「魔笛」。
誰もが知っている天才作曲家ウォルフガング・アマデウス・モーツアルトのオペラ作品の中でも最後の作品にして、この作品をモーツアルトのオペラの最高傑作として挙げる人も多いし、実際にそうだと私も思う傑作。恐らく全てのオペラ作品の中でも最高峰にあたるだろう。
ちなみにこの魔笛の初演の僅か2ヶ月後にモーツアルトは未完の傑作レクイエムを書いている途中で死去する。
オペラの映画化とはいえ、そのまま映画化した訳ではない。ここのところは、多くのシェイクスピア作品を映画化して成功させてきた監督のケネス・ブラナーの力量とも言える。
設定は第一次世界大戦に置き換えられ、主人公のタミーノ(ジョゼフ・カイザー)はそこで戦う兵士という役になっている(原作は王子)。
ただ、映画の進行はオペラのそれをそのまま踏襲しており、これと第一次世界大戦の戦場などを上手に絡める所はさすがである。
まずは冒頭のシーン。当然、オペラでは「序曲」がかかるわけだが、映画でもこの序曲の有名なハーモニーで始まり、序曲から第1幕の序「神様、お助け下さい」までが、そのまま一気に流れるのだが、圧巻は冒頭の序曲の3分ほどの曲の間のシーン。
場面は美しく映える緑の草原を写し出したかと思うと、そこから一気に第一次大戦化の戦場へと変わり、塹壕を激しく動き回る兵士達を写し出したかと思ったら、カメラは一気に上空へと舞い上がり、累々と続く緑の草原の中の塹壕を写し出す。そして、その塹壕を延々と遡ると、軍隊の本隊へと繋がり、巨大な大砲軍が現れる。冒頭で出てきた伝令らしき兵隊が、軍隊の大将にその伝令を伝えると、大将の合図と共に、軍楽隊が「魔笛」のメインテーマを奏で始めると、空には軍用機が雲の間から現れて、前線へとまた一気に昇っていくと、前線の兵士が砲弾の中を塹壕を出て突撃を始める。
この冒頭のシーンは圧倒されてしまった。あの「魔笛」の序曲でこんなシーンを描こうとは想像だにしなかった。そもそも、オペラでは序曲はまだ幕が開く前に奏でられる曲である。序曲のテーマで一気に聴衆を引き込む訳であるが、それをこれほどの圧倒的な戦場の映像をCGまで駆使して見せつけるとはさすがである。
その後はこの映像とオペラの見事な融合が続くのだが、その映像の美しさに魅了される。そこにモーツアルトの天才的な楽曲が重なる訳であるから見る者を引き込んでしまう。
物語を簡単に紹介すると(カッコ書きは原作の設定)、
戦場で味方が混乱する中で、毒ガスの攻撃(大蛇に追われる)を受ける兵士タミーノは、夜の女王(リューボフ・ペトロヴァ)の三人の侍女に助けられる。タミーノが気絶している間に、侍女達と入れ替わりにもう一人の主人公で道化役のパパゲーノ(ベン・デイヴィス)が現れるが、彼を命の恩人だと勘違いしたタミーノにパパゲーノは調子に乗って自分が助けた事にして自慢話をするが、侍女達に見つかって、パパゲーノは外れないようにガスマスクを被される(口に鍵)。
三人の侍女に夜の女王の前に連れてこられたタミーノは、夜の女王の娘パミーナ(エイミー・カーソン)が暗黒卿(悪魔)のザラストロ(ルネ・パーペ)にさらわれたので取り返して欲しいと懇願される。
パミーナの写真を見て一目惚れしてしまったタミーノはパパゲーノと共に三人の少年に導かれパミーナ救出へと向かう。この際、夜の女王にタミーノは魔法の笛、パパゲーノはチャイム(銀の鈴)を渡される。
ザラストロの城塞(神殿)に入った二人だが、そこには戦争を嘆き平和を訴える指導者(高僧)としてのザラストロが民衆に慕われていた。タミーノは自分のザラストロに持った印象が間違っていた事に気づき彼に謝罪を請い許される。さらにはパミーナとも初めて出会い、そして二人とも恋に落ちる。
そこでザラストロは戦場に”楽園”をもたらす為(タミーノとパミーナの愛の絆を確かめる為)、3つの試練をタミーノに課して、またパパゲーノは自分も愛する女性が与えられると言う事で、一緒にその試練に参加する。
しかし、最初の沈黙の試練でお調子者のパパゲーノは脱落。タミーノは更なる試練に向かうが、パミーナはタミーノとの別れに絶望し、短剣で自殺を図ろうとするが、3人の少年に説得されて何とかタミーノと合流し、共に最後の試練に向かう為に激戦の戦場へと向かう(火と水の試練)。一方のパパゲーノは若い娘を与えられず独り身の寂しさを訴えるが、そこには老婆が現れ愛の誓いを迫る。嫌々ながらもパパゲーノがこれを承諾した途端に老婆はうら若きパパゲーナ(シルヴィア・モイ)に変身するが、どこかへと逃げてしまう。
絶望から首つり自殺を図ろうとしたパパゲーノだったが、また3人の少年の機転で救われて、パパゲーナに再会してめでたく結ばれる。
そんな折りに夜の女王は三人の侍女やザラストロに追放されたモノスタトス(トム・ランドル)を引き連れザラストロへ反撃に向かうが、敢えなく闇へを消えてしまう。
その後には試練を乗り越えたタミーノとパミーナにより、戦場に”楽園”がもたされていく。
映画はほぼ原作のオペラ通りに進行するが、セリフや歌曲の歌詞は全て英語(原作は独語)になっている。また、設定を第一次大戦に持って行く事で、このオペラの主題である「光と闇との闘い」を戦場における善と悪にうまく置き換える事で、現在の世界の混沌とした状況さえも透視した秀逸な演出になっていると思う。
冒頭の兵士タミーノが最初に襲われるのは大蛇ではなく、第一次大戦の悲惨な戦場の象徴とも言える毒ガスとした事で、その意図がはっきりと見て取れる。さらには指導者ザラストロと民衆との合唱付きアリアは、戦場で倒れた兵士の墓碑の前で行われているが、その墓碑には映画やアラビア語そして日本語などで戦死者の名前と年齢が書き込まれている。どこの国の人が見てもこの墓碑に刻まれている名前と年齢がわかるようにしたのだと思うが、日本人の死者の名前の横には”享年18歳、19歳”書かれてまだ若い青年が戦争の犠牲になっているのがわかる。民衆はその家族であるので、多様な人種が混じっている。つまり戦場で奪われる命は宗教や民族を超えて等しく尊いものであるというメッセージだ。その前でザラストロのアリアの歌詞も平和を祈るものになっている(原作はフリーメーソンの入信儀礼の祈願と言われる)。
戦場に一瞬の平和が訪れ敵味方関係なくクリスマスを祝うようなシーンがあるが、これも実際に第一次大戦中に起きたエピソード(「戦場のアリア」で映画化された)に基づいていると思われる。
こうした演出を加える事で現代の我々が見ても新鮮なメッセージを受け取る事の出来る作品になっている。
とはいうものの、この映画は「魔笛」そのものの魅力を余すところ無く描いている素晴らしいオペラと映画の融合だ。有名なアリアは全て印象的なシーンとともに再現されていて、思わず聞き入ってしまう。有名な夜の女王のアリア(無茶苦茶高い音域で歌わせるソプラノ歌手泣かせのアリア)でのヒステリックな表現や、パパゲーノのあの有名な「パッ!パッ!・・・」というアリアなんかのシーンは思わず爆笑してしまう。文字通り二人の”愛の巣”を作るシーンなんて劇場が爆笑の渦に巻き込まれた。
そして、見事に平和の訪れた最後の合唱では、見事な映像と共に戦場が緑の楽園と変わっていく。
その見事なラストに思わず立ち上がってブラボー!と叫びたくなったのは私だけではないだろう。前に座っていた上品なご婦人が「まあ何て素敵な映画を見せていただいたんでしょうか!」って言葉に思わずにやりとうなずいてしまった。
ちなみに当然の事ながら俳優陣は全て一流のオペラ歌手またはミュージカルの歌手。特に重要なザラストロ役のルネ・パーペは世界屈指のバス。音楽監督はジェームズ・コンロン。クラシックファンなら言わずと知れた全米屈指の名オペラ指揮者。
一流が集まったからこその素晴らしい作品になった。俳優としても結構みんなイケてるし・・・。
誰もが知っている天才作曲家ウォルフガング・アマデウス・モーツアルトのオペラ作品の中でも最後の作品にして、この作品をモーツアルトのオペラの最高傑作として挙げる人も多いし、実際にそうだと私も思う傑作。恐らく全てのオペラ作品の中でも最高峰にあたるだろう。
ちなみにこの魔笛の初演の僅か2ヶ月後にモーツアルトは未完の傑作レクイエムを書いている途中で死去する。
オペラの映画化とはいえ、そのまま映画化した訳ではない。ここのところは、多くのシェイクスピア作品を映画化して成功させてきた監督のケネス・ブラナーの力量とも言える。
設定は第一次世界大戦に置き換えられ、主人公のタミーノ(ジョゼフ・カイザー)はそこで戦う兵士という役になっている(原作は王子)。
ただ、映画の進行はオペラのそれをそのまま踏襲しており、これと第一次世界大戦の戦場などを上手に絡める所はさすがである。
まずは冒頭のシーン。当然、オペラでは「序曲」がかかるわけだが、映画でもこの序曲の有名なハーモニーで始まり、序曲から第1幕の序「神様、お助け下さい」までが、そのまま一気に流れるのだが、圧巻は冒頭の序曲の3分ほどの曲の間のシーン。
場面は美しく映える緑の草原を写し出したかと思うと、そこから一気に第一次大戦化の戦場へと変わり、塹壕を激しく動き回る兵士達を写し出したかと思ったら、カメラは一気に上空へと舞い上がり、累々と続く緑の草原の中の塹壕を写し出す。そして、その塹壕を延々と遡ると、軍隊の本隊へと繋がり、巨大な大砲軍が現れる。冒頭で出てきた伝令らしき兵隊が、軍隊の大将にその伝令を伝えると、大将の合図と共に、軍楽隊が「魔笛」のメインテーマを奏で始めると、空には軍用機が雲の間から現れて、前線へとまた一気に昇っていくと、前線の兵士が砲弾の中を塹壕を出て突撃を始める。
この冒頭のシーンは圧倒されてしまった。あの「魔笛」の序曲でこんなシーンを描こうとは想像だにしなかった。そもそも、オペラでは序曲はまだ幕が開く前に奏でられる曲である。序曲のテーマで一気に聴衆を引き込む訳であるが、それをこれほどの圧倒的な戦場の映像をCGまで駆使して見せつけるとはさすがである。
その後はこの映像とオペラの見事な融合が続くのだが、その映像の美しさに魅了される。そこにモーツアルトの天才的な楽曲が重なる訳であるから見る者を引き込んでしまう。
物語を簡単に紹介すると(カッコ書きは原作の設定)、
戦場で味方が混乱する中で、毒ガスの攻撃(大蛇に追われる)を受ける兵士タミーノは、夜の女王(リューボフ・ペトロヴァ)の三人の侍女に助けられる。タミーノが気絶している間に、侍女達と入れ替わりにもう一人の主人公で道化役のパパゲーノ(ベン・デイヴィス)が現れるが、彼を命の恩人だと勘違いしたタミーノにパパゲーノは調子に乗って自分が助けた事にして自慢話をするが、侍女達に見つかって、パパゲーノは外れないようにガスマスクを被される(口に鍵)。
三人の侍女に夜の女王の前に連れてこられたタミーノは、夜の女王の娘パミーナ(エイミー・カーソン)が暗黒卿(悪魔)のザラストロ(ルネ・パーペ)にさらわれたので取り返して欲しいと懇願される。
パミーナの写真を見て一目惚れしてしまったタミーノはパパゲーノと共に三人の少年に導かれパミーナ救出へと向かう。この際、夜の女王にタミーノは魔法の笛、パパゲーノはチャイム(銀の鈴)を渡される。
ザラストロの城塞(神殿)に入った二人だが、そこには戦争を嘆き平和を訴える指導者(高僧)としてのザラストロが民衆に慕われていた。タミーノは自分のザラストロに持った印象が間違っていた事に気づき彼に謝罪を請い許される。さらにはパミーナとも初めて出会い、そして二人とも恋に落ちる。
そこでザラストロは戦場に”楽園”をもたらす為(タミーノとパミーナの愛の絆を確かめる為)、3つの試練をタミーノに課して、またパパゲーノは自分も愛する女性が与えられると言う事で、一緒にその試練に参加する。
しかし、最初の沈黙の試練でお調子者のパパゲーノは脱落。タミーノは更なる試練に向かうが、パミーナはタミーノとの別れに絶望し、短剣で自殺を図ろうとするが、3人の少年に説得されて何とかタミーノと合流し、共に最後の試練に向かう為に激戦の戦場へと向かう(火と水の試練)。一方のパパゲーノは若い娘を与えられず独り身の寂しさを訴えるが、そこには老婆が現れ愛の誓いを迫る。嫌々ながらもパパゲーノがこれを承諾した途端に老婆はうら若きパパゲーナ(シルヴィア・モイ)に変身するが、どこかへと逃げてしまう。
絶望から首つり自殺を図ろうとしたパパゲーノだったが、また3人の少年の機転で救われて、パパゲーナに再会してめでたく結ばれる。
そんな折りに夜の女王は三人の侍女やザラストロに追放されたモノスタトス(トム・ランドル)を引き連れザラストロへ反撃に向かうが、敢えなく闇へを消えてしまう。
その後には試練を乗り越えたタミーノとパミーナにより、戦場に”楽園”がもたされていく。
映画はほぼ原作のオペラ通りに進行するが、セリフや歌曲の歌詞は全て英語(原作は独語)になっている。また、設定を第一次大戦に持って行く事で、このオペラの主題である「光と闇との闘い」を戦場における善と悪にうまく置き換える事で、現在の世界の混沌とした状況さえも透視した秀逸な演出になっていると思う。
冒頭の兵士タミーノが最初に襲われるのは大蛇ではなく、第一次大戦の悲惨な戦場の象徴とも言える毒ガスとした事で、その意図がはっきりと見て取れる。さらには指導者ザラストロと民衆との合唱付きアリアは、戦場で倒れた兵士の墓碑の前で行われているが、その墓碑には映画やアラビア語そして日本語などで戦死者の名前と年齢が書き込まれている。どこの国の人が見てもこの墓碑に刻まれている名前と年齢がわかるようにしたのだと思うが、日本人の死者の名前の横には”享年18歳、19歳”書かれてまだ若い青年が戦争の犠牲になっているのがわかる。民衆はその家族であるので、多様な人種が混じっている。つまり戦場で奪われる命は宗教や民族を超えて等しく尊いものであるというメッセージだ。その前でザラストロのアリアの歌詞も平和を祈るものになっている(原作はフリーメーソンの入信儀礼の祈願と言われる)。
戦場に一瞬の平和が訪れ敵味方関係なくクリスマスを祝うようなシーンがあるが、これも実際に第一次大戦中に起きたエピソード(「戦場のアリア」で映画化された)に基づいていると思われる。
こうした演出を加える事で現代の我々が見ても新鮮なメッセージを受け取る事の出来る作品になっている。
とはいうものの、この映画は「魔笛」そのものの魅力を余すところ無く描いている素晴らしいオペラと映画の融合だ。有名なアリアは全て印象的なシーンとともに再現されていて、思わず聞き入ってしまう。有名な夜の女王のアリア(無茶苦茶高い音域で歌わせるソプラノ歌手泣かせのアリア)でのヒステリックな表現や、パパゲーノのあの有名な「パッ!パッ!・・・」というアリアなんかのシーンは思わず爆笑してしまう。文字通り二人の”愛の巣”を作るシーンなんて劇場が爆笑の渦に巻き込まれた。
そして、見事に平和の訪れた最後の合唱では、見事な映像と共に戦場が緑の楽園と変わっていく。
その見事なラストに思わず立ち上がってブラボー!と叫びたくなったのは私だけではないだろう。前に座っていた上品なご婦人が「まあ何て素敵な映画を見せていただいたんでしょうか!」って言葉に思わずにやりとうなずいてしまった。
ちなみに当然の事ながら俳優陣は全て一流のオペラ歌手またはミュージカルの歌手。特に重要なザラストロ役のルネ・パーペは世界屈指のバス。音楽監督はジェームズ・コンロン。クラシックファンなら言わずと知れた全米屈指の名オペラ指揮者。
一流が集まったからこその素晴らしい作品になった。俳優としても結構みんなイケてるし・・・。
![]() | 映画「魔笛」オリジナル・サウンドトラックサントラ,ヨーロッパ室内管弦楽団,ジェイムズ・コンロン,ジョセフ・カイザー,エイミー・カーソン,ベン・ディヴィス,シルヴィア・モイ,ルネ・パーペ,リューボフ・ペドロヴァEMIミュージック・ジャパンこのアイテムの詳細を見る |
![]() | モーツァルト:魔笛 全曲スウィトナー(オトマール),ドレスデン・シュターツカペレ,ドレスデン聖十字架合唱団,ライプツィヒ放送合唱団,モーツァルト,アダム(テーオ),シュライアー(ペーター),フォーゲル(ジークフリート),ゲスティ(シルヴィア),ドナート(ヘレン)コロムビアミュージックエンタテインメントこのアイテムの詳細を見る |
とてもためになりました。
そうでなかったら、早めにパンフ買って読んでから観なくてはわからなかったかもしれません。
9月に2週間だけですが、上映されるようなので、是非行ってきたいと思います。
まずは素晴らしい映像!そこにあのモーツアルトの最高傑作オペラの音楽が重なったら、もう最高です。
私の前に座っていたご婦人の感想が全てのような気がします。
「何て素敵な映画でしょう!」
ぜひ鑑賞下さい!