焼き芋みたいな
エッセイ・シリーズ (55)
「突然の来客1」
「記録的な冷夏」と言われた年の夏の夜、
いつもの仲間達と山のキャンプ場で焚き火を囲んでいた時のことだった。
「どうも、こんばんは。
あの~、ボクも焚き火に当たらせて貰っても良いですかね?」
そう言いながら、
突然、一頭の鹿が森の中からひょっこり顔を出した。
「いいよ。こっちにおいで」
火を起こしていたキタちゃんが、空いている場所を指差して鹿を手招きした。
「スイマセンね。それじゃお言葉に甘えて」
鹿はそう言うと、スタスタと焚き火の前に座った。
他の皆んなは、「突然の来客」の鹿を、黙ってじーっと見つめている。
腰を下ろした鹿は、目を細め愛想良くニタ~と笑った。
しばしの沈黙のあと、
焚き火の前では再びさっきと変らぬ皆んなの賑やかな談笑が始まった。
僕はその様子に動揺し、とっさに皆んなの顔を見まわした。
「えっ?!鹿だよ。鹿が喋って座ったんだよ!」
しかし、そんな僕の驚く姿など(かなり驚愕していたはずだけど)、
誰も気に留める様子はない。
「ところでさ、今夜はオーロラの出る気配がないようだけど、
どうしたんだろね?」
上機嫌に酔って少し赤い顔をしたヒデちゃんが、夜空を見上げて言った。
「そういえばそうよね。今夜は現れないのかしら」
ユキちゃんが、湯気の立つコーヒーカップを両手で包みながら、
ヒデちゃんと同じように満天の星空を見上げた。
ちょうど頭上には、天の川銀河が細長く鮮やかに見えている。
(はっ?ここはオーロラが出るような所じゃないだろ・・日本だぞ・・)
「ここ、オーロラ、出たっけ?」と僕はヒデちゃんに訊いた。
「ん?」という顔をしてヒデちゃんが僕を見る。
「何を言ってるのだ?今までここで何回も見て来たでしょ」
それを聞いて他の皆もにこにこしながら頷く。
たぶん彼ら独特のジョークか何かだろう。
僕はそう思い直して、さっきの鹿の方に目をやった。
鹿は、焚き火の温もりがじつに気持ちよさそうに目を細め、
相変わらニタ~っと笑うような顔をして座っている。
僕がわざと怪訝そうに睨むと、鹿は一瞬顔をこわばらせたが、
すぐにまたニタ~と目を細めた。
「ま、いいか」
そう思った。
時々、
どうも僕は、周りの人達とは違う空間というか、
違う次元に、ぽつんと立っている様な気がする時がある。
皆が同じ物を見ている時に、僕だけそれが見えていないという感覚。
逆に、僕が見ている物を皆が全く見ていないという感覚。
そしてこの感覚は、子供の頃が特に強かった。
これは「孤独感」とは違う・・
僕が勝手に場違いな所に来て立っている、そんな感じだ。
皆んなの楽しそうな様子を眺めながら、そんな事を思っていると、
ユキちゃんが僕の顔を覗き込むようにして言った。
「ねぇ、それって、誰にでもあるわよ」
「えっ?」
まるで僕の心を読み透かしたように、
ユキちゃんはそう言って、穏やかな笑みを僕に向けた。
「それってね、誰にでもあるわよ」
~続く~
星空Cafe、それじゃまた。
皆さん、お元気で!
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