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たくぞうのブログ

趣味の文学、映画、音楽などについて書きます。

高祖文学に触れて

2023-01-21 20:18:30 | 

夕方、古本屋に行き本を10冊ほど買ってきた。
その中で、高祖保という人物を知った。自身も『雪』という題の詩を出しており、雪の詩人と言われているらしい。

綺麗で凝った装丁だったので気になって読んでみたが、見事な文章で一瞬で惹きつけられた。

 

その中の「雪の朝」という随筆の中で、故郷の雪の景色について書いている箇所がある。

”汪洋と波あげる大湖を背負って燦然と眩しくひかる、明るい雪国の、……幅広な雪なのだ。”

おそらく、高祖氏は彦根で過ごした雪の日のことを回想しているのだろうと思われる。

ここで言われる雪の景色は僕は見覚えがない。明るい雪国、という表現がまるで異郷のような不思議な感覚を僕に覚えさせる。僕の生まれ育った場所は暗く険しい北陸の、雪である。それは、子供らにとってはある死の予感を子供ながらに感じさせたし、大人になれば、風趣を感じるよりもまず、明日の労働のために片付けねばならぬ労働の証でもあった。
死を感じさせる雪国もあれば、生の溌剌とした雪国もあるのだろうか。

僕はそのどちらにも雪の持つ神秘性を感じる。

今僕は、京都にいて、滋賀にも何度か行ったことがあるが、こうした雪の風景をまだみたことがないので、いつか体験してみようと思う。

 


島口大樹著『鳥がぼくらは祈り、』を読む

2022-01-19 20:36:39 | 

芥川賞が決まった。砂川文次氏の『ブラックボックス』が獲った。

ぼくは、候補に上がった作品をまだ読んでいないので、これから時間があるときに読んでいこうと思う。


今回候補に上がった、五つの作品の中で、ぼくはなんとなく島口大樹氏の作品が気になった。そこで、彼のデビュー作である『鳥がぼくらは祈り、』を読んでみた。

読後の率直な感想を言うと、とても青臭く、未熟な作品でありながら、画期的な視点の切り替えというか、独特の文体で語られていたので、そこがとても印象的だった。

 

青臭い、と感じたのは、高校生の日常を描いている点では当然のことかもしれない。
画期的な視点の切り替えというのは、この小説の中ではかなり「カメラ」というのが大事なモチーフになっているのだが、カメラを回すように視点がバラバラに切り替わっていく。こうした人称の切り替えはどうやら今回候補に上がった『オン・ザ・プラネット』でもあるらしく、作者はかなり映画好きなんだろうな、というのがわかる。

実際、この『鳥がぼくらは祈り、』においても、そうした過去の映画作品から影響を受けたであろう描写がいくつか出てくる。
ユーモアのある散逸的な会話という点では、間違いなくジャームッシュやタランティーノの影響はあるだろう。
また小説の最初の方で漫才をする友人を茶化す場面や、地元の祭りの中での喧嘩などは、たけし映画を意識したような作りのような気がした。

おそらく通ってきた映画や小説などが、そこらへんの少し古いカルチャーの影響もあるのかもしれないが、とにかく斬新な視点の切り替えと統一性のない文体で若さを感じる一方で、どこかノスタルジックな雰囲気も感じられる。
これは僕が10代の映画監督シタンダリンタの作品を観たときにも感じた新しさと古さの融合である。

総じて、僕はこの小説がとても好きだった。今、あまりこうした未熟で不器用な作品というのは書けないのではないか。島口大樹はこれからも追いかけていきたい作家の一人になった。

 


河野裕子の歌集『歩く』を読む

2022-01-14 22:55:14 | 

ブログを新しく始めてみました。自分の趣味の音楽や本や映画のことについて気ままにのんびり書いていこうと思います。


ということで最初の投稿は河野裕子さんの歌集から。
先日、図書館で借りておいてまだ読んでいなかったので、ちょっとパラパラっと読んでみる。
歌集を読むという表現が正しいのかどうかわからないが、なんとなく目を通す。


この人の歌には独特の重力が働いているというか、とっても不思議な感覚を覚えることがある。この『歩く』の歌集は、全体的になんだかとてものっぺりとした悠遠な感じを受ける。この歌集は著者の晩年に詠まれた歌を集めているので、そのためなのか。いい意味で力が抜けている。でもどこか怖いくらいの迫力も感じる。歳をとっていると言っても、芭蕉のような軽やかな侘び寂びを感じさせてはくれない。それでも歌の節々にユーモアがあって、それが妙な親近感を持って語りかけてくる。

私は万葉集のような明るい男性的な短歌を好んで読むが、こうした控えめなそれでいて人生の機微に通じた短歌もまた趣があっていいものだ。では最後に好きな歌を一首。

田の真中にのんのんのんのん働きて機嫌よかりし脱穀機の音