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空の雪ソリ

2021年02月06日 | 焼き芋みたいなショートエッセイ

      焼き芋みたいな
      エッセイ・シリーズ  (28)

      『空の雪ソリ 』


         好きだった。
        じきに夜が明ける前の、蒼くて白い雪の街。

        氷点下のしんとした住宅街。

        一軒、一軒、ポストに新聞を入れて行く。
        高校入学時から3年間続けていた朝の新聞配達。
        そろそろ受験も迫り、辞めることにした。

        ある日の朝、いつものように販売店に行くと、
        僕の代わりに入ったアルバイトさんが来てるよと言われ、
        店の奥に目をやった。
        その娘がぽつんと立っていた。
        あ!っと心の中で声を上げた。
        同じクラスの娘だった。
        いつも物静かで清楚な感じのする娘だったから、
        新聞配達をするなんて驚いた。大丈夫かなと思った。
      

                      

        木製の雪ソリに新聞の束を載せ、
        少し緊張しながらその娘と配達区域に向かった。

        「寒くない?」「はい、大丈夫です」
        氷点下10℃の慣れない厳寒の朝だ。大丈夫なわけないだろうに。
      

        配達先を一軒一軒教えながら
        白い家の庭先のポストに新聞を入れた時、
       「ここ、私の家です」とその娘がはにかむように言った。
       「へえー、そうなんだ!」と僕は答えた。お洒落で立派な家だった。

       「じゃあ、3年間ずっと、君の家に僕が新聞入れてたんだ」
        そう言うと、その娘は微笑みコックンと頷いた。      
                         

                         

        その日から3日間で、その娘は仕事を覚えて僕とバトンタッチした。
        「いろいろとありがとうございました」とお辞儀をしたその娘は、
        いつも暖かそうな可愛いマフラーをしっかり首に巻いていて、
        それがとてもよく似合っていた。


       「じゃ、頑張ってね」と僕。
       「はい」とその娘。
        その先の会話が続かないのを焦って僕は、
       「学校遅刻しないでな」と訳の分からないことを言った。
        時々遅刻していたのは僕じゃないか。

     
        空っぽの雪ソリを引いての帰り道、すっかり夜が明けた白い街に
       「3年間ありがとうございました」と、
        僕は心の中でお礼を言った。すがすがしい気分だった。     
       「明日から朝ゆっくり寝てられるぞー」
        それも
正直な気持ちだったな。

  

          
              


               星空Cafe、それじゃまた。
                  皆さん、お元気で!


                
















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