ねえ、お札は何色だったの?:後半
(前半へ)
難しい言葉を並べてしまったかもしれないと感じた記者は小学生の方をみて、
「お札をコピーして、お巡りさんに捕まった何てニュースは聞いたことないかなぁ。」
小学生が首を縦に動かしたのをみて、
「コーティングと言うのは、おおうこと。お札全体のコーティングは透明のすっごく薄い膜でおおっているらしい。透明だから細かい文字や模様を鮮やかに見ることができるけど、膜のわずかな厚さのおかげで、お札にかかれた細かい文字や模様のコピーをやり辛くなるんだ。それから、膜による独特の手触りもできるから、偽札が気づき易くなる効果も期待できる。」
持っているお札を指で軽くこする仕草をしながら記者はヒントをくれた幼い質問者だけでなく、会場にいる多くの人が新鮮な気持ちで自分に耳を傾けてくれるのを感じ、
「それで、このコーティングはお札そのものも丈夫にしてくれるから折り目がついても破れにくいとか、ぬれにくくなって、水にも強い。おまけに、金属イオンを混ぜた燃えにくい材料でコーティングしてるから、簡単に火はつかないそうです。だから、燃やすのに苦労したと思いますよ。そういう、ことでしたよね?」
燃やした職員本人から自宅のキッチンで無我夢中に札束を燃やしたという聞き取りをしたことを繰り返していたから、課長さんは記者の苦労したんですよね?の問いかけに、自然にうなずく。そこで燃えにくいは決して燃やせないってことではないから、まだまだ弱いと考える記者は、さっき、喋りながら思い浮かんだアイデアを放り込む。
「無我夢中で色々覚えていないってのも、うなずけます。だからこそ、五感の印象、みる・きく・かぐ・さわる、について、自分自身の常識と異なることがあったら、際立って覚えていると思うのですが。」
課長さんは燃やした本人ではないから、知らないという、いいわけはギリギリ成り立つ。しかし、優秀なので、ひたすら低姿勢で反省と謝罪の言葉を繰り返すことができた課長さんだから、ギリギリの線ということもよく承知しながら記者の話す内容を慎重に聞いている。
「ちなみに、紙幣の種類、刷られた時期で数種ある金属イオンの配合が違うらしいですよ。イオンにも(燃えにくい前提で)燃えやすい、燃えにくいがあるらしく、きれいな炎色反応の経時変化がみられるそうです。リアカー無きK村、動力借りるとするもくれない馬力で有名な炎色反応。」
慎重に聞きながら『色鮮やかな炎色反応があったことを部下は一言もいってない、ということは、どういうことなのか。それで、どういうことであっても、お札のコーティングを知らない以上、掘り下げる会話・聞き取りが行われない場合もあるだろう。だから、特に問題はないはずだ』と考えをまとめてる課長さんに記者は、
「課長さんは台所で燃やしたという話だけを聞いて、『あーそうか』で納得したのですか?。または、部下である職員の燃やしたという話を疑う、または一応、疑ってみることを前提にお話をされなかったのですか?。」
これまで同様、ひたすら低姿勢で反省と謝罪の言葉を繰り返すに、知らなかったを加えることに腹をくくった課長さんは、
「いや、え、あっ、紙幣が金属でコーティングされているという話を私自身が知らなかったので、記者さんの仰るような質問はできませんでした。勿論、紙幣を実際、燃やしたかどうかの真偽については確認したつもりです。」
「その際に、何色で燃えたか、話にでませんでしたか?」
「何度も話すようで恐縮ですが、台所で燃やしたという話と、話をする職員の様子から真実を語ってる姿と判断した。(燃えている)色のことなんて・・・・・・」
言葉を選びながら、一瞬ある方向に視線を向ける課長さん。それを見た記者は会場のどこかに出席していないとされている燃やした本人が忍んでいるのだろうと推測。(嘘だらけだと、感じ、)なおも質問しようとする記者に対して
「同じ方による同じような質問は控えていただけないでしょうか。」
課長さんは強制終了を望み、意外にも記者はあっさり、引き下がり、素直にマイクスタンドにマイクを置いた。それから、小学生と若い大人の方へ向かい、名刺を渡して二人を見送り、さっき課長さんが視線を向けた方にいる取材陣っぽくない人物のそばへ行く。
終わりかけていた会見は、小学生の何色で燃えたか、ある記者のお札コーティング話に触発されたのか、他の記者たちによって質問が続いていた。
ある記者は紙幣が燃やされた事柄について、やや踏み込んだ質問をした。課長さんは燃やした本人の記憶が曖昧であるとおもう、と曖昧に答え、課長さん自身も日時程度の確認だけで、どのように燃やしたかなど、具体的に追求していないことを認めた。次の質問者は事実を追求する姿勢に質問した。詰まる所、事実を公けにしたくないから調べないか、事実を知らないことにしたいから調べないか、下手な作り話で薮蛇になる位なら簡単に済ませるか、間抜けなフリをするか、物事をしっかり調べない本当の間抜けであるか、など、事実の究明に対して消極的ではなかったのかと尋ねた。
優秀なので、ひたすら低姿勢で反省と謝罪の言葉を繰り返し、知らなかったを付け加えた課長さんであったが
「・・・。私が至らなかったといえば、その通りでございます。」
と答えるのが精一杯で、絞り出すように
「猛省し、今後に活かしたいと考えます。新たに確認できた事実がありましたら、」
と、会見を終わろうする中、例の記者が取材陣っぽくない人をチラッと見てから課長さんに、
「最後に一言だけ。」
と、挙手をしながらマイクもなしで、その場で勝手に喋り出す。
「ところで、先ほど話した、お札に金属イオンがコーティングされている、という話は真っ赤な嘘です。なので、今さら、紙幣を燃やして、何色で燃えるか確かめてみるなんて無駄なことはしないでくださいね。」
(おしまい)
嘘を仕掛ける難しさを痛感、結局うまく、まとまらなかったので何らかの形で改めて表現してみたい気持ちはある。
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