自治体システム標準化に関する動き
従来の自治体基幹業務システムは個別開発要素が強く(各メーカのパッケージはあるが、カスタマイズを前提とすることが多い)、自治体事情に合わせて、特色を出しやすい反面、コストは高いという課題があった。
これを共通化可能な部分は「標準準拠システム」と呼ばれるものを利用することで、コスト(初期・運用)の削減を図るという構想が自治体システム標準化の狙いである。
「標準準拠システム」は「ガバメントクラウド」の上に構築されるので、自治体システム標準化=自治体システムのガバメントクラウドへの移行も意味する。
------------------------
自治体システム標準化とは
------------------------
自治体の基幹業務システム(20種)の2025(R7)年度までにガバメントクラウド上に構築された「標準準拠システム」に移行すること。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
背景 =自治体システム標準化法(地方公共団体情報システムの標準化に
関する法律)に基づき実施される
方針 =自治体基幹系20業務システムをガバメントクラウド上に構築した
標準準拠システムに移行
目標時期=令和7年度(2025年度)まで
各自治体=努力目標として、これに取り組む
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
デジタル庁「地方公共団体情報システム標準化基本方針の概要」
https://www.digital.go.jp/policies/local_governments/
図1 地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化

ここでは、共通事項の整備として、標準化で何を整備するかがあげられている。
①データ要件・連携要件の標準
基幹業務システムのデータ要件・連携要件の標準を作成する
②非機能要件の標準
基幹業務システムに共通する非機能要件の標準(標準非機能要件)を作成
③ガバメントクラウドの活用
地方公共団体がガバメントクラウドを活用できるよう検討
④共通機能の標準
基幹業務システムの共通機能の標準を作成
地方公共団体情報システム標準化基本方針の概要
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/c58162cb-92e5-4a43-9ad5-095b7c45100c/dac15f8f/20221007_policies_local_governments_outline_01.pdf
図2 地方公共団体情報システム標準化基本方針の概要

ここでは以下のようなことが記載されている
○「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」第5条に基づき、
標準化推進に関する基本的事項について、
地方公共団体情報システム標準化基本方針を定める
○統一・標準化の意義及び目標
移行期間:「2025年度までに
ガバメントクラウドを活用した標準準拠システム
への移行を目指す」
情報システム運用経費:
2018年度比で少なくとも3割削減を目指す
地方公共団体におけるデジタル基盤の整備
競争環境の確保
システムの所有から利用へ
迅速で柔軟なシステムの構築
○タイムスケジュール
2021~2022年度
先行事業(※1)
標準準拠していないシステムをガバメントクラウドへ移行
狙い
① 後続自治体へ指針作成(クラウド環境上での運用の)
② 検証結果からの課題の整理
2023~2025年度
移行支援期間(※2)
ガバメントクラウドを活用した標準準拠システムへの移行
※1:先行事業として8団体(11自治体)が採択。事例が以下に紹介されている
●両備システムズ、千葉県佐倉市にてガバメントクラウド上で
「健康かるてV7」を初稼働
https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/1483966.html
図3 両備システムズ、千葉県佐倉市事例

●千葉県佐倉市の「基幹業務システム」をガバメントクラウド上で稼働
ADWORLDを中心とした27の基幹業務システムをガバメントクラウドに移行、
2023年1月から運用を開始
https://www.hitachi-systems.com/news/2023/20230307.html
図4 HISYS佐倉市事例

※2:移行支援期間の「移行」需要を狙って、先行事業に関与した会社は
移行支援サービスの立ち上げを行っている。
●日立システムズ、自治体のガバメントクラウドへの円滑な
移行・運用を支援する新サービスを発表
https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/1452331.html
図5 HISYS 移行・運用を支援する新サービスを発表

-----------------------------
対象の20業務システムとは?
-----------------------------
対象となる基幹系20業務システムは以下のとおり。
●総務省管轄
1.住民記録システム
2.印鑑登録システム
3.戸籍附票システム
4.選挙人名簿管理システム
5.税務システム(固定資産税)
6.税務システム(個人住民税)
7.税務システム(法人住民税)
8.税務システム(軽自動車税)
●法務省管轄
9.戸籍システム
●文部省管轄
10.就学システム
●厚生労働省管轄
11.国民健康保険システム
12・国民年金システム
13.障害者福祉システム
14.後期高齢者医療システム
15.介護保険システム
16.生活保護システム
17.健康管理システム
18.児童扶養手当システム
●内閣府管轄
19.児童手当システム
20.子ども・子育て支援システム
--------------------------------------------------
ガバメントクラウド先行事業(基幹業務システム)とは
--------------------------------------------------
2021~2022年度に実施されている、検証を目的とした先行試行作業。
対象の団体
8団体(11自治体)が採択。
①兵庫県神戸市 日立+日本電気
②岡山県倉敷市(香川県高松市、愛媛県松山市と共同) 富士通+アイネス
③岩手県盛岡市 ICS
④千葉県佐倉市 HISYS+両備
⑤愛媛県宇和島市 RKKCS
⑥長野県須坂市 電算
⑦埼玉県美里町(川島町と共同) TKC
⑧京都府笠置町 KIP(京都電子計算)
先行事業の狙い
① 後続自治体へ指針作成(クラウド環境上での運用の)
② 検証結果からの課題の整理
以下ににて先行作業の内容と結果報告が公表されている
デジタル庁
「ガバメントクラウド先行事業
(市町村の基幹業務システム等)の中間報告を掲載しました」
https://www.digital.go.jp/news/ZYzU5DYY/
図6 先行事業の中間報告に関する資料群

上記では「中間報告」として以下の項目の資料が公開されている
1.先行事業検証の中間公表について
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/8c953d48-271d-467e-8e4c-f7baa8ec018b/3d6bb5b2/20221226_policies_gov_cloud_outline_01.pdf
図7 先行事業での検証事項

先行事業の主たる検証事項として以下をあげている
1.非機能要件の標準の検証
①先行事業でガバメントクラウド上に構築したシステムが、
非機能要件標準を満たすかの検証
2.標準準拠システムへの移行方法の検証
①ガバメントクラウドにリフトしたシステムと
リフトしないシステムとの連携検証
②コストとリスクの観点で比較検証
A. ガバメントクラウドにリフト後に
標準準拠システムへシフトする方法
B. リフト・シフト同時実施する方法
3.移行/非移行での投資対効果検証
①以下の2パターンの比較
A. 現システムを同規模で入替・継続利用
B. 現システムをガバメントクラウドへリフト
4.推奨構成の検討
①ガバメントクラウド上での推奨構成
各検証項目は以下に詳細資料がおかれている。
1.非機能要件の標準の検証
→各自治体・ベンダ単位で非機能要件に関する採択と見解を記載した
一覧表がある
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/8c953d48-271d-467e-8e4c-f7baa8ec018b/2bb29f69/20220914_news_local_governments_outline_02.zip
2.標準準拠システムへの移行方法の検証
→資料なし
3.移行/非移行での投資対効果検証
→「ガバメントクラウド先行事業(基幹業務システム)における
投資対効果の机上検証について」
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/8c953d48-271d-467e-8e4c-f7baa8ec018b/4912aad2/20220914_news_local_governments_outline_03.pdf
4.推奨構成の検討
→ガバメントクラウド(実態はAWS)の機能に対する各自治体の採否が
一覧表になっている
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/8c953d48-271d-467e-8e4c-f7baa8ec018b/a8eea79e/20220914_news_local_governments_table_04.pdf
→構成概要図と推奨構成資料はセキュリティ観点から一般公開されて
いない(自治体限定で配布)
--------------------------------------------------
先行事業の結果、移行は費用対効果があったのか?
--------------------------------------------------
結論を先に書くと、ぜんぜん費用対効果が出ていないように見える結果となっている。
以下、詳細。
これについては前述の
3.移行/非移行での投資対効果検証
→「ガバメントクラウド先行事業(基幹業務システム)における
投資対効果の机上検証について」
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/8c953d48-271d-467e-8e4c-f7baa8ec018b/4912aad2/20220914_news_local_governments_outline_03.pdf
に詳しく記載されている。
(1)クラウド化 vs 現行維持の比較
これが一番興味深いところであろう。 結論から言うと、「あまりTCO的な費用対効果はない」というか「下手をすれば上がる」ということが見えてくる。
その理由はいくつかあるが、
初期費用に関しては
新しい基盤、新しい仕組みに合わせた再設計が必要なため、
下手をすると大幅にコスト増加する
運用費用については
保守費用などがクラウド化でなくなる(サービスに込込みになる)ために
下がる要素はあるが、オンプレミス~クラウド間の回線費用が増加する
ため、かえって上昇する要素もある
といった点が各自治体で共通して言えることのようである。
具体的に内容を見て見よう。
資料に現システム相当で更改した場合(オンプレ続投)とクラウドリフトの場合のコスト試算を初期費・運用費で比較した表がある。
図8 現行と比較したときのイニシャル・ランニング・トータルのコスト(数値)

これを100万円単位で増減を纏めると以下のようになる。
| |現行相当で更改|クラウドリフト| 変動
ーーーー+ーーーー+ーーーーーーー+ーーーーーーー+ーーーー
神戸市 |初期費用| 224M円 | 334M円 |↑49%
|運用費用| 917M円 | 871M円 |↓ 5%
|合計費用|1140M円 |1206M円 |↑ 6%
ーーーー+ーーーー+ーーーーーーー+ーーーーーーー+ーーーー
せとうち|初期費用| 110M円 | 128M円 |↑16%
3市 |運用費用| 433M円 | 524M円 |↑21%
|合計費用| 543M円 | 652M円 |↑20%
ーーーー+ーーーー+ーーーーーーー+ーーーーーーー+ーーーー
盛岡市 |初期費用| 14M円 | 10M円 |↓29%
|運用費用|1006M円 | 925M円 |↓ 8%
|合計費用|1019M円 | 936M円 |↓ 8%
ーーーー+ーーーー+ーーーーーーー+ーーーーーーー+ーーーー
佐倉市 |初期費用| 79M円 | 155M円 |↑96% !
|運用費用|1037M円 |1009M円 |↑ 2%
|合計費用|1117M円 |1164M円 |↑ 4%
ーーーー+ーーーー+ーーーーーーー+ーーーーーーー+ーーーー
宇和島市|初期費用| 0M円 | 60M円 |↑ ∞%
|運用費用| 385M円 | 382M円 |↓ 1%
|合計費用| 385M円 | 441M円 |↑15%
ーーーー+ーーーー+ーーーーーーー+ーーーーーーー+ーーーー
須坂市 |初期費用| 22M円 | 23M円 |↑ 5%
|運用費用| 455M円 | 454M円 |↓ 1%
|合計費用| 477M円 | 476M円 |↓ 1%
ーーーー+ーーーー+ーーーーーーー+ーーーーーーー+ーーーー
美里町 |初期費用| 4M円 | 70M円 |↑1700% !
川島町 |運用費用| 216M円 | 417M円 |↓93%
|合計費用| 220M円 | 486M円 |↑ 221% !
ーーーー+ーーーー+ーーーーーーー+ーーーーーーー+ーーーー
笠置町 |初期費用| 3M円 | 18M円 |↑ 600% !
|運用費用| 19M円 | 137M円 |↑ 720% !
|合計費用| 22M円 | 156M円 |↑ 742% !
ーーーー+ーーーー+ーーーーーーー+ーーーーーーー+ーーーー
表を見て気がつく点
①クラウドリフトが思いのほか安くない
(少なくともデジ庁の言う3割カットには程遠い)
オンプレよりそれほど高くない場合もある程度だ…
②やたらとコストが上がっている組織もある
③現行継承更改の場合の初期費が妙に少ない
まず、③からその仕組みを説明する。
自治体の場合ハードは初期費ではない
売切型→クラウド化の場合、機器費用が初期費から運用費に費目変更に
なるため、大幅に運用費が増える。 と思われがちだが、
自治体システムの場合、ハードはリース調達となるため、売切型でも運
用費に計上される。
→つまり、初めから費目的にはクラウドと同じなのである。
そういう意味では
現行継承、クラウドリフトの比較は
イコールコンディションで比較できている
つまり
今回の比較は
自組織占有基盤をオンプレに賃貸で持つ場合(純プライベートクラウド)
共同利用基盤(コミュニティクラウド)を利用する場合
と
ガバメントクラウド基盤上にシステムを置きオンプレ連携
(占有型パブクラ+オンプレのハイブリッド)
の比較であるとみなせる。
次に ②やたらとコストが上がっている組織(美里&川島町、笠置町)を読み解く。
両者に限らず、全自治体で
新規環境への移行のための設計・構築一時経費が増加
と指摘されているが、美里&川島町、笠置町で大幅増になった他の原因は
何なのだろう?
まず、美里&川島町
図9 美里町・川島町 経費比較評価・考察 抜粋1

図10 美里町・川島町 経費比較評価・考察 抜粋2

検証事業参加目的として
5万人未満、自治体クラウド(ハード・アプリ共同)という
多くの自治体が当てはまるマジョリティケースの検証として採択された
ようだが、結果的にはコストメリットが出ないという結果になっている。
コストアップの理由は、①②があげられている。
イニシャル・ランニング共に削減対象項目が少ないのは、
既に自治体クラウドとして複数団体で共同利用しているため
①イニシャルコスト
新規構築に関わる各種設計、構築費用を計上
AWSとデータセンタ間で新たなデータ連携が発生→連携機能構築費発生
②ランニングコスト
2町及びベンダーアクセスルーム~ガバメントクラウド間回線費
が追加
自治体クラウド利用団体にはコストメリットが出ない結論の裏側を推測
以下は推測だが
自治体クラウドのスペック
→自治体クラウド(中小市町村向けのコミュニティクラウド)から(政
府システムレベルの)ガバメントクラウドへ移行で、基盤がかなり、
オーバスペックになったと推察。
自治体クラウドの立地
→自治体クラウドは近隣にあった(大抵は近場大規模自治体と相乗り)
にたいし
ガバメントクラウドのリージョン(全国にない)まで遠距離専用線を
引く必要が生じ、高くついたと推察。
これは、ガバメントクラウドがそもそも自治体クラウド(共同利用センタ)を使うレベルの自治体にとって高嶺の花であることを示している。
当たり前な気がするが…
政府の行政システムを載せるに耐える信頼性・堅牢性を持つ基盤
それを支える多くの機能を提供できる基盤
それを支える、大規模なハード・ソフト・設備
これらは、自治体が求めるものをはるかに超えてしまうだろう。
次に、笠置町の例
図11 笠置町 経費比較評価・考察 抜粋1

図12 笠置町 経費比較評価・考察 抜粋2

検証事業参加目的として
「安価に接続できる回線」のあり方の検証。があったようだが、
結果的には、その「回線」がコストを大幅に押し上げた結果となった。
コストアップの理由は以下、①②があげられている。
①イニシャルコスト
現行システム継続の場合、共同利用のため大きくないが
ガバメントクラウドへは新規環境構築となり大幅増。
②ランニングコスト
・現行は共同利用のためシステム運用作業費用が抑えられている
ガバメントクラウドへリフトすることで大幅増加
・役所&ベンダーアクセスルーム~ガバメントクラウドを結ぶ回線
費を新規追加
現行システムは既存の共同回線を利用しているため計上無し
自治体クラウド利用団体にはコストメリットが出ない結論の別の裏側を推測
美里町でも同様に指摘されていたが、
クラウド化は今まで「只だったLAN」に金がかかるにが特色である。
ここを見誤ると、通信費が爆発して足が出ることになる。
これはまさにその王道というか、定石パターンと言える。
また、注意すべきは、現システムの立地とガバメントクラウドの立地の差で
あろう。
回線を引くにせよ、同一県内であれば、広域イーサネットも安価だが
県を越えると大幅に(10倍位)高くなる…
普通県内にある自治体クラウドに対し、AWSのリージョン(東京圏、大阪圏
しかない)まで回線を延ばすとなれば、高額になるのは当然だ。
これらの結果を見ると、ガバメントクラウドを自治体の為の基盤として使うには
以下の問題があるということが見えるような気がする。
①政府レベルの機能・性能・信頼性を満たす基盤は
自治体にはオーバスペック。
よりチープで共同利用型の基盤も必要
②霞ヶ関から回線を引けばいい政府システムと違い、
自治体は全国に散在する。
自治体と同じ県内にガバメントクラウド拠点が必要。
従来の自治体基幹業務システムは個別開発要素が強く(各メーカのパッケージはあるが、カスタマイズを前提とすることが多い)、自治体事情に合わせて、特色を出しやすい反面、コストは高いという課題があった。
これを共通化可能な部分は「標準準拠システム」と呼ばれるものを利用することで、コスト(初期・運用)の削減を図るという構想が自治体システム標準化の狙いである。
「標準準拠システム」は「ガバメントクラウド」の上に構築されるので、自治体システム標準化=自治体システムのガバメントクラウドへの移行も意味する。
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自治体システム標準化とは
------------------------
自治体の基幹業務システム(20種)の2025(R7)年度までにガバメントクラウド上に構築された「標準準拠システム」に移行すること。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
背景 =自治体システム標準化法(地方公共団体情報システムの標準化に
関する法律)に基づき実施される
方針 =自治体基幹系20業務システムをガバメントクラウド上に構築した
標準準拠システムに移行
目標時期=令和7年度(2025年度)まで
各自治体=努力目標として、これに取り組む
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
デジタル庁「地方公共団体情報システム標準化基本方針の概要」
https://www.digital.go.jp/policies/local_governments/
図1 地方公共団体の基幹業務システムの統一・標準化

ここでは、共通事項の整備として、標準化で何を整備するかがあげられている。
①データ要件・連携要件の標準
基幹業務システムのデータ要件・連携要件の標準を作成する
②非機能要件の標準
基幹業務システムに共通する非機能要件の標準(標準非機能要件)を作成
③ガバメントクラウドの活用
地方公共団体がガバメントクラウドを活用できるよう検討
④共通機能の標準
基幹業務システムの共通機能の標準を作成
地方公共団体情報システム標準化基本方針の概要
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/c58162cb-92e5-4a43-9ad5-095b7c45100c/dac15f8f/20221007_policies_local_governments_outline_01.pdf
図2 地方公共団体情報システム標準化基本方針の概要

ここでは以下のようなことが記載されている
○「地方公共団体情報システムの標準化に関する法律」第5条に基づき、
標準化推進に関する基本的事項について、
地方公共団体情報システム標準化基本方針を定める
○統一・標準化の意義及び目標
移行期間:「2025年度までに
ガバメントクラウドを活用した標準準拠システム
への移行を目指す」
情報システム運用経費:
2018年度比で少なくとも3割削減を目指す
地方公共団体におけるデジタル基盤の整備
競争環境の確保
システムの所有から利用へ
迅速で柔軟なシステムの構築
○タイムスケジュール
2021~2022年度
先行事業(※1)
標準準拠していないシステムをガバメントクラウドへ移行
狙い
① 後続自治体へ指針作成(クラウド環境上での運用の)
② 検証結果からの課題の整理
2023~2025年度
移行支援期間(※2)
ガバメントクラウドを活用した標準準拠システムへの移行
※1:先行事業として8団体(11自治体)が採択。事例が以下に紹介されている
●両備システムズ、千葉県佐倉市にてガバメントクラウド上で
「健康かるてV7」を初稼働
https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/1483966.html
図3 両備システムズ、千葉県佐倉市事例

●千葉県佐倉市の「基幹業務システム」をガバメントクラウド上で稼働
ADWORLDを中心とした27の基幹業務システムをガバメントクラウドに移行、
2023年1月から運用を開始
https://www.hitachi-systems.com/news/2023/20230307.html
図4 HISYS佐倉市事例

※2:移行支援期間の「移行」需要を狙って、先行事業に関与した会社は
移行支援サービスの立ち上げを行っている。
●日立システムズ、自治体のガバメントクラウドへの円滑な
移行・運用を支援する新サービスを発表
https://cloud.watch.impress.co.jp/docs/news/1452331.html
図5 HISYS 移行・運用を支援する新サービスを発表

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対象の20業務システムとは?
-----------------------------
対象となる基幹系20業務システムは以下のとおり。
●総務省管轄
1.住民記録システム
2.印鑑登録システム
3.戸籍附票システム
4.選挙人名簿管理システム
5.税務システム(固定資産税)
6.税務システム(個人住民税)
7.税務システム(法人住民税)
8.税務システム(軽自動車税)
●法務省管轄
9.戸籍システム
●文部省管轄
10.就学システム
●厚生労働省管轄
11.国民健康保険システム
12・国民年金システム
13.障害者福祉システム
14.後期高齢者医療システム
15.介護保険システム
16.生活保護システム
17.健康管理システム
18.児童扶養手当システム
●内閣府管轄
19.児童手当システム
20.子ども・子育て支援システム
--------------------------------------------------
ガバメントクラウド先行事業(基幹業務システム)とは
--------------------------------------------------
2021~2022年度に実施されている、検証を目的とした先行試行作業。
対象の団体
8団体(11自治体)が採択。
①兵庫県神戸市 日立+日本電気
②岡山県倉敷市(香川県高松市、愛媛県松山市と共同) 富士通+アイネス
③岩手県盛岡市 ICS
④千葉県佐倉市 HISYS+両備
⑤愛媛県宇和島市 RKKCS
⑥長野県須坂市 電算
⑦埼玉県美里町(川島町と共同) TKC
⑧京都府笠置町 KIP(京都電子計算)
先行事業の狙い
① 後続自治体へ指針作成(クラウド環境上での運用の)
② 検証結果からの課題の整理
以下ににて先行作業の内容と結果報告が公表されている
デジタル庁
「ガバメントクラウド先行事業
(市町村の基幹業務システム等)の中間報告を掲載しました」
https://www.digital.go.jp/news/ZYzU5DYY/
図6 先行事業の中間報告に関する資料群

上記では「中間報告」として以下の項目の資料が公開されている
1.先行事業検証の中間公表について
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/8c953d48-271d-467e-8e4c-f7baa8ec018b/3d6bb5b2/20221226_policies_gov_cloud_outline_01.pdf
図7 先行事業での検証事項

先行事業の主たる検証事項として以下をあげている
1.非機能要件の標準の検証
①先行事業でガバメントクラウド上に構築したシステムが、
非機能要件標準を満たすかの検証
2.標準準拠システムへの移行方法の検証
①ガバメントクラウドにリフトしたシステムと
リフトしないシステムとの連携検証
②コストとリスクの観点で比較検証
A. ガバメントクラウドにリフト後に
標準準拠システムへシフトする方法
B. リフト・シフト同時実施する方法
3.移行/非移行での投資対効果検証
①以下の2パターンの比較
A. 現システムを同規模で入替・継続利用
B. 現システムをガバメントクラウドへリフト
4.推奨構成の検討
①ガバメントクラウド上での推奨構成
各検証項目は以下に詳細資料がおかれている。
1.非機能要件の標準の検証
→各自治体・ベンダ単位で非機能要件に関する採択と見解を記載した
一覧表がある
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/8c953d48-271d-467e-8e4c-f7baa8ec018b/2bb29f69/20220914_news_local_governments_outline_02.zip
2.標準準拠システムへの移行方法の検証
→資料なし
3.移行/非移行での投資対効果検証
→「ガバメントクラウド先行事業(基幹業務システム)における
投資対効果の机上検証について」
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/8c953d48-271d-467e-8e4c-f7baa8ec018b/4912aad2/20220914_news_local_governments_outline_03.pdf
4.推奨構成の検討
→ガバメントクラウド(実態はAWS)の機能に対する各自治体の採否が
一覧表になっている
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/8c953d48-271d-467e-8e4c-f7baa8ec018b/a8eea79e/20220914_news_local_governments_table_04.pdf
→構成概要図と推奨構成資料はセキュリティ観点から一般公開されて
いない(自治体限定で配布)
--------------------------------------------------
先行事業の結果、移行は費用対効果があったのか?
--------------------------------------------------
結論を先に書くと、ぜんぜん費用対効果が出ていないように見える結果となっている。
以下、詳細。
これについては前述の
3.移行/非移行での投資対効果検証
→「ガバメントクラウド先行事業(基幹業務システム)における
投資対効果の机上検証について」
https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/information/field_ref_resources/8c953d48-271d-467e-8e4c-f7baa8ec018b/4912aad2/20220914_news_local_governments_outline_03.pdf
に詳しく記載されている。
(1)クラウド化 vs 現行維持の比較
これが一番興味深いところであろう。 結論から言うと、「あまりTCO的な費用対効果はない」というか「下手をすれば上がる」ということが見えてくる。
その理由はいくつかあるが、
初期費用に関しては
新しい基盤、新しい仕組みに合わせた再設計が必要なため、
下手をすると大幅にコスト増加する
運用費用については
保守費用などがクラウド化でなくなる(サービスに込込みになる)ために
下がる要素はあるが、オンプレミス~クラウド間の回線費用が増加する
ため、かえって上昇する要素もある
といった点が各自治体で共通して言えることのようである。
具体的に内容を見て見よう。
資料に現システム相当で更改した場合(オンプレ続投)とクラウドリフトの場合のコスト試算を初期費・運用費で比較した表がある。
図8 現行と比較したときのイニシャル・ランニング・トータルのコスト(数値)

これを100万円単位で増減を纏めると以下のようになる。
| |現行相当で更改|クラウドリフト| 変動
ーーーー+ーーーー+ーーーーーーー+ーーーーーーー+ーーーー
神戸市 |初期費用| 224M円 | 334M円 |↑49%
|運用費用| 917M円 | 871M円 |↓ 5%
|合計費用|1140M円 |1206M円 |↑ 6%
ーーーー+ーーーー+ーーーーーーー+ーーーーーーー+ーーーー
せとうち|初期費用| 110M円 | 128M円 |↑16%
3市 |運用費用| 433M円 | 524M円 |↑21%
|合計費用| 543M円 | 652M円 |↑20%
ーーーー+ーーーー+ーーーーーーー+ーーーーーーー+ーーーー
盛岡市 |初期費用| 14M円 | 10M円 |↓29%
|運用費用|1006M円 | 925M円 |↓ 8%
|合計費用|1019M円 | 936M円 |↓ 8%
ーーーー+ーーーー+ーーーーーーー+ーーーーーーー+ーーーー
佐倉市 |初期費用| 79M円 | 155M円 |↑96% !
|運用費用|1037M円 |1009M円 |↑ 2%
|合計費用|1117M円 |1164M円 |↑ 4%
ーーーー+ーーーー+ーーーーーーー+ーーーーーーー+ーーーー
宇和島市|初期費用| 0M円 | 60M円 |↑ ∞%
|運用費用| 385M円 | 382M円 |↓ 1%
|合計費用| 385M円 | 441M円 |↑15%
ーーーー+ーーーー+ーーーーーーー+ーーーーーーー+ーーーー
須坂市 |初期費用| 22M円 | 23M円 |↑ 5%
|運用費用| 455M円 | 454M円 |↓ 1%
|合計費用| 477M円 | 476M円 |↓ 1%
ーーーー+ーーーー+ーーーーーーー+ーーーーーーー+ーーーー
美里町 |初期費用| 4M円 | 70M円 |↑1700% !
川島町 |運用費用| 216M円 | 417M円 |↓93%
|合計費用| 220M円 | 486M円 |↑ 221% !
ーーーー+ーーーー+ーーーーーーー+ーーーーーーー+ーーーー
笠置町 |初期費用| 3M円 | 18M円 |↑ 600% !
|運用費用| 19M円 | 137M円 |↑ 720% !
|合計費用| 22M円 | 156M円 |↑ 742% !
ーーーー+ーーーー+ーーーーーーー+ーーーーーーー+ーーーー
表を見て気がつく点
①クラウドリフトが思いのほか安くない
(少なくともデジ庁の言う3割カットには程遠い)
オンプレよりそれほど高くない場合もある程度だ…
②やたらとコストが上がっている組織もある
③現行継承更改の場合の初期費が妙に少ない
まず、③からその仕組みを説明する。
自治体の場合ハードは初期費ではない
売切型→クラウド化の場合、機器費用が初期費から運用費に費目変更に
なるため、大幅に運用費が増える。 と思われがちだが、
自治体システムの場合、ハードはリース調達となるため、売切型でも運
用費に計上される。
→つまり、初めから費目的にはクラウドと同じなのである。
そういう意味では
現行継承、クラウドリフトの比較は
イコールコンディションで比較できている
つまり
今回の比較は
自組織占有基盤をオンプレに賃貸で持つ場合(純プライベートクラウド)
共同利用基盤(コミュニティクラウド)を利用する場合
と
ガバメントクラウド基盤上にシステムを置きオンプレ連携
(占有型パブクラ+オンプレのハイブリッド)
の比較であるとみなせる。
次に ②やたらとコストが上がっている組織(美里&川島町、笠置町)を読み解く。
両者に限らず、全自治体で
新規環境への移行のための設計・構築一時経費が増加
と指摘されているが、美里&川島町、笠置町で大幅増になった他の原因は
何なのだろう?
まず、美里&川島町
図9 美里町・川島町 経費比較評価・考察 抜粋1

図10 美里町・川島町 経費比較評価・考察 抜粋2

検証事業参加目的として
5万人未満、自治体クラウド(ハード・アプリ共同)という
多くの自治体が当てはまるマジョリティケースの検証として採択された
ようだが、結果的にはコストメリットが出ないという結果になっている。
コストアップの理由は、①②があげられている。
イニシャル・ランニング共に削減対象項目が少ないのは、
既に自治体クラウドとして複数団体で共同利用しているため
①イニシャルコスト
新規構築に関わる各種設計、構築費用を計上
AWSとデータセンタ間で新たなデータ連携が発生→連携機能構築費発生
②ランニングコスト
2町及びベンダーアクセスルーム~ガバメントクラウド間回線費
が追加
自治体クラウド利用団体にはコストメリットが出ない結論の裏側を推測
以下は推測だが
自治体クラウドのスペック
→自治体クラウド(中小市町村向けのコミュニティクラウド)から(政
府システムレベルの)ガバメントクラウドへ移行で、基盤がかなり、
オーバスペックになったと推察。
自治体クラウドの立地
→自治体クラウドは近隣にあった(大抵は近場大規模自治体と相乗り)
にたいし
ガバメントクラウドのリージョン(全国にない)まで遠距離専用線を
引く必要が生じ、高くついたと推察。
これは、ガバメントクラウドがそもそも自治体クラウド(共同利用センタ)を使うレベルの自治体にとって高嶺の花であることを示している。
当たり前な気がするが…
政府の行政システムを載せるに耐える信頼性・堅牢性を持つ基盤
それを支える多くの機能を提供できる基盤
それを支える、大規模なハード・ソフト・設備
これらは、自治体が求めるものをはるかに超えてしまうだろう。
次に、笠置町の例
図11 笠置町 経費比較評価・考察 抜粋1

図12 笠置町 経費比較評価・考察 抜粋2

検証事業参加目的として
「安価に接続できる回線」のあり方の検証。があったようだが、
結果的には、その「回線」がコストを大幅に押し上げた結果となった。
コストアップの理由は以下、①②があげられている。
①イニシャルコスト
現行システム継続の場合、共同利用のため大きくないが
ガバメントクラウドへは新規環境構築となり大幅増。
②ランニングコスト
・現行は共同利用のためシステム運用作業費用が抑えられている
ガバメントクラウドへリフトすることで大幅増加
・役所&ベンダーアクセスルーム~ガバメントクラウドを結ぶ回線
費を新規追加
現行システムは既存の共同回線を利用しているため計上無し
自治体クラウド利用団体にはコストメリットが出ない結論の別の裏側を推測
美里町でも同様に指摘されていたが、
クラウド化は今まで「只だったLAN」に金がかかるにが特色である。
ここを見誤ると、通信費が爆発して足が出ることになる。
これはまさにその王道というか、定石パターンと言える。
また、注意すべきは、現システムの立地とガバメントクラウドの立地の差で
あろう。
回線を引くにせよ、同一県内であれば、広域イーサネットも安価だが
県を越えると大幅に(10倍位)高くなる…
普通県内にある自治体クラウドに対し、AWSのリージョン(東京圏、大阪圏
しかない)まで回線を延ばすとなれば、高額になるのは当然だ。
これらの結果を見ると、ガバメントクラウドを自治体の為の基盤として使うには
以下の問題があるということが見えるような気がする。
①政府レベルの機能・性能・信頼性を満たす基盤は
自治体にはオーバスペック。
よりチープで共同利用型の基盤も必要
②霞ヶ関から回線を引けばいい政府システムと違い、
自治体は全国に散在する。
自治体と同じ県内にガバメントクラウド拠点が必要。
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