音と美と文と武と食の愉しみ

自己参照用。今まで紙に書いていたものをデジタル化。
13歳でふれたアートが一生を支配するようです。

20240616 女工哀史(その3)

2024-06-15 16:57:24 | 日記

【手淫症】

生理学大家の説によれば彼の天真爛漫たる小児さえも手淫をやるというのだから、一人前の女になった彼女たちが手淫をやったからとて少しも怪しむには足らん。しかしその割合が一般夫人に比較して高いということを大工場の婦人科医師は言っている。

女工が輪具精紡機の経糸空木管を持ち帰り、これを性器へ差し込むという嘘らしい話しがある。しかしこれはあながち作り話ではなく、上毛モスリン岐阜工場(今は日毛岐阜工場)には頃合いな里芋を押込んでそれが出ず、遂に医師を煩わした実例がある。

織布部において力織機のサーフェース・ローラーは恰度(ちょうど)普通身長者の性器の部位に当たり、これが運転中絶えずびくびく振動的に緩く廻っている。故に工女は布の織り前を手入れする場合、腰部の前面をあっせられて性的昂奮を覚えるのである。また男子にとっては一層この現象が甚だしいことは前に述べた通りである。

 

 

 

細井和喜蔵「女工哀史」(1925)

 

100年前の日本。資本と労働者の関係は、どれだけ変化したのだろうか。


20240516 女工哀史(その2)

2024-06-15 16:48:04 | 日記

【同性愛】

しかしながら自由に、異性と相対的恋愛を構成する権利と機会を喪失した女工たちの間には、同性愛の変態現象がよくある。否、甚だ多いのである。そしてこれが精神的に相愛するだけに止まらず概して極端な肉的行動に及ぶのである。そうして強烈な嫉妬がこれに伴なう。相手方の女が他の女と談話など交しても眼の色かえて怒るのだ。

待遇の比較的良い工場では一人に三枚ずつ蒲団(ふとん)を当てがい、一人々々やすまれるようにしているにもかかわらず、貸与受けたものを押入の隅っこへうっちゃらかしておき、二人ずつ寝るような例はどこの寄宿でも見受けられるのである。堀としをの実見によると二人寝の寄宿舎で夜中ひそかに掛け蒲団をまくってみれば、おとなしく並んで寝ている者はほとんど尠(すく)なく、唯だ単に寝態(ねざま)を崩している者三分、あずったが故に二人の体が触れ合っている者三分、しかして後の四分が故意に抱擁した者だという話しである。


20240616 女工哀史(その1)

2024-06-15 16:33:55 | 日記

(よく知られた書籍。一読して衝撃を受け今でも忘れられない部分を抜き書きする。えっちである)

 

【中性的心理】

花も咲かなきゃ鳥もうたわぬ一切禁慾の生活に身を委ねていると、性慾を始め諸々な慾望は習性的に段々その絆を断たれてしまうものである。

三十路を越えて爛熟の極に達した中年夫人が、未婚のままで寄宿舎にかなりいる。そうして彼女たちは金を儲けて国へ送るとか貯金するとかのほか、ほとんどこれを使わない。もし彼女に性その他の慾望が傍(はた)から想像する程あるのだったら、とても辛棒は難しい。しかし勘定とったからたとて美しい衣裳を一枚つくるでなし、芝居一幕のぞくでなし、と言って男に戯れることは更らになく、唯々(ただただ)営々と働くをこれ能とする。こんなカーレル・チャペックの「人造人間」のような女工が大抵一工場に1割くらいはどこでもいる。彼女たちは、もう中性的になってしまっているのだ。故に良縁があるからとて縁談を持ちかけてもそんな手合は大概ことわる。

彼女たちはこれからの環境次第で、どんな色にも染まる白紙の少女時代はるばる伴れて来られ、そのまま牢獄へぶち込まれて直ちに機械につけられる。そうして寄宿舎の制度、教育等、彼女を取りまくすべての周囲は何一つとして中性的に感化づけぬものはない。あらゆる欲望の去勢!実に我ら労働者は人間本然の慾求である性慾すらも、権門勢家のために略掠されているのだ。

工場とは一個の大きな蜂の巣である。そうして女王資本家と少数の家臣等のために、性慾や生活慾望を感じない処の働き蜂が多数雲集してし孜々(しし)として働いている。

ああ!憎むべき資本主義は遂に人間を昆虫へまで引き下げた。