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カオスの世紀

カオスとは「混沌」、そしてこの21世紀に生きる自分の混沌とした日常を気ままに書き綴っていきます。

「ジパング」完!(ネタバレ注意)

2009-11-05 | 読後感想
「ジパング」

かわぐちかいじ氏の作品で、「週刊モーニング」に連載されていたマンガです。
ジャンルで言えば「架空戦記もの」という事なんでしょうが、そのリアリティや物語の重厚さは人間ドラマとしても充分に読み応えのあるものでした。

海上自衛隊の最新鋭のイージス艦「みらい」。
ハワイ沖へ向けて海外派遣で航行中の「みらい」は不気味な嵐に巻き込まれて僚艦をロストしてしまう。その直後突然大艦隊が目の前に現れる。そこに浮かび上がった軍艦は第二次世界大戦の大日本帝国海軍の象徴「大和」だった。
第二次世界大戦の太平洋戦争真っ直中にタイムスリップをした「みらい」は自衛隊の「専守防衛」の理念を守りながらも否応なく戦争に巻き込まれていく。そして、一人の帝国海軍参謀、草加拓海少佐をみらい副長の角松洋介二佐が救い出し、その草加少佐がみらいの情報から日本の将来を知った事から、新しい日本「ジパング」を目指し始める事で歴史とは違う「未来」へと突き進んでいく。

最新鋭のイージス艦という事で太平洋戦争時代にはオーバーテクノロジーの兵器を持ちながらも、自衛隊が守るべき「専守防衛」の理念との葛藤が描かれています。専守防衛の為に武器の使用を許可されずに日本軍機の射撃を受けてヘリコプターのパイロットが”戦死”するシーンは深く考えさせられました。
イージス艦といえども燃料や補修などを行わなければそのポテンシャルを使う事が出来ず、巻き込まれる戦闘の中でみらいは傷つきミサイルなどの兵器も底をつき始めていき、最もイージス艦のアドバンテージとも言える電子戦兵器やイージスシステムが使用不能になっていく事で遂には1発の砲弾であっけなく沈んでいく。実にリアリティのある描写でした。

初めて米国空母からの艦載機の攻撃を受けた時に、イージスシステムのアドバンテージとも言えるロングレンジの攻撃を行う時に砲雷長の菊池三佐が弾薬の節約の為に戦力の半分のみにダメージを与える作戦を指示するのですが、実際は半分以上を叩かれても米国の艦爆機は攻撃を止めようとしない。そしてみらいに敵機が迫ったときに初めて自衛隊員としての自分の肉体が”戦闘”を理解していない事を悟ります。そして「敵を倒さなければやられる。その単純で明快な事実を我々は認めるのが遅すぎた」事で艦に甚大な被害が及んだ事でついには空母に対してトマホークでの先制攻撃を決意します。
この時にボタン一つでミサイルは空母の何千という乗員を巻き添えにしてしまう事実に打ちのめされる。こうしたリアルな自衛隊員が感じる思いを表現している事に感心しました。
実際に今は自衛隊がイラク派遣などで海外派遣される事があり、よく「テロリストは日本人かどうかなどは区別しない。武器を持っていれば攻撃される。そんな時になって「専守防衛」は何の意味も無くなる」、こうした事実が語られる時代を予見していたかのような描写でした。この空母攻撃はちょうどイラク派遣の前くらいだと思いますので、そうした時代背景も美味く盛り込まれていたと思います。

そしてもう一つ物語の後半で重要なキーワードで描かれるのが”核”です。
草加は米国よりも先に原爆を開発する為に奔走し、そして遂に完成します。そして、これを戦艦大和に搭載して米国艦隊の真ん中で起爆するように画策します。
原爆の悲劇を知る角松二佐は草加のこの暴挙を許さず、大和に積まれた原爆の解体の為に草加達が占拠する大和に命がけで乗り込みます。最後は「みらい」の最後に残された全ての能力を使い切っても原爆の使用を阻止しようとします。
草加は原爆が広島・長崎という都市に投下された後の核抑止による際どい安全保障体制にある戦後の世界を知りながら、敢えてこれを日本が最初に手にする事で米国との終戦工作に利用しようとします。
この攻防の中で草加は自らが描いた「ジパング」の未来絵図を角松に託します。その言葉が何だったのか?結局語られる事はありませんでした。
しかしながら、明確には書かれていないものの、大和の中で海中深くで炸裂した原爆を最後にこのもう一つの「未来」では米国で原爆の開発そして日本への投下を画策したルーズベルト大統領を米国に渡った角松が失脚させてこれを阻止して、早期に日米は講和を結びんだ事で、恐らく”核”は武器として使用されなかった事でその”抑止力”の効果も薄れて兵器として利用されなかったと思います。

恐らく「ジパング」では多くをこの草加の作った原爆の開発と、それを阻止しようとする角松達を描く事で可能性としての”核の無い世界”を描こうとしたのかもしれません。

そして作者が一番訴えたかった事は何か。「ジパング」とは?それは最後まで読んだ時に理解出来ました。

戦争を早期に終結させようとする意志において草加と角松は同じ思いで奮闘し、そして日本人があらゆる困難を乗り越えてこれを成し遂げた姿を描いています。

「日本人は手段や信念から互いにぶつかり鎬を削りつつも、結局あの戦争を講和に導いた。この国には危機を乗り越える力がある」

これは戦後に角松が言ったセリフです。この言葉に「ジパング」への思いが集約されているような気がします。草加が常に言っていた言葉「敗戦と米国の占領により国家としての自立と自由を失った今の日本を”憎む”」そして「四海に囲まれ独立し、力に満ちた美しい国」としての日本=ジパングを渇望した草加の思いが最後に実現した。そして今の日本の姿を見ながら作者が草加と同じ思いで渇望した日本の姿を描いたのでは無いか、と感じます。

タイムスリップものではありますが、タイム・パラドックスに陥る事は無く、もう一つの「未来」を創造しきったストーリー展開は秀逸で長い連載ながら飽きる事無く読み切る事が出来ました。

9年間の長い航海の最後に新しい日本で誕生した「みらい」の新たな旅立ちで幕を閉じました。新しいこの国の希望を作り出していくのは自分たち自身の夢と強い意志である事を強く感じた素晴らしい作品だと思います。

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (きたきた)
2016-05-17 11:56:24
ジパングの検索でたどり着きましたが、
これはわかりやすくて良い解説でした。
なんだかすっきりと理解できました。
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Unknown ()
2019-08-23 05:22:24
でも初期型原爆で当時の重装甲な艦隊に重大な打撃を与えることなんて出来るだろうか?
主力艦のほとんどは小破がやっとな気がする。
司令室にいる人は、窓の向きによってはまっ黒焦げだろうけど。
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