
『ニューロマンサー』
ウィリアム・ギブスン(米:1948-)
黒丸尚 訳
"Neuromancer" by William Gibson(1984)
1986年・ハヤカワ文庫
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元・凄腕コンピューター・カウボーイ(ハッカー)の「ケイス」だが、過去にあるヘマをやらかし、制裁として脳神経を焼かれている。
脳を焼かれ、電脳世界へのジャック・イン能力を失ったハッカーには、やることが何も無い。
ケイスは日本の電脳都市・千葉シティでドラッグに浸る生活を送ってる。
そんなある日、ケイスの前に、全身に武器を仕込んだ女サムライ「モリィ」が現れる。
モリィによって「アーミテジ」という謎の男に引き会わされたケイスは、失われたジャック・イン能力の再生を報酬に、危険なプロジェクトに引きずり込まれていく。
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読みにくうぅ・・・。
という感想は何度読んでも変らないのだった。
とにかく、ギブスンたら単語をちゃんと説明しないんだもの。
「来年の最高級ホサカ・コンピュータ」
来年の・・・は百歩譲るとして、ホサカてなんじゃらホイ?
新橋、烏森神社の手前にある焼き鳥屋「ほさか」かっつーの。
(ホサカは架空の企業名。ソニーや三洋、三菱は実名で出てくるのに、急にホサカて。外人からしたら「日立」みたいなイメージでしょうか)
「ロフトに戻れば、デッキが、オノ=センダイ・サーバースペース7が、待っている。」
今度はオノ=センダイときましたか・・・。
一見ありそうで、しかし完全に外国人にしか思いつけない企業名です。
タランティーノの『キル・ビル』に出てきたGOGO夕張(栗山千明)を思い出すような、ぶっとんだネーミング・センス。
「あたしら、これからヤバい仕掛け(ラン)をやるわけだけどさ、ケイス、ただ”フラットライン”の構造物を取るだけなんだ。
センス/ネットが、アップタウンの資料庫にしまってるやつだけど、きついったらウナギのケツ並みだよ、ケイス。
だって、センス/ネットなんだから、同じところに秋シーズン用の新作をそっくる収めてあるわけ。
そっちをいただけりゃ、あたしら左ウチワもいいとこなのに、そうじゃなくて、”フラットライン”だけ頂戴してほかは手つかず。
おっかしいよ」(モリィ)
何これ、ほんとに日本語?
一度読んだだけでは、全然意味がわかりません。
なんだけど、なんだけど・・・、この圧倒的な物語のパワー。
『スプーク・カントリー』とか、2000年代のギブスン作品がピンと来ない俺にとって、本作こそ今も変らぬ金字塔。
冬寂(ウインターミュート)じゃないほうの、第二のAI(人工知能)が自らの名前を名乗るとき、自分が何を読んでいたか思い出してハッとするという・・・。
鳥肌が立つやうな傑作です。
邦訳についても、最初読んだ時は
「なんじゃい、このマスターベーションな訳はッ!」
「読み終えたら、絶対に、訳者のクロマこと佐久間弘さんをお説教しに行こうッ!」
と思って読むんだけど、読み終えた時には、この説明排除のスピード感でないと本作は訳しきれないと納得。
クロマは1993年に亡くなられたけど、今は公安9課のメンバーとして活躍されてます。
■おまけ
あと、影響という観点から、先日『ジョジョ展』に行ってきた流れで適当なことを言うとですね。
『ジョジョの第二部』でジョセフ・ジョースターが柱の男・ワムウによって心臓に毒の指輪を埋め込まれちゃって、だんだんそれが溶けていくぅ~、という設定がありましたけど。
これって、『ニューロマンサー』でケイスがアーミテジによって大動脈に毒入りの液嚢を埋め込まれちゃって、だんだんそれが溶けていくぅ~、という設定の影響があるのかも。
ジョジョの第二部は、ちょうど日本で『ニューロマンサー』が発売された翌年の1987年に連載スタートしてるしね。
さらに、クリストファー・ノーランの『インセプション』"Inception"(米・2010年)もだいぶ影響下にありそうだね。
夢の階層から戻るのに、現実世界での「キック」が必要なあたり。
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ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF) |
ウィリアム・ギブスン,黒丸 尚 | |
早川書房 |
今はこの奥村さんの装丁は変わっちゃったのさ。えーん。