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『酒呑みの自己弁護』
山口瞳(日:1926-1995)
1973年・新潮社
1979年・新潮文庫
2010年・ちくま文庫
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それが、すっかり、変ってしまった。
「ルパン」で飲もう、「ボルドー」で飲もうというのではなくて、どこそこのナニ子ちゃんに会いにいこうというふうになってしまったのである。
銀座の酒場がキャバレーになってしまった。
女郎屋になってしまった。
酒場は、一人で静かに飲んだり、友人と話をしに行くところではなくて、騒ぐところになってしまった。
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フットボーラーたちが往年のプラティ二のプレイに憧れるように。
映画監督たちが黒澤作品を食い入るように見つめるように。
酒呑みにだって、憧れの酒呑みがいる。
オレにとってそれは、山口瞳をおいて他にない。
ページをめくれば、今夜も山口さんの話が聴ける。
山口さんは自分の分身を封じ込めたね、完全に。
故人の本を読んで、
「ああ、この人はここに生きている!」
と思ったのは、本書と、井伏鱒二の『川釣り』くらいかもしれん。
粋であることは言うまでもないんだけど、まず優しいんだよね、人柄が。
当意即妙な山藤章二のイラストも毎度お見事。
各章がとっても短いので、いつでも気軽に手にとって読めるんだけども、
特に好きなヤツを何本かチラっとご紹介。
■ビールの不思議
友人宅の新築祝いに訪れた共産党員の人たちが、古いビールを飲んで出来上がってしまう話。
飲めるかな、飲めますかね?などと言いながら、奥から出てきた古いビールを飲み始める。
最後、酔っ払いたちを見た老人の
「しょうがない奴等だな」
という一言に味がありすぎて、なんだか短編小説を1編読んだくらいの気分になるのだった。
■川島雄三さん
映画『江分利満氏』で主人公の妻を演じた新珠三千代。
葬式の場面で新珠さんは終始無言で坐っている。
その新珠さんが、右手を目に当てようとする。
「泣くか?」
と思って見ていると、その右手は目に触れず、髪にさわっただけで、また膝にもどってしまう。
なんとも哀切で凄みのある芝居だった。
その演技について、山口瞳に問われた新珠さんの答えは・・・。
■鹿児島の酒
鹿児島の天文館通りの酒場で焼酎を飲む山口瞳。
女給のひとりに明日の午後、2万円で浮気しないかと言ってみた。
2万円使うと東京へ帰れなくなるから冗談であった。
が、女給はまともに考え込み、
明日は幼稚園のPTAの会に出なくてはならないからダメだと言う。
それから、女給どおしのおしゃべりが始まり、話題は
「明日は何を着ていこうか」
という話にサラリと流れていく。
マジすか学園。
(おしまい)
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