春烙

寒いなあ…

四神伝 一章 四.朱雀<11>

2008年05月16日 00時11分56秒 | 四神伝 一章<完>
「それなんだけど……」
 長の話を聞いて、翼乃はもう一つの事実を話した。
「その闇の声を聞いていた時に、別の声が聞こえてきたんだ」
「別の声、ていいますと?」
「長の声より低くて……じじいのような口調だったか」
(じじいのような口調で悪かったな)
「そうそう、この声……」
 と言うと、翼乃は目を見開いて周りを見渡した。
「どうしたの?」
「今、聞こえたんだ!」
「聞こえなかったが」
「ええ」
「お前の声しか聞こえないぞ」
(この者達には、わしの声など聞こえぬ。たとえ、長でもな)
 翼乃が両手で耳を押さえても、その声は聞こえていた。
(耳を塞いでも無駄じゃ。脳に直接話しておるからな)
「よくっち、大丈夫?」
「あ、ああ(脳ってことは、心だろ! 誰だよ、一体!?)」
《あの方は、いつも主のそばに》
 と、弧鉄が話してきた。
「そばって、どこだよ」
 弧鉄の刃先を突付いて、翼乃は呟いた。
「誰と話してるんだよっ」
 壱鬼が言うと、翼乃は弧鉄を見せ。
「この短剣と」
『その武器は、意志を持っておる』
「いし?」
「人間で言う、感情のことです」
 アスカの頭を撫でて、水奈が答える。
『弧鉄は、持ち主の思いのまま姿を変える』
「それは、弧鉄が教えてくれました」
 翼乃が言うと、長は袖の懐から、赤・青・緑・黄色の玉を取り出した。
『これは宝玉(ほうぎょく)というて。弧鉄の穴にはめ込むとその色の属性を使うことができる』
「赤は炎玉(えんぎょく)、青は氷玉(ひょうぎょく)、緑は木玉(もくぎょく)、黄色は雷玉(らいぎょく)といいます」
『これを、お主にやろう』
 長は、四つの宝玉を翼乃に差し出す。
「俺に?」
『元々これは、朱雀であるお主のものじゃ。それに、他にも預かっておる物がある』
 長から宝玉を貰うと、翼乃は鮮やかな色を眺めていた。
《宝玉は、我が力の源》
(その四つ以外にも、宝玉はあるぞ)
「だから、誰だよ……」
 翼乃は呟くと、炎玉以外の宝玉をポケットにしまい込む。
「平気ですか、兄さん」
 倒れていた泳地を、水奈は肩を支えて立たせた。
「ああ、悪いな」
『泳地どのは、神器の意を見つけておられる』
「神器の、意?」
『そなたの手にもつ斧が神器じゃ。神器は四神にしか使えぬ武器。一人一人異なる形をしておろう』
「僕の弓や壱鬼君の槍もですか?」
 俺のはっと、翼乃は心の中で叫んだ。
『意とは、意味のこと。神器にはそれぞれ意がある。意を知った時、本当の姿へとなるのじゃ』
「本当の、姿……」
 翼乃は、白虎覚醒の時のことを思い出す。空間に閉じ込められ、どうすればいいのか考えていた時だった。翼乃の神器である大鎌が炎に包まれ、剣に変化したのは。
「(あれが、本当の姿なのか)」
(知らぬうちに、意を唱えたのじゃろう)
『さっ。奥の方でお休みなされ』
「それは、すみません」
 奥の部屋へと向かおうとした時、一人だけ、その場に動かずにいた。



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