炎症性腸疾患の道標/高橋涼介[特別編]

潰瘍性大腸炎、クローン病の病態と治療法から最適な献立・一品料理を掲載。

食事療法の基本とエネルギーについて

2009-03-24 08:33:21 | 潰瘍性大腸炎・クローン病の人の食事
Q.成分栄養剤とはどのようなものですか。

A.成分栄養剤は、ほとんどの栄養剤が消化(分解)された形になっているものです。消化された栄養素は消化管に負担をかけずにそのまま吸収されるので、腸管に炎症がある場合も効率よく栄養を補給することができます。
たんぱく質を例にくわしく説明しましょう。たんぱく質を多く含む食品(肉や魚、大豆、卵、乳製品など)を食べると、アミノ酸またはアミノ酸が2~3個結合したペプチドにまで消化してから体内に吸収しますが、クローン病の人は、たんぱく質の一部がそのまま吸収されると考えられています。
小腸は、体に必要な栄養素は摂取しますが、有害な物質は体内に入らないように見張る賢い臓器です。小腸の壁は細かい網のようになっていて、必要なものと、そうでないものとをふるいにかけているのです。
しかし、クローン病の人の腸壁は目があらいとイメージしてみてください。そうすと、まだ充分に消化されていない栄養素(たんぱく質など)がそのまま体内に入りやすくなります。消化されていない栄養素は、体内で異物と認識されて攻撃対象となり、腸に炎症が起こる、と考えられています。
その点、成分栄養剤は、たんぱく質が完全に消化されたアミノ酸なので、体内にとり入れても異物とまちがわれず、腸管の安静が保てると考えられています。また近ごろは、クローン病に対するアミノ酸の効果も報告されています。そのほか成分栄養剤に含まれる栄養素は、炭水化物はデキストリン(炭水化物をさらに細かくしたもの)にまで消化されています。また、脂質は大豆に由来するもので、ビタミンは11種類、ミネラルは14種類入っています。

Q.潰瘍性大腸炎およびクローン病の人が一日に必要とするエネルギー量はどのくらいですか。

A.一日に必要なエネルギー量は、理想体重(標準体重)に対する必要エネルギーkcalとして求められます。
理想体重は、身長(m)2 X 22で算出します。身長が170cm(1.7m)の人は、1.7 X 1.7 X 2.2=63.6kgとなります。緩解期の潰瘍性大腸炎およびクローン病(以下IBDと略す)の人の一日に必要なエネルギー量は、理想体重1kgあたり約40kcal(一般の成人は28~30kcal)なので63.6 X 40=2544kcal。つまり身長170cmの人は、一日に必要なエネルギー量は2544kcalになります。事務所など激しい動作を必要としない場合や、炎症がないときは、体重1kgあたり約35kcalでもいいでしょう。

食事療法の基本とエネルギーについて

2009-03-23 23:27:30 | 潰瘍性大腸炎・クローン病の人の食事
Q.潰瘍性大腸炎とクローン病の食事療法の違いを教えてください。

A.大腸だけに発生する潰瘍性大腸炎は、小腸に多く発生するクローン病に比べて、食事で再燃(病状が再び悪化すること)は少ないといわれています。あまり神経質になる必要はありませんが、好き放題に食べていいというわけではありません。
クローン病では、食事が再燃や緩解(病状がおちつくこと)に深く関与するので、栄養療法(成分栄養剤や消化態栄養剤などを用いる療法 )を行ない、食事の基本をしっかり守ってください。それぞれの食事療法のポイントは次のとおりです。

潰瘍性大腸炎
・緩解期
①きびしい食事制限をする必要はありませんが、暴飲暴食や脂っこい食事は控えましょう。
また、刺激がある香辛料や、極端に熱いものや冷たいものも控えめにしましょう。
②下痢や腹痛、腹部膨満などが生じた経験がある食品は控えましょう。
③腸内環境を整えるために、プロバイオティクスっプレバイオティクスを積極的に摂取するようにしましょう。

・再燃時
緩解期の食事療法に加えて、低脂肪の食事を心がけましょう(クローン病の食事療法に準じます)。

クローン病
・緩解期
①栄養療法を続けましょう。成分栄養剤を一日に900~1200kcalとると再燃をおさえられることが明らかになっています。
②脂質は一日に30g以下に制限しましょう(日本人の成人の平均摂取量は60g)
③腸管に狭窄がなければ、食物繊維のきびしい制限は必要ありません。
④下痢や腹痛、腹部膨満などが生じた経験がある食品は控えましょう。
⑤腸内環境を整えるためにプロバイオティクスを摂取しましょう。

・再燃時
①食事量を減らし、その分、成分栄養剤を増やしましょう。
②2~3日。、場合によっては1~2週間、成分栄養剤だけにして絶食するのも効果的です。

潰瘍性大腸炎・クローン病の人の食事

2009-03-23 23:17:36 | 潰瘍性大腸炎・クローン病の人の食事
炎症性腸疾患の食事療法を必要とされる患者さんやご家族のかたは、毎日の食事作りにたいへんお困りになっているのではないでしょうか。
一般に、腸管の安静を保つための食事をきびしく制限する場合が多いのですが、食事療法は「制限」ではなく「適量」にすること、つまり、「自分の体に合った食事をとること」がたいせつです。
料理の記事では、栄養バランスがよく、おなかにやさすく、おいしい献立を集めました。また、体調に合わせて食事を選択できるように、脂質量別に献立を掲載していきたいと考えています。
献立掲載については最新の注意を払いますが、患者さん個人により病状は異なりので、主治医や栄養士に相談してください。また、そのときどきの病状に合わせて、素材や量を加減してください。毎日の食事が楽しく、そして食事療法を長続きさせて、よりよい状態が持続できるように切に願います。

過敏性腸症候群

2009-03-23 22:45:48 | 過敏性腸症候群
IBDとともに、近頃増加が著しいもう一つの腸疾患-過敏性腸症候群についても簡単に解説します。

近頃、社会生活の複雑化などに伴い、消化管のさまざまな症状(腹痛、下痢、便秘など)を持つ人が増えています。
その中で、腹痛と便通異常をおめな身体症状とする疾患群として、過敏性腸症候群(IBS=Irritable Bowel Syndrome)があります。過敏性腸症候群は、消化管に、症状を合理的に説明できる器質的疾患(傷やただれなど)がないにもかかわず、腹痛と便通異常をくり返す疾患です。その背景には、ストレスや自律神経異常が考えられます。
典型的な症状としては、朝、出勤しようとすると腹痛と下痢でトイレに行きたくなる、通勤時の電車の中などでも何回もこのような症状が起こるので急行に乗るのが怖くなる。しかし、休日になるといたって調子がよい、などというものです。
近ごろの調査では、一般内科を受信するすべての人の約30%は、よく話を聞くと、過敏性腸症候群に相当する症状を持つといいます。
治療面では、消化管運動の調節剤や便の性状改善剤が使われ、重症例などでは、抗うつ剤などを使用します。

・過敏性腸症候群の人の食事のポイント
過敏性腸症候群の人たちの生活を調査すると、生活が不規則で外食も多く、食事にあまり気をつかっていないことが多いようです。過敏性腸症候群の治療では、腸管のリズムをとり戻すことが重要です。食事時間はある程度規則的にして、食事内容にも配慮し、腸管の刺激を減らして下痢や便秘を防ぎ、腸内環境を改善することが重要です。
そのためには、下痢型の人は、潰瘍性大腸炎の緩解期に準じるような食事がいいでしょう。また便秘型の人は、野菜などの食物繊維を積極的にとる必要があると思われます。

・過敏性腸症候群のチェック

・下痢もしくは便秘が続いている(またはくり返す)
↓はい

・下記の症状が1つ以上ある
おなかが痛い
おなかが張っている
おなかがゴロゴロする
ガスがたまった感じがする
↓はい

・便に血が混じることがある
→はいの場合は結果Bへ ↓いいえ

・最近、体重が減少してきた
→はいの場合は結果Bへ ↓いいえ

・夜中におなかが痛くて目覚めることがある
→はいの場合は結果Bへ ↓いいえ

・ストレスなどで、症状がひどくなる
→はいの場合は結果Aへ ↓いいえの場合は結果Bへ

結果A
過敏性腸症候群の可能性があります。
結果B
器質的な胃腸疾患の可能性が疑われます。消化器医を受診してください。

クローン病について

2009-03-23 22:03:05 | クローン病
Q.クローン病の外科治療はどのように行なうのですか。

A.クローン病では、外科的な手術によって病変部を完全にとっても、再発しやすいことが知られています。そこで現在では、腸管の切除は必要最小限にとどめています。

Q.どのようなときに手術をするのですか。

A.腸閉塞、大出血、穿孔、腹膜炎などが合併したときには、手術が必要になります。内科治療だけでうまくいかないときや、狭窄や瘻孔などの合併症があるときも、状態に応じて手術を考えます。
また、肛門部に病変がある場合は患者さんの生活の質(QOL)に大きな影響を与えるので、複雑化しないうちに主治医に相談して適切な管理(場合によっては、切開排膿や、痔瘻をゴムなどでしばって徐々に切っていくシートン法など)を行ないます。シートン法で用いるドレーン(ゴム管のこと)の代わりに、特殊な糸で行う方法(クシャラ・スートラ法)などもあります。

Q.そのほかの治療法にはどのようなものがありますか。

A.近年、抗TNF-α抗体[製品名レミケード]が許可されました。
これは、遺伝子工学で作ったTNF-α(腫瘍壊死因子αといわれ、炎症を起こす物質)を中和しる抗体で、ヒトの遺伝子から作った部分が3/4、マウスからの部分が1/4となっており、点滴で用います。クローン病のほか、慢性関節リューマチなどでも使われていて、欧米では、リューマチなどて計20万例の投与が行なわれています。
日本では、従来のクローン病の治療に反応しない症例や瘻孔(痔瘻など)を伴う場合に、抗TNF-α抗体による治療に保険が適用されます。現在は、瘻孔の有無にかかわらず、まず3回投与を行ない、その後は、8週ごとに維持投与を行なうほうがよい、とされています。

活動期の治療効果は60~80%と高く、効果が現われるまでの期間は2週間程度と短いのが特徴です。1回の点滴で8週間ほど効き目が続きます。ただ、この治療が有効であった場合も、薬の効果が切れると再燃することが多いので、維持投与を行なわない場合はなんらかの緩解維持治療(栄養療法や免疫抑制剤を使用した治療)が必要です。
副作用としては、アレルギー反応(特に点滴時)と、感染症(TNF-αは感染防御にも必要な物質なので)がおもなものです。点滴後はかぜなどに特に注意し、体調をくずしたときは早めに主治医の診察を受ける必要があります。また、結核にも注意が必要です。
そのほかに開発中のものとして、完全にヒト型化した抗TNF-α抗体、白血球除去療法や抗IL-6レセプター抗体などがあります。

…おわりに…
潰瘍性大腸炎やクローン病の人は、日常生活をできるだけよい状態に保ちながら病気とうまくちき合う必要があります。そのためには、病状に応じた生活のコントロールや、食事への配慮が重要です。それらがうまくできるようになるば、けっして怖い病気ではありません。
患者さんが自分の病気について学び、病状を理解し、主治医はそるに対しても適切なアドバイスをするという関係になるたら、これらの病気に打ち勝つことができるのではないでしょうか。また、治療は長期にわたる場合が多いので、医師だけではなく栄養士や看護師、あるいはケースワーカー、そしてなによりも、風邪薬や職場、学校の関係者などの理解と協力がたいせつになると思います。

本記事を利用して、よりよい生活を送っていただければと思います。