極個人的発言録Blog

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「悪と仮面のルール」 中村文則

2010-08-16 14:43:42 | 読んだ本
芥川賞作品「土の中の子供」で【生きること】の核心や【生の根源】に触れた作家が、この作品ではそれとは全く異なる【欲望】【死】を描いている。

【邪】を体現するために意図的に作られこの世に生を受けた主人公。そして彼が自らの存在意義・生きる意味として定義した女性、決して逃れられない因縁のような彼の家系。
まるで見えない糸で結ばれているかのようなこれらの要素が表に裏に絡み合いながらも、それぞれの【ルール】によってその欲求を満たし、目的を果たそうとする。
ある者は己の存在意義を守るため、ある者は【完全なる自分】を得るためのパーツとしての【死】を得るために...。

大きな筋としては、主人公が自分の人生の中のたった1つの【幸福】を守るために、それを損なわんとする相手と渡り合う話だ。

あまりにもドラマチックな生い立ちと人格形成過程なため、読み手として登場人物に感情移入をする余地は無かったよ。
なので、完全なるフィクションとして、主人公の過酷な人生を読んだ感じ。

読んでいくうちに、いつの間にか主人公に肩入れし、【善悪の構図】を頭に描いていたけれど、よくよく考えればこの主人公も充分に壊れている。
たとえ自らの命と引き換えにできるような存在を守るためとは言え、3名もの命を奪ってなお生き続けていられるということ自体が。
あるいはその深層にはそれとはかけ離れたもっと邪な何かが横たわっているのかも知れないけど、彼の目的が表面的に理解のしやすい「愛」というベールに包まれているために、ついつい彼の行動を自然に思ってしまう。ちょっと苦笑い(笑)

大筋の単純なこの物語の味付けに大きく貢献しているのが、主人公に関わる脇役達のキャラクターだ。
彼の顔を作り変えた医師とその助手、彼の行動を大いにサポートする探偵、そして枝分かれした邪の一族の若者。
それぞれがそれぞれの大きなドラマの中を生きている彼らの過去、そして未来に大いに興味をそそられる。
そういったエッセンスがこの物語の味に深みを持たせたのは異論の無いところだろう。

普段本を読む時は少なからず「自分にとって何かのヒント・参考になるような作品」を選んでいる俺。
この作品には全くといっていい程そんな要素は無かった(笑)

でも、純粋に娯楽作品としてはとても楽しめる物語だったと思う。
ある意味ハッピーエンドでもあり、余韻があるような終わり方も心地よかったな。うん。

詳しく「悪と仮面のルール」をチェック!


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