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ひびこれこうじつ

とりとめなく、日々の覚書です。

『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』

2023-10-06 12:22:18 | 

数多いハルキストの友人たちの薫陶の賜物で、『ノルウェイの森』『騎士団長殺し』で味わった挫折を乗り越え(しかし春樹さんのエッセイはどれもおもしろかったのだが)、『羊をめぐる冒険』『海辺のカフカ』で、ようやく、

「なるほど……」

と、ちょっと村上ワールドの魅力に気づき始めた私だが(特にカフカの時空を超えるグルーヴ感はたまらなかった)、そうなると他の作品よりも先に、これを読んでみたいと思ってしまった。

 

『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』

 

河合隼雄先生のこともかつては大いに誤解していたのだが(というか、ユング心理学や箱庭療法のことを誤解していた)、養老孟司先生が、

「ああいう、本当の意味での大人は、今はいない」

というような意味のことをおっしゃっていたのを聞いて、あらためて読んでみると(中沢新一さんとの仏教関係の共著がとてもよかった)本当にすごい人で、

「あああああ、お会いしたかったあああああ」

と思う。

何がすごいって、包容力と忍耐力かな。

わからないこと、つらいことのその先に必ず良いことがある、という信頼感と、その良いことが必ずしも人間という種の思う「良い」ことではない、ということに耐えられる底力。

ああ、大人だな、と思う。

 

で、この本はというと、ああやっと今、私に読む準備が整って読むタイミングになったんだな、と思う。喉元に詰まっていた栓がスッと抜けて腹に落ちていくような快感を味わえる本に出会えると、

「おお」

と思う。

 

かつて書いた『とある日本人『奇跡講座』学習者の困惑』というブログは、多神教ベースの日本人的自我と一神教ベースの西洋人的自我は違うので、一神教的自我の解体を目的に書かれた奇跡講座は、日本人的自我にとっては都合の良い誤解が生じて逃げ道ができてしまう、ということを書きたかったのだが、この本の中で、日本人には個人として病み切る力がない(環境全体で支えてしまう)ということが書かれていて、そう、そういうことが言いたかったんです、と思ったり(「相対化されないエゴがベタッと迫ってくる」という村上さんの言葉を読んで、そういうことだったのかと、長年の気持ち悪さが整理された)、人間は誰しも病んでいて、その病みを(あるいは個人ではなく社会の病みを引き受けて)表現する力と技術があればそれを芸術として昇華させることができるし、芸術というのはそういうものだ、という話を読んで、ものすごく納得したり、心理療法というのは治るのを待つもので、相手に共鳴しながらその共鳴している自分をみている自分の目線が必要なのだとか、村上さんは書いている時には結末はわかっていなくて、物語が生まれてくるに任せていて、書いた物語の意味は自分でもよくわかっていない、とか(マジですかw)……いや背幅1センチ弱かつ余白かなり多めの本なのに、びっくりするくらい深かった。

巨大な深海魚の会話をこっそり聞いたような気分だ。

 

この本は、『ねじまき鳥クロニクル』の直後の対談を収録した本で、随所で『ねじまき鳥』に触れられているのだけど、ちょっと怖そうな本なので読むのに勇気がいるなあ。

まあ、またタイミングも来るでしょう。

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『嘆異抄』

2021-02-18 15:36:54 | 
本棚でじっくり熟成され、すっかり茶色になった岩波の青帯『嘆異抄』。
いつか読むつもりで買っておいたのは間違いないが、古本だったのか、貼った覚えのない付箋まで貼ってある。

コースと真宗はすごく近いとずっと思っていて、いつかは読まねばと思っていたのだけど、哲学も精神世界も、最低限の知識をかき集めるので精一杯で、原典にあたるのはとうぶん無理、と思っていた。
でもこの『嘆異抄』は薄い。
しかも目の前にある。
解説と広告をたっぷり入れてようやく背表紙が7mmくらいか。
古文にはそれなりに耐性があるはず、と思って立ち向かってみたら、最初の解説が大変優れていて、それを念頭に置いておけば流れが掴める感じだった。

前半は唯円さんによる親鸞の言葉の聞き書き。
後半は著者とされる唯円さんの「嘆異」で、主に知識偏重と信心偏重の偏りに向けられていて、これはコースでも良く起きる。
唯円さんは、
「教えの文章には真実と方便が混ざっている、だからそれをちゃんと読み解かなければならない」
「何よりも大事なのは、この教えを自分のこととして受け取ることである」
という。

テキストの解釈には言葉の限界がある。
真実を言い表すためには文脈に頼り、比喩にも頼る。
文字知識との付き合い方や、もともと持っているエゴの脂質によって、知識偏重と信心偏重、自分が振れ易い方に容易に触れる。
しかし、自分が本当に赦す時に、実際に心や体に起きる平安や、違和感や、怒りや、屈辱や、そういう体験に照らすことで超えることができる。

これも同じだよねえと思うと、なんだか、唯円さんがすごく身近で、タイムスリップした気分になる。
お茶菓子を持ってお住まいをお尋ねしたい。


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『なぜ世界のエリートは美意識を鍛えるのか』

2021-02-16 14:22:39 | 
なんか途中で読めなくなってしまっていたのだけど、読みかけ本一掃週間につき(いつそうなった)、ターボかけて読了。
理性vs感性をバランス良く育てることが、今の時代とても大事で、かつ、最後にものをいうのは、真善美に基づいた直感、という話だろうと思った。
ビジネス本だから私には全く縁がないけれど、ビジネス界では美意識をどう捉えているのかなと気になって買った本。
文化に育てられた美意識がなければ、自分の主観はいくらでも騙せると思うから。

おもしろかったのは、途中で、アイヒマン裁判や某宗教団体の事件が考察されていたところ。
その組織の中に組み込まれ、そこに忠誠を誓い、そこで認められた人が、その組織の過ちに気づけるかどうかは、自分の中の美意識に違和感を感じられるかどうかだという話……だろうと思う。
さらにフラワーチルドレンについても書かれていた。
体制に異を唱え、改革できるのはその体制の中にいる者だけで、それを外部から否定して別のフレームを持ち出しても、結局何も変えることはできないという話……だろうと思う。どんな体制でも組織でも、ある程度成熟したその先は、うまくいかないから、あるいは気に入らないからと言ってちゃぶ台返しせず、美意識で調整していかなければ、いつまで経ってもちゃぶ台がひっくり返ったままで、美味しい晩ご飯は食べられない。

声高に何かを否定する、あるいは切り捨てるのは実は簡単なんだよな。
コースだったら、赦せ、っていうとこだよな。
そのゆるしどころを見つけるのが、美意識か(着地)。


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『唯脳論』、再び

2021-02-15 17:43:00 | 
思えば去年の後半に、やたらと本を読む羽目になったのは、養老孟司の『唯脳論』を読んで、
「あ、ダメだ、私は精神世界を完全に誤解してる」
と、とんでもない衝撃を受けたからだった。
どうにも頭がまとまらなくて、夜中に起き出して本を読んだのを覚えている。

……のだが、なんでそんな衝撃を受けたのかが、なんだか曖昧で(おいこら)、
もう一度改めて読んでみることにした。

……のだが、やっぱり思い出せない。
それどころか、
「へえ、こんなこと書いてあったけ?」
の連続で、自分の記憶力のザル加減に衝撃を受ける。

もちろん、
「ああ、そうそう!」
というところもあったが、
「え!これは重要!なんでこれ覚えてないんだよ」
というところもあった。
その一つは、意識というのは、脳が脳を知る(脳神経同士で刺激を回す)。という行為の結果に生まれたのではないかという推論。
もう一つは、量子が粒に見えるのは視覚系、波に見えるのは聴覚系に由来するであろうという話。

とはいえ全体的に、自分の考え方の主軸が90度くらい傾いたのは、やっぱりこの本のおかげだと思い返した。
私が見ている世界は私の脳の仕組みを反映している。
それが(おそらくは時空を超えた)デジタルなデータであるのは、私の脳がデジタルに機能しているからだ。
自分のエゴがそういう仕組みであるということが腑に落ちて、随分軽くなった気がする。

で、
「そういえば、以前このブログに唯脳論のこと書いたよな」
と思い返して見たら、ちゃんとメモしてあった。

ああ、1番のヒットポイントはやっぱりここだったか、さすがにここは覚えてた、と、ちょっと安心した。
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『哲学的な何か、あと科学とか』

2021-02-10 10:44:40 | 
『哲学的な何か、あと科学とか』

読了。

作者の飲茶さんには、ほんとうにお世話になっているけれど(飲茶さんが『14歳からの哲学入門』を出していなかったら、私はずっと哲学に後ろ足で砂をかけ続けていたに違いない)、この本もありがたかった。
ようやく、粒子と量子の区別がつき、量子の二重スリット実験とかシュレディンガーの猫が、何をしてるのかがわかった(ような気がする)。
「そうです、ここがわからなかったんです!さすが飲茶さん、つまづきどころをわかってらっしゃる!」
と、感動することしきり。

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