている精神科デイ(ナイト)は精神科病院の経営にとっては不可欠のドル箱になっているはずです。デイナイトで一人1万円超え、デイだけでも約6000円~7000円の報酬がある。仮にデイケア50名程度通所だとしても、1日で30万円、1週間5日稼働で150万円、1月(4週)で600万円の収入。1年だと7,000万円はくだりません。とても少なく見積もってもそれくらいの予算が投じられているということです。しかし、地域の居場所づくりを担っている地域活動支援センターⅢ型の1年の委託料は500~700万円ってとこじゃないですか?医療サービスとしてのデイケアとほぼ内容は変わらないのに、1年の委託料が医療デイケアの1週間の収入っていうやつです。地域活動支援センターⅢ型に医療加算つけて、非常勤の精神科医・看護師スタッフをつけて、精神科病院に行かなくてもおおよそ必要な医療サービスが提供できるシステムをモデル事業として試行してみるっていうのはどうなんしょうか? 


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