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K馬日記

映画や美術、小説などの作品鑑賞の感想を徒然なるままに綴っていきます。

『白鯨との闘い』

2016年01月21日 | 映画
こんばんは。いよいよ冬将軍がやってきましたね…みなさまあったかくして風邪をおひきになりませんように。



ロン・ハワード監督の『白鯨との闘い』を観てきましたのでその感想をば。白鯨と言えばもう作家ハーマン・メルヴィルの名前が出てくるわけですが、この映画はまさにそのメルヴィルが『白鯨』を書くきっかけとなった事件を描いた作品になります。

<Story>
1819年、一等航海士オーウェンは、21人の仲間とともに、捕鯨船エセックス号に乗り、太平洋を目指した。妻とまだ見ぬ子に「必ず帰る」と誓って。しかし、彼らを待ち受けていたのは巨大な白鯨。死闘の末、船を大破された彼らにさらなる試練が待ち受ける……。


白鯨事件の唯一の生き残りであるトーマス・ニカーソンにメルヴィルがヒアリングをする格好で、つまりは過去回想として物語は進んでいきます。
経験は浅いが船主の息子として船長を務めるジョージ・ポマードと、農家の生まれでありながら捕鯨漁のプロとして慕われる一級航海士のオーウェン・チェイス、そして語り手である乗組員のニカーソンを載せたエセックス号。白鯨との戦いもかなり迫力があって見応えがありますが、過酷な船の上の生活を通して変化していく人間関係もまた見所のひとつです。

冒頭、鯨油を求めに航海に出る男たちの冒険譚的なワクワク感から一気にストーリーに引き込まれ、次々に訪れる試練とところどころに挿入されるメルヴィルとニカーソンのやりとりで、2時間全く飽きずに観ることができます。

この映画で最も感じたのは、やはり圧倒的な自然という存在ですね。大海原で(鯨含めた)自然に翻弄される人間の姿が描写されていてとても良かった。また、ポマードが遭難した際に語る「人間は特別な存在なのに」的な台詞にも、神に近づき過ぎた傲慢な人間の姿が象徴されているようです。

去年公開されたキャッチイメージは、そうした人間の卑小さというものを痛感するようなものになっていて、非常に惹かれますね。





大きいものは怖い。しかし、その怖さは恐怖というよりも、どちらかというと畏怖という言葉の方が相応しい、そういったオソレなのです。
そうしたオソレは広く(古くはアルプスの山々に人間たちが感じてきた)「崇高(Sublime)」という概念に包含されます。

原題は"IN THE HEART OF THE SEA"なので、描きたかったのは鯨との戦いではなく、大いなる自然一般に対する人間のオソレ、或いは人間の卑小さを描きたかったのではないでしょうか。(なので邦題はあんまり好きではないです…)
白鯨とオーウェンの最後の戦いでは、白鯨の穏やかな目と対峙したオーウェンが、手にした銛を力なく手放すことで終わります。その穏やかな眼差しはまるで人間のようでもあり、その瞳の伝う懐の深さに自身の矮小さを感じたのではないでしょうか。

大いなる自然、或いはそれに類するものに対するオソレというものは、五感で感じ取れる以上のものを人々に与えてくれます。それは人類に共通のスピリチュアルな感覚ではないでしょうか。
なんて、そんなことを考えなくても、荒れ狂う海でのカメラワークや白鯨との攻防、遭難による心理描写など、素直に楽しむこともできる映画なので、みなさま是非ご鑑賞ください。

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