K馬日記

映画や美術、小説などの作品鑑賞の感想を徒然なるままに綴っていきます。

アンドリュー・ヘイ『さざなみ』

2017年05月21日 | 映画
かなり暖かくなって来ましたね。これからくる梅雨の時期が憂鬱なただけーまです。

今回はアンドリュー・ヘイ監督の『さざなみ』です。原題は"45 years"、結婚45周年を迎えようときている夫婦の話です。夫の嘗ての恋人の影が、45年目を迎えた夫婦の心を波立たせる、繊細な人間の心を描いた作品です。




<Story>
土曜日に結婚45周年の記念パーティーを控えるジェフとケイト。しかし月曜日にある手紙が届いたことで、彼らの土曜日までの6日間は、45年の関係を大きく揺るがしていく。
山岳事故で死んでしまったかつての夫の恋人の揺るぎない存在が、突如として夫婦の関係に入り込んできたとき、夫は過去の恋愛の記憶を日毎に蘇生させ、妻は存在しない女への嫉妬心を夜毎重ねていく。それはやがて夫へのぬぐいきれない不信感へと肥大していくのだった…。
夫婦が重ねた45年とはいったい何だったのか?長い年月は互いの不信や嫉妬の感情を乗り越えることができないか?(『映画「さざなみ」公式サイト』より)


みなさんには、忘れられない恋人はいますか?昨今は、いくつかの恋愛遍歴の後に結婚する方が多いと思いますが、果たして人生最良の人とどのくらいの人が結婚できているのでしょう。
もし、過去の女性に未練のような想いを残していた場合、その想いは何年で消えるのでしょうか?本作では、そうした人間の複雑な心の機微が描かれています。



週末に結婚45周年記念パーティーを控えていたジェフとケイティ。そんな仲睦まじいふたりの元に届いた一通の手紙には、ジェフの嘗ての恋人カチャが氷漬けの遺体となって発見されたというものでした。それも、若い姿のまま。
まず波打つのはジェフの心。彼は夜な夜な嘗てのカチャとの写真を眺めて過ごすように。そして、最終的にはカチャの遺体を見に行くことを進言します。
しかし、ケイトにも45年連れ添った良き妻としての自負があります。恐る恐る、彼女が亡くならなかったら結婚したかと尋ねると、「した」と即答するジェフ。ケイトはジェフの心が離れていくのを止めることができず、とうとう、ジェフの昔の写真をこっそりプロジェクターで映写してしまいます。



そこに写されたのは到底敵わない「若くて」「妊娠した」カチャの姿でした。プロジェクターの電源を切るのと同時に、ケイトの心も愛情を失ってしまう(糸がプツンと切れるような演出)わけです。カチャとは子供をもうけてもケイトとはもうけない。ジェフのこれまでの選択の裏には、すべてカチャが潜んでいることを悟ったのでした。

そして迎える45周年記念パーティー。ジェフのスピーチでの愛の言葉も最後の社交ダンスも、すべて意味はないことを知っているケイト。それらはすべて、嘗てジェフがチェカとしたかった物事なのです。



「老いると選択肢が少なくなるが、若い頃の選択は間違ってはいない。ケイトとの結婚は正しい選択だった」というジェフのスピーチは一見感動的ではありますが、すべてカチャに置き換えられるだけでなく、ケイトと子供をもうけなかったことさえ肯定しているようにすら感じられてしまいます。
そもそも、選択肢に言及する時点で、ケイトにとっては恐ろしく配慮の足りない台詞でしょう。愛情に冷めたケイトのまっすぐな視線は、余りにも鬼気迫るものがあります。シャーロット・ランプリングの圧倒的な演技に思わず拍手。



永遠の愛の肯定は、真実の愛の否定にもつながるんですね。最早、愛情の存在さえ疑わしくなってくる、恐ろしいほど残酷な話でした。

まあ、元カノからもらったものはすべて処分するに越したことはないということですね。「物に罪はない」ですが「もらったことが罪」と考える人も居ますから。アーメン。


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