俺はいつものようにビールを飲む。
そして昔のことを思い出していた。
車の中で流れていたあの曲とあの雰囲気を。
ヒロコは言った。
「人の気持ちは当たり前にころころ変わるね。
その時の瞬間は感情になって、思い出になって、妄想になる。
妄想は都合の良い作品なんだけど、それで十分。」
「ふーん」
俺はちゃんと聞いていないフリをした。
俺は妻も娘も可愛いし、愛していると思っている。
だが、若い可愛い女の隣に座りたいし、変な雰囲気に適当に飲まれていたい。
一般的には同居すべきではない感情を持つのは罪なのだろうか。
いや、罪なのだろう。
「やっぱり生み出すことだと思うわけよ。
作品ね。それが独り歩きすることは全く構わない。
でもそこにある事実は揺るがない、それはすごく安心できるの。」
俺には全く分からない話を続けている、という表情をしながら、
俺はまた思い出していた。
なんとも言えない木漏れ日のような瞬間を。
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