春烙

寒いなあ…

四神伝 一章 四.朱雀<16>

2008年05月30日 00時26分46秒 | 四神伝 一章<完>
「うわっと!」
『何をしておるのか』
 翼乃と焔斬は、ミダラが呼び出した妖怪を戦っていた。
『もっと敵をよく見ろ』
「分かってる! わかってるけどな!!」
 妖怪を避けながら、翼乃はなぜか焦っていた。それに気づいたミダラはフッと笑みを浮かばせて、焔斬に告げた。
「朱雀は、こいつらに攻撃できない」
『なに?』
「分からなかったのか? 朱雀は気づいているというのに」
『どういうことじゃ』
 翼乃は焔斬を見ずに、語り出した。
「なあ、焔斬。妖魔につく妖怪がいるって、言っていたよな?」
『ああ』
「もし……それが無理矢理についたとしたら」
『!?』
「人には何かの弱みを持っているように。妖怪にも、弱みがあるんじゃないのか?」
 翼乃はミダラを見て、言った。
「その弱みに付け込んで味方にした。違うか!」
「それぞれ……というわけではないな。ほとんどの奴が、やってるからな」
『卑怯な!』
「何度でも言えばいいさ。おれ達にとって、貴様らはただの道具でしかなんだからな!」
「…お前らは……」
 翼乃はミダラを睨みつけていた。
「人間や妖怪を何だと思ってるんだ」
「言っただろ。ただの道具でしかないと」
「俺達は、道具じゃないっ!」
 翼乃の周りに、熱気が漂い出した。
「俺達は生きているんだ! お前ら、妖魔に決められたくないっ!!」
 見えない空気が、翼乃の身体を包み込み始める。
「俺には、こいつらの心の悲しみが分かる」
 周囲にいる妖怪たちを見て、翼乃が言った。
「心の悲しみだと? 笑わせるな。妖怪に心なんてないんだ」
「ちがう。人間も妖怪も、関係ない! 動かないものだって、心があるんだ!!」
 翼乃は涙を流して怒鳴りつけた。その涙は赤く染まり、まるで血の涙を流しているようであった。
「俺は、自由にする! 全てを生きるものを」
 翼乃の赤い目が、金色へと染まっていく。
「この世に生きていくもの達を、自由にしてみせるっ!!」
 その瞬間。翼乃の身体は、自分から出した炎に包み込まれてしまう。
 その炎は少しずつ、羽のような形へと変えていった……

「朱雀」
「なんでしょうか?」
 向き合う男女。

「お前は何のために振るんだ」
「さあ……考えたことがありませんので」
 朱雀は首を傾げていった。

「神器には、意がいるんだ。真の力を出すためにな」
「そうなのですか? じゃあ、考えないといけませんね」

「心配するな。俺がお前に似合う意を与えてやる」
「考えて、くれたのですか」

「お前の意は俺がつける、と決めていたからな」
「……うれしいです。それで、私の意は何でしょうか?」

「朱雀。お前の神器の意は――『自由』だ」
「自由?」

「そうだ。あらゆるものを解放していく、『自由』」
「良い、言葉です……」

「鳥とは、空を自由に羽ばたいていくからな……気に入ったか?」
「私のために、あなたが考えてくれたお言葉を気に入らないでどうするのですか?」
 朱雀は近づいて、腕を男の首にまわした。

「私はとても嬉しいよ、黄竜」
「我が愛しき人に喜んでくれてよかった」
 そう言って、黄竜は唇を朱雀のに重ねた。

 その会話は、とても懐かしく思えた――


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