「女性と帽子」
- ポートレート、モードとファッション ‐
写真の分野は幅が広く、戦前は人物、報道と芸術などが知られていたが、戦後になると経済の発展に伴い、商業写真という新しいジャンルが産声をあげはじめた。当初はモード写真家たちがその担い手となった。尾崎三吉もその一人として、戦前、女性ポートレート写真での実績を活かし、戦後、「装苑」その他のモード雑誌、婦人雑誌で活躍を始めたばかりであった。この新しいジャンルについて、尾崎は「日本カメラ」(昭和32年月号)の中で「ファッション写真は、流行の衣装を一般に知らせるため生まれたものである。…中略… 写っているだけでは満足されない風潮が生まれてきつつあるようだ。…中略…例えばアメリカのVOGUE誌では、…中略…部分的なデザインから、全体的なデザインの美を重視したり、動きの中にのみ見られるデザインの美に重点をおくようになったためで、…中略…ひとつの雰囲気の中で、生きた人間が着て、初めて美しいデザインが生きてくるわけであろう。」と捉えていたようである。「日本カメラ」(昭和31年臨時増刊号)の特集「帽子のモード」の序文で、「帽子のモード写真をいろいろ集めてみた。モードとして写す場合と、帽子をかぶった女性のポートレートとして写す場合とでは、撮影目的が違ってくる。帽子のモード写真では、女性の表情もたいせつではあるが、帽子の形態や質感の表現が主体になる。一般のポートレートでは、帽子を強く意識しすぎると、女性のほうが負けて中途はんぱな写真になってしまう。いずれにせよ、帽子はその女性の感じに、ぴったりと似合ったものでなければおかしい。ドレッシーな帽子にはしとやかな女性を、奇抜な帽子にはモダンな女性の強い表情を、といったような基本的なことはもちろん、帽子や服装の流行のことなども、女性写真を志す人は常識としても研究しておくように心がけてほしい」と指摘している。
今回の作品展は、「女性と帽子」を主題に、女性の表情を大切にする「ポートレート的写真」と帽子の形態や質感の表現が主体となる「モード的写真」を中心に写真と資料を展示。