TWP これ…、何回目のブログです?

まぁ長続きしないんです。アウトドアと酒とサバゲとカスタムドールとイラスト。「めいんてなんす」再開しますた。

オカルト小噺 「踏切」

2012-08-07 01:00:18 | オカルト



【踏切】

遮断機が降りている。
赤い点滅が辺りの闇を染め、のんのんのんのんと渇いた電鐘の音が鳴り響いている。
列車進行方向指示器の矢印が、「←」で光っている。K崎行きの上り電車が来る。

横に女性が並んだ。見たところ学生?大学の帰りか。急いでいるようだ。
チラ見すると、チェックのスカートから伸びる脚が、暗がりに赤く点滅して、眩しい。
独り身になってしばらく経つよな…。ああ、彼女がホスィ。

催眠効果でぼーっとした車が入り込まないように、点滅と鐘の音のタイミングは微妙にずらしてあると聞いたことがあったな。…まあいいか。
おいらとその女子大生は、そのまま待ち続けた。
その時から、少しぼーっとしていたのかも知れない。

…。

……。

おかしい。一向に電車の来る気配が無い。何分待たせるんだこの踏切?

右手にヘッドライトの明かりが二つ見えた。やっと来たか。
轟音をあげて、目前を通り過ぎるN武線上り電車。
乗客の数は多くない。夜の電車は車輌の照明で中の様子が良く解るが、妙だったのは、乗っていた客がみんな、こちらを向いていたことだ。

+++++

おいら達を見ていた。
全ての車輌の全員が、こっちを見つめていた。


その何人かと、はっきりと目が合った。口を開け、何か言いたそうな顔をしていた。

ただ一人、最後尾の車掌さんだけ、後ろの方を指差していた。
「あれを見ろ」とでも、言いたげな顔をしていた。

赤い点滅と電鐘の音、電車通過の轟音の中、ぼーっとそれを見送った。

…何だったんだ今のは?…だめだ、イマイチ解釈出来ない。
点滅と鐘の音はまだ止まらない。また「←」の矢印が赤く光っている。
また上り電車かよ。この赤い点滅と音で思考に蓋をされた中、いい加減イライラしてきた。
横の女子大生が何かブツブツ言っているのに気付いた。彼女も結構イラついているらしい。
そりゃそうかも。

右手を見ると、今度は赤い光が二つ、近づいてきていた。
この時一瞬、思考が回った。おかしい。赤は尾燈の色だろ?遠ざかるはずだぞ?
しかし、その赤い光は確かにこちらに向かって来ている。
…あの光は電車じゃない。別の何かだと直感した。

耳がキーンとしてきた。

すると突然、横の女子大生が遮断機を押し上げて、踏切の中に入り始めた。
「あ…危ないっすよ!」
流石においらも危険を感じて、腕を掴んで引き戻そうとした。だが、できなかった。
彼女はブツブツ言いながら、無理やり中に入ろうとしている。引き寄せられない。
女性とは思えない、すごい力だった。

右を見ると、二つの赤い光はもうそこまで来ていた。それは電車ではなかった。

+++++

大きな、黒い口だった。

赤く光る双眸が、おいら達を見下ろしていた。何だコイツは?
なんだかワニの口のように見えた。確かに爬虫類の感覚があった。何故かは判らないが。

ヤバい。彼女の腕を掴んだ両手に、渾身の力をこめて、こっちに引き戻す。
ビリリと彼女のブラウスが肩口から裂ける音がした。ブラウスの袖が抜けた。
彼女の腕はおいらの両手からすっぽりと抜けて…そのまま彼女は線路の上に踊り出た。

風を切り裂く音が耳をつんざく。バキバキグモバキ!骨肉が砕ける音がした。
その黒い口は、目の前で彼女を頭から飲み込み、そのまま走り抜けていく。
チェックのスカートと、そこから伸びた白い脚が、瞬間目に焼き付いた。

おいらはちぎれたブラウスの袖をもったまま、そいつが闇に消えて行くのを、茫然と見送るだけだった。

訳がわからない。ただ目の前で女性が一人、線路をやって来た大きな黒い口に「喰わ」れた。
くそ、こんな事があったのに、まだ頭がぼーっとしている。動け頭。

電鐘の音が止む。遮断機が上がり始めた。
線路を越えた向こうに誰か居る。暗がりに目を凝らすと、女性だ…ブラウスの片袖が無い。
さっき喰われた彼女だった。ポカーンとしている。

よかった…無事だった。思わず駆け寄った。
「大丈夫ですか?怪我とかしてませんか?」
「あ…あの、すみません、私…どうかしましたか?」と彼女。
自分が何をしようとしていたか、どうなったか覚えてないらしい。
こっちもまだ心臓がまだバクバクしていたが、息を整えながら、鈍くなった頭で経緯を思い出せる限り説明してやった。

+++++

説明している間じゅう、不思議な気分だった。ばあちゃんや女の子の霊、ワケの判らないモノは見たこともあるが、あんな怪獣のような具体的な化け物はこれまで見たことが無い。

それも、結果的に見ず知らずの女子大生を助けてしまうとは…。
一種、運命的なものを…感じちゃっていいのかしら?おいらw

「またやっちゃった…気をつけていたのに…」
彼女は胸の真ん中をギューっと握りしめた。…お守りか何かなのか?
またやっちゃったって?何なんだこの女子大生?

今の独り言を聞く限り…この子は「訳アリ」の部類に入る。曰く付きの…という意味だ。
「ブラウス、破いてしまってすみません」というと、
「あ…」
今更、引き裂かれたブラウスに気付いて、恥ずかしそうに肩口を引き合わす。色っぽい。

取り敢えず近くの交番まで送り、名刺だけ交換して別れた。
思った通り女子大生だった。ミカドさんていうのか。大学のゼミの名刺だった。
「S大学民俗学フィールドワーク」もしかすると、ここも色々と訳アリなゼミなのかも知れない。大変興味深い。

ただ、おいらはここで致命的な間違いを犯した。何と言うことをしてしまったのか…。
いまさら、どうしようもない。あの時、頭が冴えてさえいれば…と後悔した。
ヘコんだ。
流石にその後、何日間か寝込んだ。

+++++









彼女の携帯の番号とメアドを交換するのを忘れていたのだ。

悔やんでも悔やみきれない。

-終-